新型コロナウイルスが感染症法上の「5類」に移行してから1年が過ぎた。コロナ禍中にコロナ専門病院として地域を支えた公立・公的病院は通常の診療体制に復帰した後も患者がなかなか戻らず、模索を続けている。こうした状況について、専門家は次の感染症の世界的流行に備えるためにも、病院の立て直しを支える仕組みの必要性を指摘する。(佐々木栄)診療所を訪問し、医師に患者紹介を依頼する大阪市立十三市民病院の堀島さん(左)ら(22日、大阪市淀川区で)=前田尚紀撮影診療所を訪問し、医師に患者紹介を依頼する大阪市立十三市民病院の堀島さん(左)ら(22日、大阪市淀川区で)=前田尚紀撮影

 「がん検診の体制がコロナ前の状態に戻りました。ぜひ患者さんを紹介していただければ」
 今月22日、大阪市立十三市民病院(大阪市淀川区)の事務職員、堀島昌治さん(44)らは、近くの消化器内科「うえだクリニック」を訪ね、上田
渉(わたる)
院長にアピールした。コロナ専門病院だった3年間に途絶えた関係の再構築に向けた「営業活動」の一環だ。
事務職員が診療所を回る「営業活動」で配ったチラシ事務職員が診療所を回る「営業活動」で配ったチラシ 同クリニックはコロナ前には月に約10人の患者を同病院に紹介していたが、現在は3人ほど。コロナ禍中に他の紹介先を開拓したためで「今は民間病院も含めて病気ごとに送り先を変えている」と上田院長は言う。 とはいえ、淀川区周辺では公立の十三市民病院への信頼感は根強い。「コロナ医療を率先してやってくれた。元に戻すのは大変だろうが頑張ってほしい」と、上田院長は病院の現状に理解を示し、堀島さんらをねぎらった。◇
 コロナ専門病院となった病院は、昨年5月8日の5類移行後も「一般の受診や入院ができない」と誤解され、その
払拭(ふっしょく)
に苦労してきた。また、専門病院になった際に退職した医師や看護師が戻りきっていないという課題も抱える。
 十三市民病院は2020年5月、当時の松井一郎・大阪市長らの意向を受け、軽症・中等症患者を受け入れるコロナ専門病院となった。263床をもつ総合病院だが、当時の入院患者約150人には転院してもらい、最大で90床のコロナ病床を運用。3年間で約2400人を受け入れた。 5類移行を機に19診療科での通常体制に戻したが、患者の足はすっかり遠のき、厳しい再スタートとなった。状況打開のため職員らは周辺2~3キロ四方にある約300の診療所を訪問。通常診療再開を伝えるチラシを配り、「また患者を紹介してほしい」と何度も頼み込んだ。 患者は戻りつつあるが、23年度はコロナ前の19年度比で入院患者数は4割、外来患者数は6割、手術件数は5割にとどまり、医療行為による収益は19年度の約4億円に比べると約2億3000万円と苦戦している。 倉井修病院長は「あと2年で19年度の水準に戻したい。感染症対応も担いながら途切れた地域との縁を結び直し、頼られる病院でありたい」と力を込める。◇ 同様に苦闘をする病院は他にもある。地域医療機能推進機構(JCHO)が運営する東京城東病院(東京都江東区、117床)だ。21年9月~22年9月にコロナ専門病院となったが、23年度の病床使用率は27%と低迷。医業収益は19年度比で52%に落ち込んでいる。 患者が減った影響で3病棟のうち2病棟で運用する状況が続く。中馬敦病院長は「受診患者や他院からの紹介は徐々に増えている。元の状態に戻るよう努力したい」と語る。「国の支援も必要」地域医療に詳しい城西大の伊関友伸教授(行政学)の話「コロナ医療を重点的に担った公的病院や大学病院はどこも患者が戻らず厳しい状況にある。中でもコロナ専門病院の打撃は著しい。今後の感染症の脅威を見据えると、病院の自助努力で埋まらない部分については国や自治体、運営母体が支援する仕組みを考えておく必要がある」◆コロナ専門病院=
コロナの入院患者への対応に特化した病院で、十三市民病院が先駆け。大阪府では他に2病院が協力した。東京都、神奈川、愛知両県にも設置されたが、自治体などが主導して設置したため、国は全国の実態を把握していない。