AIの演算能力を巡る競争が、チップ設計、データ伝送、エネルギー効率における技術的なハードルを押し上げ続けている。
エージェントAI、光コンピューティング、シリコンフォトニクスを用いた共実装光学(CPO)、そして量子コンピューティングが、世界の半導体スタートアップが覇権を争う新たな主戦場となりつつある。
台湾で9月に開催される「SEMICON Taiwan 2026」は、半導体スタートアップの出展規模を今年拡大する。40社以上の新興チームが集結する見通しだ。
さらに、台湾のMediaTekやUMC、韓国のSamsung Electronicsといった企業のベンチャーキャピタル(CVC)や、国際的な投資機関を招き、初めて「イノベーション・ベンチャーデー(Venture Day)」を開催する。最先端技術の公開展示から産業検証、投資マッチングに至るまでの商用化ルートの開拓を目指す考えだ。
「SEMICON Taiwan 2026」は8月31日のプレイベントフォーラムから開幕する。実地展示は9月2日から4日にかけて、台北南港展覧館(Taipei Nangang Exhibition Center)で開催される予定だ。
中でも、国際半導体製造装置材料協会(SEMI)が主催する「シリコン・スタートアップ・ゾーン(Silicon Startups Zone)」は、同展示館第2ホールの7階に設けられる。AI駆動システム、次世代コンピューティング、量子技術、シリコンフォトニクス、先端プロセス、先端パッケージング、持続可能な製造、半導体製造装置・材料といった幅広い技術領域が網羅される見込みだ。
展示チーム、6社から16社へ拡大
SEMIによると、今年のシリコン・スタートアップ・ゾーンには40社以上の半導体スタートアップが集結する。その中でAIコンピューティングが最大の技術カテゴリーを占めるという。
今回、CVC、ベンチャーキャピタル(VC)、アクセラレーターを初めてエコシステムに組み込んだ点も特徴だ。
同ゾーンは台湾の「科学研究起業計画」および「台湾テックアリーナ(TTA)」の支援を受けている。Silicon Catalyst、Plug and Play、仏CEA-Leti、ベルギーimec傘下のimec.venturesやimec.xpandといった国際的なパートナーとも提携しているという。
同ゾーンは「SEMICON Taiwan 2025」で初めて設立された。実際に「イノベーション・ショーケース(Innovation Showcase)」に出展するチームは、昨年の6社から今年は16社へと倍増した。
技術分野は先端プロセス、AIコンピューティング、シリコンフォトニクス、半導体テスト・測定、スマートマニュファクチャリング、量子コンピューティングに及ぶ。イノベーションの範囲も、チップ設計ツールからプロセス開発、先端パッケージング、インターコネクト技術、システムアーキテクチャへと広がっているという。
SEMIのグローバルマーケティング担当最高責任者(CMO)兼台湾地区社長の曹世綸氏は、「AIはかつてないスピードで半導体技術の進化を推進しており、イノベーションのサイクルも絶えず短縮している。企業が新技術や研究開発のトレンドを即座に把握できなければ、次なる成長の機会を逃す恐れがある」と指摘した。
さらに曹氏は、SEMIがグローバルなスタートアッププラットフォームを通じ、半導体スタートアップ、業界のリーダー、投資家、製造エコシステムを連携させ、企業が最先端技術をいち早く把握し、検証と協業を加速できるよう支援したいとの考えを示した。
エージェントAIがチップ設計に参入
半導体研究開発へのAI導入では、Leafy LabがエージェントAI(Agentic AI)と設計自動化技術を活用し、チップのテープアウト成功率を向上させる手法を展示する。
指示に基づいてコンテンツを生成する従来の生成AIとは異なり、エージェントAIはタスクをさらに細分化し、プロセスを計画してさまざまなツールを呼び出すことができる。
将来的には、電子設計自動化(EDA)やチップ開発プロセスに深く組み込まれ、エンジニアが複雑な設計作業を処理する時間を短縮する可能性があるという。
先端チップの設計の複雑さと開発コストが上昇し続ける中、テープアウトの結果が期待通りでなければ、製造コストの増加や製品の市場投入時期の遅れにつながりかねない。AIがエンジニアリングチームを支援し、設計上の問題を早期に発見できるかどうかが、業界の重要な応用方向となっている。
このほか、スタートアップのNabu Optical Systemsは、チップのプロトタイプ製造の観点から、投影リソグラフィと直接レーザー描画技術を組み合わせたマスクレス直接描画リソグラフィソリューションを開発している。
日本のスタートアップ、エレファンテック(Elephantech)は、銅ナノインク技術を活用し、高密度インターコネクトやガラス貫通電極(TGV)、次世代の先端パッケージング応用を推進する。半導体スタートアップの技術競争が、フロントエンドのチップ設計からバックエンドのパッケージングや異種統合へと広がっていることがうかがえる。
CPOと光コンピューティングに注目集まる
エージェントAIに加え、AIシステムのデータ伝送とエネルギー効率のボトルネックをいかに打破するかも、今回の重要な焦点となっている。
会期中の3日間にわたり開催される「シリコン・スタートアップ・ステージ(Silicon Startups Stage)」では、約40件のプレゼンテーションが予定されている。AIチップ設計とEDA、先端製造、先端パッケージングと異種統合、シリコンフォトニクスと量子技術、次世代AIコンピューティングアーキテクチャ、スマートマニュファクチャリング・サステナビリティ・工場施設技術という6つの主要テーマを網羅するという。
その中で、Neurophosは光プロセッサ(Optical Processing Unit:OPU)を中核に、高速かつ低消費電力のAI推論技術を展開する。Ayar Labsは、共実装光学(CPO)および光I/O(Optical I/O)技術を通じ、大規模AIシステムにおけるデータ伝送と帯域幅の需要に対応するという。
GPUやAIアクセラレータのクラスター規模が拡大し続ける中、システム性能に影響を与える要因は、単一チップの演算能力だけではなくなっている。チップ間やサーバー間でどう高速にデータを移動させるか、伝送プロセスで発生する消費電力も、AIインフラ拡張の制約となりつつある。
CPOは光学コンポーネントと演算・スイッチングチップをより緊密に統合することで、電気信号の伝送距離を短縮し、従来の電気的インターコネクトが直面している帯域幅と消費電力の課題を改善することを目的としているという。
量子コンピューティングの分野では、Quantum Motionが標準的なCMOSプロセスを利用して開発したシリコンスピン量子ビットアーキテクチャを展示する。既存の半導体製造の基盤を活用して量子チップの拡張性を高め、量子コンピューティングが研究室から大規模製造へと移行するための道筋を模索する取り組みだという。
初のベンチャーデー、新興企業10~12社が登壇へ
技術が研究室から抜け出せるかどうかは、その後の検証、顧客への導入、資金支援にかかっている。
半導体スタートアップの商用化における重要なピースを埋めるため、今年のSEMICON Taiwanでは初めて「イノベーション・ベンチャーデー」を企画した。同イベントは9月4日、非公開の招待制で開催される。半導体スタートアップ、CVC、VC、国際的なエコシステムパートナーを連携させる狙いがある。
午前の基調セッションには、Silicon Catalyst、Plug and Play、台湾証券取引所、MediaTek Innovation Fund、UMC Capital、TEL Venture Capital、Samsung Ventures、Lam Capitalなどの機関代表が招待される予定だ。スタートアップ育成、企業投資、資本市場の発展といった側面から、半導体スタートアップの投資トレンドや実務経験が共有されるという。
このうち、MediaTek Innovation Fund、UMC Capital、Samsung Venturesは、それぞれMediaTek、UMC、Samsung Electronicsという産業的背景を持つ。TEL Venture CapitalとLam Capitalは、それぞれ東京エレクトロンやラムリサーチといった半導体製造装置メーカーと連携している。
半導体企業にとってスタートアップへの投資は、財務的リターンを求めるだけでなく、最先端技術に早期に触れ、社内の研究開発体制を補完し、戦略的な協力関係を築くといった意義も持っているという。
イノベーション・ベンチャーデーの昼にはCVCランチョンも開催され、SEMIハイテクイノベーション・投資委員会、グローバルCVC、エコシステムパートナーが集う。
午後のスタートアップ・ピッチセッションでは、潜在能力の高いスタートアップ10~12社が選出されて登壇する予定だ。半導体業界の経験を持つ委員会メンバーが審査を行い、各チームが投資や戦略的提携の機会に接続できるよう支援するという。
一般的なソフトウェアサービスと比較して、半導体スタートアップは研究開発サイクルが長く、テープアウトや設備コストが高く、顧客の検証プロセスが複雑であるといった課題に直面することが多い。
今回のSEMICON Taiwanがスタートアップの展示規模を拡大し、初めてVCとのマッチングを導入したことにおいて、真に注目すべき点は、最先端技術を市場にアピールできるかどうかだけではない。展示期間中の交流が、将来的にプロセス検証、サプライチェーンの協力、企業投資、そして実際の受注へと転換できるかどうかが問われている。
