史上初となった8年間の長期政権で、サッカー日本代表監督・森保一は何を考え、いかにして世界と戦ったのか。あの一戦の裏で下された「決断の真実」と彼の思考プロセスを記した、新刊『森保ノートの真実』より一部抜粋。第2回。

賞賛も批判も当たり前、国民の話題になることがうれしい
2022年カタールワールドカップ、日本は初戦のドイツ戦で見事な逆転劇を見せた。ところが第2戦のコスタリカ戦は攻めあぐね、逆に1点を奪われて手痛い敗戦を喫する。
グループ内で最も力が劣ると思われていたコスタリカだったが、やはりワールドカップは一筋縄ではいかなかった。落胆しているかと思われた森保一監督だったが、それまでよりも一層力強く言葉を発した。
「過ぎ去ったことは良かったことであれ良くなかったことであれ、すべてポジティブ変換して未来に生かす。今回も次の試合に向けてやっていきたいと思います」
グループリーグ最終戦に勝てば決勝トーナメント進出が決定する。しかし引き分け以下では敗退の可能性があった。その運命の第3戦、相手はグループ内でFIFAランクが最も高いスペインだった。森保監督が東京五輪の準決勝で敗れた因縁の相手でもある。
ドイツ、スペインというワールドカップ優勝の経験がある2カ国と同組になり、大会前は「グループリーグ突破は絶望的」と言われていた日本が奇跡を起こせるか。試合前日、森保監督は落ち着いた表情でこう語っていた。
「2020年東京オリンピックの準決勝でスペインに負けてしまったことは非常に残念で悔しい思い出です。選手も私も含めて、そこからまた成長を誓って今ここにいます。今度は我々が喜べるような結果を目指して戦いたいと思っています」
「力を出し切ってくれれば結果はついてくると思いますので、まずは自分たちの力を100パーセント発揮できるよう、思い切ってプレーしてほしいと思いますし、スタッフの1人として選手との関係作りをしていきたいと思います」
スペイン戦の90分間が終わった後は天国か地獄かに別れる、日本代表の4年間の集大成ともいえる極めて重い試合である。ところが会見で森保監督は別の次元で思考を巡らせていた。
「我々も2050年までにワールドカップで優勝するというところを目指しているなか、どのように目指していくべきかとまた明日教えてもらえる、学べると思いますので、勝利を目指すと共に、我々がどうあるべきかも考えながら試合に臨みたいと思います」
「明日のスペイン戦に臨めること、そしてこの状況を本当に幸せに思いますし、喜びと感じています。プレッシャーはなく、あるとすれば自分たちの力を発揮できるかどうかというところ、出し切れるかどうか。後悔することなくプレーできるかというプレッシャーはありますが、明日のスペイン戦も勝利を目指して、そしてグループリーグ突破を目指して戦えるということしか考えていません」
決着がついたあと、自分に向けられる声が気にならないのだろうか。決勝トーナメント進出を果たせば日本中が讃えるだろう。果たせなければ罵詈雑言が浴びせられるかもしれない。だが、森保監督はどちらの反応ですら歓迎するのである。
「賞賛も批判もそれが当たり前であり、我々がやっていることが国民のみなさんの話題になることがうれしい」
そしてこの一戦を前に選手にかけた言葉もいつもと同じであったと明かしている。
「かける言葉としてはこれまでの繰り返しです。明日非常に大切な一戦になると思いますが、目の前の一戦に最善の準備をして、全力を出して勝利を目指して戦うこと、これまでどおりやっていこうと選手に伝えたいと思います」
この底知れぬ落ち着いた態度が選手に伝播したことこそが、先制されても動じることなく逆転劇を演じて見せた最大の要因だろう。とにかく森保監督はどんな状況でも、態度も人との接し方も変えない。
そんな森保監督がどんなに選手を鼓舞しても、なかなか集中力が高まらない。そしてチームは敗戦を喫してしまう。次回は、そんな絶望的なときに森保監督がいかに振る舞ったかを振り返る。
独白×8年間の発言録、激闘の裏側!
「森保ノート」の真実。
森保一・森雅史著
幻冬舎刊
¥1,980
2018年の始動、コロナ禍の苦悩、カタールW 杯の歓喜と葛藤、二度の世代交代を経て挑んだ北中米W杯への道─。8 年間、日本の先頭に立ち続けた森保一監督の「独白」と、激闘の歴史を刻んだ8年間の「言葉の記録」で紐解く、森保ジャパンの全軌跡が記されている。
