米国のドナルド・トランプ大統領は2026年8月28日、「米国宇宙アカデミー(United States Space Academy)」の創設に向けた大統領令に署名した。

構想では、宇宙分野の技術教育にリーダーシップ育成や公共奉仕を組み合わせ、軍事・民生・商業の各領域を支える専門人材を育成する。

本記事では、米国宇宙アカデミーの構想や委員会が検討する制度の内容、米国が宇宙人材の育成を急ぐ背景について解説する。

米国宇宙アカデミー創設に向けた大統領令

今回の大統領令への署名により、米国宇宙アカデミーの創設に向けた具体的な制度設計が始動した。大統領令では、アカデミーの制度案を検討する「米国宇宙アカデミーに関する大統領委員会」 が設置された。

NASA ジョンソン宇宙センターNASA ジョンソン宇宙センター

大統領令では、宇宙を米国の国家安全保障、経済成長、科学的発見、技術革新にとって重要な領域と位置付けている。今後も宇宙探査や技術開発で主導的な立場を維持するには、次世代の人材を継続的に育成する仕組みが必要だとの認識を示した。

こうした人材育成を担う機関として構想されているのが、NASA主導の連邦アカデミー「米国宇宙アカデミー」である。今回設置された大統領委員会が、組織形態や教育制度、応募条件などの具体案を今後まとめていく。

つまり、大統領令だけでアカデミーの設置や開校が確定したわけではなく、大統領委員会が制度案をまとめた後、大統領の承認や必要な法整備を経たうえで、利用可能な予算の範囲内で実施されることになる。

NASA主導の委員会が制度を設計

「米国宇宙アカデミーに関する大統領委員会」には、NASAをはじめ、科学技術、経済、安全保障、予算、空軍などを担当する政府関係者が参加する。教育機関としての組織形態から、カリキュラムや応募要件、卒業後の服務義務まで、幅広い制度設計を担う。

NASA長官が委員会を主導

委員会の議長は、NASAのジャレッド・アイザックマン長官が務め、NASAのマット・アンダーソン副長官が、事務局長にあたるエグゼクティブ・ディレクターを担当する。

副議長には、大統領科学技術担当補佐官のマイケル・クラチオス氏と、大統領経済政策担当補佐官のケビン・ハセット氏が就く。このほか、国家安全保障、予算、空軍などを担当する政府関係者またはその代理人も加わる。

委員会は必要に応じて作業部会を設け、大学や産業界の専門家から意見を聴くこともできる。こうした仕組みにより、政府機関だけでなく、大学や産業界などの知見も制度設計に取り入れられる。

120日以内に制度案を提出

委員会は、大統領令への署名から120日以内に、アカデミー創設の具体案を大統領へ提出する。報告書には、主に次の内容が盛り込まれる。

内容

・組織形態、権限、認定制度、関係省庁との役割分担
・学位課程、実践訓練、リーダー育成を含むカリキュラム
・既存の連邦教育プログラムやパートナーシップ、協定との連携
・試行プログラムや提携など、創設に向けた準備策
・必要な法整備と実施スケジュール

組織形態については、NASAの内部にアカデミーを設置する案も検討対象となる。NASAの内部に設置するのか、それ以外の組織形態とするのかによって、必要となる行政措置や法整備なども変わる可能性がある。

服務義務や設置場所も検討

委員会は、卒業後に米軍または文民の連邦政府機関で勤務する服務義務についても制度案をまとめる。服務義務を課す対象や勤務期間、履行条件は、現時点では決まっていない。

応募条件については、国籍・市民権に関する要件、機密情報を扱うためのセキュリティー・クリアランス、政府職員または軍人としての身分要件などが検討項目に含まれている。これらは決定済みの入学条件ではなく、委員会が今後是非を判断する項目である。

恒久的な設置場所の選定方法も報告書に盛り込まれる予定で、開校時期、キャンパスの所在地、学生数、学費、予算規模についても、公式発表で明らかにされていない。

宇宙業界の人材マッチングサービス スぺジョブ 広告バナー[PR]

技術とリーダーシップを備えた宇宙人材を育成

米国宇宙アカデミーでは、宇宙分野の専門知識だけでなく、リーダーシップや規律、公共奉仕への責任を備えた人材を育成する方針が示されている。

ホワイトハウスによると、アカデミーは高度な技術教育にリーダーシップ育成、規律、公共奉仕を組み合わせる構想である。単に宇宙技術の専門知識を学ぶだけでなく、宇宙分野で指導的な役割を担える人材の育成を目指す。

また、米国が育成を重視する宇宙人材は技術者に限らない。大統領令では、次世代に育成すべき人材として、宇宙飛行士、科学者、エンジニア、運用担当者、起業家、公務員、軍人が挙げられている。

研究・開発に加え、宇宙ミッションの運用、新たな事業の創出、行政、安全保障など、軍事・民生を含む米国の幅広い宇宙活動を支える人材を育成する構想となっている。

なぜ米国宇宙アカデミーが必要なのか

ホワイトハウスは、宇宙探査や技術開発で主導的な立場を維持するには、優秀な人材を継続的に育成・定着させる必要があるとしている。一方、一部の先端技術分野では教育プログラムや卒業者が十分ではなく、人材育成基盤の強化が課題となっている。

こうした課題は、米国が安全保障や月探査、商業宇宙などへ活動を広げるなか、重要性を増している。

商業利用を超えて宇宙活動が拡大

米国は近年、宇宙分野への取り組みを幅広く強化している。代表的な動きとして、安全保障、宇宙探査、商業利用の各分野で政策や事業が拡大している。

安全保障では、トランプ政権第1期に米宇宙軍を創設し、宇宙を独立した作戦領域として扱う体制を整備した。

宇宙探査では、NASAがアルテミス計画を進めており、2026年4月には有人宇宙船「Orion」によるArtemis IIで、50年以上ぶりとなる有人月周回飛行を実施。

商業分野でも、2025年8月には商業宇宙産業の競争を促進する大統領令を発出し、民間企業による宇宙活動の拡大を後押ししている。さらに同年12月には、探査、安全保障、商業の各分野で米国の宇宙における優位性を強化する方針を示した。

NASAのアイザックマン長官も、今後の取り組みとして、宇宙飛行士の月面再着陸や月面拠点、原子力利用、軌道上経済の拡大、科学ミッションの増加を挙げている。米国の宇宙活動が軍事・民生・商業など各分野で広がるなか、それを支える人材を継続的に確保する重要性も高まっている。

国家宇宙輸送政策でも人材基盤を重視

宇宙活動の拡大を支えるうえでは、打ち上げや再突入を担う宇宙輸送分野でも人材基盤の強化が求められている。

トランプ大統領は今回の署名に先立つ8月20日、新たな国家宇宙輸送政策を定める国家安全保障大統領覚書に署名した。同政策は、2030年までに米国内で年間1000回を超える打ち上げ・再突入を支えられる輸送体制を目標に掲げている。

その実現に向けて、射場や再突入施設などのインフラ整備だけでなく、人材育成・定着プログラム、軍務経験者の移行経路、政府と産業界の人材交流などを含む人材基盤の強化も求めている。

米国宇宙アカデミーとの直接的な制度連携は示されていないものの、両政策はいずれも、拡大する宇宙活動を支えるには、設備や技術とともに人材を継続的に確保することが重要という方向性を示している。

さいごに

米国宇宙アカデミー構想は、拡大する宇宙活動に備え、技術教育とリーダー育成、公共奉仕を組み合わせた人材育成制度を整えようとするものである。

ただし、現時点では制度設計の段階にあり、組織形態や学位制度、服務義務などは、今後提出される報告書で具体化される。

こうした考え方は、日本の宇宙業界にとっても参考になる。内閣府は「宇宙スキル標準」を公表し、文部科学省も専門人材や宇宙ビジネス人材の育成を進めている。今後は、これらの取り組みをどのように連携させ、組織を超えて人材や知見を蓄積していくかも重要な論点となる。

米国で検討される制度の内容は、日本に適した宇宙人材育成のあり方を考えるうえでも、一つの参考になるだろう。

宇宙業界では現在、様々な企業が人材を募集している。興味のある方は、業界特化型の転職プラットフォーム「スペジョブ」をぜひチェックしていただきたい。

スぺジョブ

参考資料

Share.