2025年8月21日に米国と欧州連合(EU)が公表した貿易交渉に関する共同声明は、EUの脱炭素・サステナビリティ規制に対する米国の「懸念」にEUが配慮する約束を盛り込んだものとなった。

 米国とEUはこの共同声明で、ドナルド・トランプ米大統領と欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長が7月27日に会談で合意した内容を明確にした。米国がEU製品に対する関税を引き下げるに当たり、EUによる関税撤廃の手続き開始を条件とすることを明記したのが共同声明の主題だ。それに加えて、脱炭素・サステナビリティの分野でEUが米国に譲歩する内容も盛り込んだ。

「CBAM実施に当たりさらなる柔軟性を提供」

 共同声明は全体で19項目からなる。米国が自動車などのEU製品に課す関税の上限を15%とし、EU側では米国産の工業製品に課す関税を撤廃することを明記した。また、欧州企業が米国の戦略部門に対しトランプ大統領の現在の任期最終年となる28年までに6000億ドル(約89兆円)の追加投資を行うことも示した。

 共同声明で触れた脱炭素やサステナビリティに関わるEU制度の1つが「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」である。CBAMはEU域外からの鉄やアルミニウムなどの特定の製品を輸入するEU企業に、生産国での温室効果ガス排出量に応じた炭素価格の支払いを義務付けるもの。炭素価格の支払いはEU域内の輸入事業者だが、排出量が多い国からの輸入品の買い控えが起こる可能性が指摘されていた。米国とEUは共同声明に、「CBAMによる米国の中小企業に対する影響を、米国が懸念していることを欧州委員会が留意する」「欧州委員会は、CBAMの実施に当たってさらなる柔軟性を提供することを約束する」との文言を入れた。

共同声明を発表したドナルド・トランプ米大統領と欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長(写真=AP/アフロ)

共同声明を発表したドナルド・トランプ米大統領と欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長(写真=AP/アフロ)

 EUで23年に導入されたCBAMは、現在は試行的な運用中で、26年1月から本格運用する予定だ。だが25年2月、欧州委員会は、企業の制度対応の負担を軽減することを目的に、CBAMなどのサステナビリティ関連制度を見直す「オムニバス法案」を提案した。25年6月にはCBAM対象企業を減らす方針を公表。対象製品の年間輸入重量が50t未満の中小企業を免除し、23年の制度導入時と比べてCBAM対象企業数を約90%減らすとしていた。CBAM本格施行まで残り4カ月あまりとなったが、今回の共同声明により、対象企業をさらに見直すことになりそうだ。

 共同声明は他に、企業サステナビリティデューデリジェンス指令(CSDDD)や企業サステナビリティ報告指令(CSRD)にも触れた。CSDDDについては、「EUは、非EU加盟国の企業にCSDDD要件を課すに当たって、米国の懸念に対処するため、質の高い規制を整備する努力を約束する」との一文を盛り込んだ。「中小企業を含む企業の負担を軽減」するほか、「デューデリジェンスの不履行に対する統一された民事責任制度の要件」(関連記事:「CSDDD簡素化案、民事責任の規定を国別に 企業の訴訟リスク把握に課題も」)や、企業に義務付ける「気候変動の移行に関わる義務」の改正案を示すと明記した。欧州委員会は25年2月に提案したオムニバス法案に基づきCSDDDとCSRDの見直しを進めているが、これらも追加の見直しが見込まれる。

 共同声明は、EUで23年に成立した「森林破壊防止規則」(EUDR)の見直しにも触れた。CBAMやCSDDD、CSRD、EUDRのいずれも日本企業も対象となる。EUでの制度変更を巡る議論の行方を注視する必要がある。

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