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 内容とそれほど関係のない自慢話から入ることをお許しいただきたい。朝起きたら、ホテルの部屋の窓から旧香川県立体育館が間近に見えて、テンションがぎゅん!と上がった。

屋根のトップライトのポツポツを初めてこんなにはっきりと見た!(写真:特記以外は宮沢洋)

 10月22日、5カ月ぶりに高松を訪れた。今回は高松駅近くのホテルではなく、高松から東へ約30分ほど歩いたところにある「ホテルパールガーデン」に泊まってみた。このホテルは旧香川県立体育館再生委員会が1回目の記者会見(2025年7月23日)を行った宴会場のあるホテルだ↓。この会見は、相棒の磯達雄が現地に取材に行き、筆者は東京で配信を見ながら記事を書いた(こちらの記事)。

2025年7月の会見の様子(写真:磯達雄)

右が筆者が宿泊したホテルパールガーデンの新館(2019年完成)。最上階の6階が、会見の開かれた宴会場。左に体育館が見える

 磯が宴会場の窓から撮った写真をずっとうらやましいと思っており(建築好きの哀しい競争心)、「宴会場から見えるなら客室からも見えるのでは?」と思ったのだ。部屋はネットで予約したので、前日にホテルに電話をして「体育館が見える部屋に泊まりたいです」と頼んでみた。数分待たされ、「満室なので難しそう」との答え。ダメか…とガッカリしたまま、当日22時ごろチェックイン。部屋の窓の外は真っ暗でよくわからなかった。目が覚めたら、眼下にこの光景↓が広がっていたのである。

 筆者(宮沢)には、その姿が「安心してください、残ってます!」と言っているように見えてならなかった。

 ここからが本題である。

 当サイトでは、「旧香川県立体育館」の解体工事中断が明らかになった直後の2026年9月4日から約40日間、緊急連載「旧香川県立体育館に思う──アーキテクトボイス50」を続けてきた(発起人:田根剛、佐々木睦朗、北山恒、宮沢洋)。しかし、香川県が工事再開の姿勢を変えなかったことから、調査期間の最終日(10月14日)に、42人目の石上純也氏で中断している。

 調査期間を終えた直後の10月15日、県は解体工事を再開した。訴訟の原告である旧香川県立体育館再生委員会(長田慶太委員長)が再三求めてきた知事らとの直接対話の場は、ついに設けられることがなかった。まずは建物内に使用されたアスベストの除去が始まり、本格的な解体に取り掛かるのは1か月以上先になるとみられる。

右の作業工程表には「内装解体工事 石綿除去」とある

 内装の工事なので、工事をやっているのかどうか、さっぱりわからなかった(人の出入りはあるので現場は動いている)。

四周がぐるっと白い塀で覆われている

仮囲いのコーナー部に、敷地内が見えるよう透明の板を用いているのに、その内側に塀を立てて見えなくしている。道義的にどうなのかと思う

「建築界はなめられている」と筆者が書いた今年5月の記事に使った写真。上の写真と同アングル。この写真のインパクトが強かったので、目隠しが強化されたのかも

 地上から見ても「安心してください、残ってます!」と言っているように見える。白い仮囲いで四方を囲まれている“囚われ感”がそう感じさせるのか。(「VIVANT」の見過ぎか…)

 今回、高松に行ったのは、現場の様子が見たかったのと、工事が再開されて気落ちしているだろうと思われる旧香川県立体育館再生委員会の長田慶太委員長を励ますためだった。

 会ってみると、長田氏は全く気落ちしていなかった。

これは昨年撮った長田氏の写真(今回は居酒屋で会ったので写真は出せず)。長田慶太(ながたけいた)氏のプロフィルは以下の通り。長田慶太建築要素代表、峰山往来文庫主宰。1975年香川県生まれ。1993年高松第一高等学校卒業。1998年成蹊大学法学部政治学科卒業。帰省後、不二アド入社。設計と現場監督を経て、2003年、長田慶太建築要素設立。高松市都市景観賞受賞2th /日本空間デザイン賞(現)受賞6th [silver award] 2013 [BEST100] 2017 / GOOD DESIGN賞3th [BEST100] 2016 /環境設備デザイン賞BE.2016 /日本建築学会作品選奨2017 / Japan-ness.ポンピドゥーセンター・メッス出展2017 /香川県文化芸術選奨2021 他

 前述のように、10月15日に解体工事は再開された。そして、県議会に出していた請願も10月16日に議会で否決された(賛成7、反対33)。

 なのに、長田氏はこれまで通り、エネルギッシュだった。係争中なので詳細は語れない(手の内は言えない)のだが、工事中断を実現させた「公金支出の差し止め」を求める裁判とは別の、工事停止「仮処分」を求める裁判に強い手応えを感じているのだという。

 正確に言うと、前者の裁判は原告が旧香川県立体育館再生委員会だが、後者の裁判は原告が体育館の近隣住民だ。原告は違うが、争う事実がほぼ同じなので、連携しつつ裁判が進められている。

 筆者も、体育館が残るとしたら、次の可能性は「仮処分」だろう、それしかない、と思っていた。だが、正直に言うと、「仮処分が認められるのは宝くじに当たるくらいの確率」と思っていた。ところが長田氏は、仮処分等のプロセスを含めての「体育館が残る確率」を「6割以上」と言うのである。居酒屋での話とはいえ、これにはびっくりした。

 その話を聞いた上で、改めて体育館を見ると「大丈夫!」とさらに力強く見える。建物を支える「支保工」が周囲に立ち上がらない限りは、この建物は壊せない。

 なぜ急に「支保工」というキーワードを入れて書いたかと言うと、筆者がこれまでほぼ書いてこなかった裁判のポイントの1つに「支保工の安全性」の話があるからだ。専門的な話になるので、これまで触れないできた。だが、いよいよ躯体に手を入れるかもしれないという段階になったので、そのこともざっくり書いておく。

 この建物は特殊な構造のために耐震補強が難しくて今の状況となっている。それと同じように、特殊な構造のため、「安全に解体する」のも並大抵ではない。

 構造の特殊性については、連載「アーキテクトボイス50」で構造家の小西泰孝氏がわかりすくまとめてくれたのでそれを引用する(太字部)。

 構造設計を担った岡本剛(1915~1994年)は、1.2m間隔に配置された吊りケーブルによる屋根を、最大約23m跳ね出した、梁せい8mにも及ぶプレストレストコンクリートの中空梁で支持し、それらをわずか4本のコンクリート大柱で支える大胆な架構を実現しました。跳ね出し梁に生じる鉛直曲げモーメントを吊りケーブルの反力によって大きく軽減するなど、それぞれの構造要素が相互に作用する仕組みも非常に巧みに計画されています。

 まず、持ち上げられた船の胴体部分はプレストレストコンクリートでできている。「プレストレスト」というのは、コンクリートの中にワイヤを入れておいて両端で引っ張ることにより、コンクリートに常時、圧縮力を与えたものをいう。引っ張ると戻ろうとするから、コンクリートがぎゅっと固くなるわけだ。

2024年8月21日~9月17日に高松オルネ4階のオルネアートギャラリーで行われた「沈みゆく船からの手紙 旧香川県立体育館 発見された設計図展」の会場風景(写真:磯達雄)

同展で展示された構造家・岡本剛氏(1915~94)による構造図(部分)。筋肉のよう

 これを解体するには、コンクリートに埋め込まれた無数のワイヤの張力を緩めてから、切断しなければならない。もしギンギンに引っ張ったままの状態で切ったら爆裂することは小学生でも想像がつく。切らずとも、ワイヤを緩めただけでコンクリートが崩壊することも想像される。

 巨大なプレストレストコンクリートの梁を解体するだけでも難しいのに、この船は両側が片持ちで反り上がっている。切った部分が真下に落ちずに、外側に広がって落ちようとする挙動は、これも小学生でも想像がつく。

 「支保工」というのは、構造物の荷重を一時的に支え、変形や崩壊を防ぐための仮設構造物のこと。ここは上部が持ち上げられているので、切断した部分を必ず仮設の台で受けなければならない。垂直の重みに耐えるだけでなく、外に広がろうとする力に耐えるものでなければならない。それはもう仮設とは言えないくらいの技術力が要求される。

 さらにいうと、小西氏の解説文のこの部分。「跳ね出し梁に生じる鉛直曲げモーメントを吊りケーブルの反力によって大きく軽減する」。

 これは屋根の吊りケーブルと片持ちの梁がバランスをとっているということで、屋根のケーブルを切ったら梁が崩壊するかもしれない。あれこれスリリング過ぎるのだ。そもそも県は、「倒壊したら緊急輸送道路を塞ぐから一刻も早く壊すのだ!」と言っているので、もし不測の事態があったら県の面子は丸潰れ。なんで合田工務店はこんなリスキーで、やり遂げても褒められない解体工事をやりたかったんだろうか。

 そんな話も裁判の争点になっており、そうしたあれこれが積み重なって長田氏の「6割以上」発言になっているようである。裁判の話になると、もはやこのサイトで何かできることもなさそうなので、こんなふうに皆さんにできるだけ本質を理解してもらうためのサポートを続けていきたい。

 ちなみに、高松では長田氏の前に保存運動の中心になっていたカワニシノリユキ氏(船の体育館 再生の会代表)にも会ってきた。長田氏にバトンを渡した後は表舞台に立っていないが、この建築への愛は一言ではいい表せないくらい強い。

 カワニシ氏は当サイトの「アーキテクトボイス50」が中断した翌日から、これを引き継く形で「旧香川県立体育館に思う」の連載を会のサイトでスタートした。

 深く関わった人間のみが知る貴重な情報が万歳だ。筆者が、県の一連の手続きの中で最も問題があると思っている「サウンディング型市場調査」(2021年)についても第3回で詳しく書いているので、休み休み読んでほしい(「どれも面白いけれど1話が長過ぎる」とナカニシ氏に言ったら笑っていた)。サウンディングの問題については筆者もいつか書きたいと思っている。

旧香川県立体育館に思う 第3部 市場調査という名の関門(2026年10月19日)

 当サイトの連載一覧に、カワニシ連載各回のリンクを張っておいたので、そちらものぞいてみてほしい。(宮沢洋)

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