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ある日は近所の人がお茶をしに立ち寄り、別の日は若者がZINEづくりに熱中する。
地域の人がまちの未来を相談している日もあれば、音楽イベントが開かれている日もある。
滋賀県高島市にあるTAKASHIMA BASEには、さまざまな人がそれぞれの楽しみを持ち寄ります。

TAKASHIMA BASE グリーンズ

築50年の古民家を改装したTAKASHIMA BASE

高島市は、平成の大合併のときに5町1村が合併してできた自治体。県内最大の面積でありながら市の人口は約45,000人、高齢化率は県内トップの37.9%(令和8年4月1日時点)です。
若者は外に出ていき、高齢化がどんどん進む。このまちは現在、市民の暮らしを支える福祉の需要の高まりに反して、担い手が足りないという課題を抱えています。

そんな高島市に2025年にオープンしたのが、カフェ、本屋、リソグラフ印刷所、コワーキングスペースとさまざまな顔を持つ複合拠点「TAKASHIMA BASE」です。運営を担う一般社団法人ぼくみんの瀬川航岸(せがわ・こうき)さんは、この場のキーワードを「“未だ”や“未完成”、“未来”を表す『未』」と教えてくれました。

「都市部に比べると、高島は何もないと言われる場所かもしれない。でも、そんな場所にこそ関わりしろや伸びしろがある。そういう場所から未来をつくっていこう」

そんな思いで営まれるこの場所は、2023年から少しずつ場を開き、2025年にリニューアルオープンしました。いま、たくさんの人が集い、ときに一緒に場をつくる、人やまちとつながる入り口のような場所になっているようです。

TAKASHIMA BASE グリーンズ

建具には「未」の字があしらわれている

「TAKASHIMA BASE」では、どんなことが起きていて、まちにはどんな変化が生まれているのでしょう。ディレクションを担い、この場所のオープンに際して自身も高島に移住した瀬川航岸さんと、立ち上げに深く関わっている西村武博(にしむら・たけひろ)さんにお話を伺いました。

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瀬川航岸(せがわ・こうき)〈写真左〉
1999年生まれ、滋賀県東近江市出身。2022年大学卒業後に一般社団法人ぼくみん/株式会社ぼくみんに入社。滋賀県高島市の「TAKASHIMA BASE」ディレクターとして、カフェ・書店・リソグラフ印刷所・コワーキングスペースを兼ね備えた同文化施設の運営や、イベント・プログラムの企画を手がける。出会いと対話から、ひとの可能性をひらき、地域の物語の編集に挑戦する。

西村武博(にしむら・たけひろ)〈写真右〉
株式会社Beスマイル 代表取締役。高島市介護サービス事業者協議会 会長。滋賀県介護サービス事業者協議会連合会 副会長。高島市で、認知症高齢者のためのグループホーム2カ所を運営。高島市内の介護事業所でつくる介護サービス事業者協議会(28法人79事業所加盟)の会長を12年間つとめている。行政や社会福祉協議会と、介護サービス事業者協議会を中心とする市内介護・福祉団体が、人材確保や災害時要配慮者支援などの地域課題解決に向けて連携できる、新しい企画や事業の運営にも取り組んでいる。

まちにひらく「未来のジャム」

TAKASHIMA BASEは、JR新旭駅から徒歩1分のところにあります。
インタビュー前、駅に到着した私たちに、瀬川さんがまちを案内してくれました。行き先は、世界的にも有名な湧水が湧く集落・針子地区や、カラオケ喫茶、酒蔵や珈琲屋さんなど、瀬川さんが普段から通っている場所です。

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JR新旭駅は、京都駅から新快速電車で約45分。駅前では、市内の神社で行われる馬祭り「七川祭り」の流鏑馬をモチーフにした像が迎えてくれる

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駅からほど近い針江地区。いたるところから水の流れる音が聞こえてくる。地面のわずか10〜20cm下に地下水脈が流れており、地域住民はこの湧水を「生水(しょうず)」と呼び、昔から大切に利活用してきた

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集落の水路を巡る水を生活用水に利用したシステム「川端(かばた)」。各家庭に湧き出す水で野菜を冷やしたり、飲料や炊事などに使ったり、日常生活に利用することで湧水を守ってきた

駅の近くには市役所や学校、飲食店もちらほらあり、一見すると便利なまちに見えますが、昨年、駅前のショッピングセンターが閉店したそう。こうした人口減少の影響は、暮らしにもあらわれています。

株式会社Beスマイル代表取締役の西村さんは、市内28法人79事業所が加盟する「介護サービス事業者協議会」の会長を12年間つとめています。長年、事業所同士のつながりをつくるとともに、行政の会議などにも参加するなかで、地域の高齢化や孤立、孤独が進んでいるというまちの課題に対して、福祉の視点からアプローチする方法を考えるように。2019年には他の法人によびかけて「小規模法人ネットワーク化協働事業」をスタートしました。これまで各法人で行っていた採用活動を、複数の法人で協力して行う活動です。

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株式会社Beスマイル代表取締役の西村さん

西村さん 高島の人口は減少し、介護福祉の業界は人材確保が難しい状況があります。他の市町村では、仕事や法人の魅力を伝えることが採用につながる部分もありますが、県内でも高島は陸の孤島のような感じ。このまちに適した人材確保のやり方が必要だと、市外へ向け、仕事の魅力に加えてまちの魅力や暮らしを伝える取り組みを始めました。

パンフレットとWEBサイトを制作し、コロナ禍の時期にオンラインでインターンシップを開催。行政とも連携し、会議を重ねました。しかし3年間活動しても採用にはつながらず、「福祉業界だけでやるのは限界かもしれない」と思い始めるように。その頃、この事業に関わってくれていたデザイナーを介して出会ったのが、一般社団法人ぼくみん・株式会社ぼくみん(以下、ぼくみん)代表の今津新之助さんでした。

ぼくみんは、京都を拠点にさまざまなものの「あいだ」に立って、対話と創造の場をつくる団体。「ソーシャルワーカー」という概念を、医療や福祉の世界から生活に身近なものとしてひらいていく社会実験プロジェクト「SOCIAL WORKERS LAB」や、領域を超えて実践的に学び合うプログラム「ふくしデザインゼミ」をはじめ、福祉や教育、まちづくりなどを軸にさまざまな出会いの場を創出しています。

西村さん そこで今津さんに「ひらいてみませんか」と言われたんです。これまでは、いつも同じ地域、世代、職種のメンバーで話していて、福祉業界の人たちが業界の言葉で課題感を伝えても、まちの人には響かなかった。そこをひらいてみるのが大事なのかなと思い、2022年に開催したのが「未来のジャム」というトークイベントです。

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「未来のジャム」の様子(写真提供:TAKASHIMA BASE)

ゲストの話を起点に、会場に集まった人たちが語り合うイベント「未来のジャム」は、まちづくりや福祉といった分かりやすい言葉を使わずに参加者を募りました。会場に集まったのは、市内外の人や、福祉やまちづくりに関心がある人、学生、企業、農家さんなど、約50名もの人。開催を重ねるうちに、西村さんたちは、未来のジャムを継続しながら、この場で生まれた熱を日常の変化につなげる拠点があればと考えるようになったそう。

文化の場を、一緒につくる

活動を続けるなかで現在TAKASHIMA BASEとしてひらいている古民家と出会い、2023年2月から借りることになりました。

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高島のまちは、冬になると雪が積もる。改装中は窓を取り外していたので、ビニールシートを張って寒さをしのぎながら会議をしたこともあったそう

まずは、この場所を拠点に、西村さんや介護福祉業界の人、行政や社会福祉協議会の職員など、元より関わりの濃いメンバーで会議やイベントを開きながら、少しずつ内装を整えていくことに。京都を拠点に活動していた瀬川さんが高島に通うリズムをつくりながら、まだ設備は必要最小限しかない状態で、週一回「場」を開くようになりました。並行して開催していたのは、高島を豊かにおもしろくするアイデアを形にする「ふくしデザインゼミLOCAL」や、高島のこれからを考える「たかしまデザイン会議」などのイベント。市内外の人がいろいろな視点から“高島らしさ”を見つけ、まちの未来を一緒に考える機会をつくり続けました。

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床張りワークショップの様子。場をつくる過程にもいろいろな人が関わることを大切にした(写真提供:TAKASHIMA BASE)

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「未来のジャム」も、TAKASHIMA BASEで開催するように(写真提供:TAKASHIMA BASE)

2年ほど経ち、継続して人が関わる状況が生まれたころ、瀬川さんは、全国から集まる書店・出版社の本と、高島の飲食がたのしめるマーケット「たかしまサーカス」を企画・開催します。

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大学では経営学を学び、絵本編集者を志していた瀬川さん。ぼくみんが主催するプロジェクトの一つ「SOCIAL WORKERS LAB」に関わったのがきっかけで入社。「たかしまサーカス」は、瀬川さんが初めて企画から運営まで一貫して担当したプロジェクト

瀬川さん 出会いをつくるとき、「文化の場」ってすごく大事だと思っていて。このまちには、映画館もなければ美術館や大学もありませんが、映画や音楽、本って世代関係なくみんなで一緒に楽しめるもの。ぼく自身、書店を目がけて旅行に行くこともありますが、本って人を呼ぶ引力があるなと思っていて。このまちにはそういうものが必要だと思い、各地の本屋さんや高島の人、同世代の人たちに声をかけて、場に関わってもらう環境をつくっていきました。

出店者を募るのと並行して行ったのは、TAKASHIMA BASEを通じて出会う機会が増えていった瀬川さんと同世代の若者たちへの呼びかけ。若者が参加するだけではなく、一緒につくるイベントにしたいという気持ちからでした。

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2025年2月22日に開催した、第一回たかしまサーカス(写真提供:TAKASHIMA BASE)

当日は大雪だったにもかかわらず、市内外から約350名もの人が集まったそう。
このイベントをきっかけに、瀬川さんは同世代の仲間とTAKASHIMA BASEをどんな場にしていきたいかを相談する機会をつくりはじめました。これまでまちづくりに興味がなかった人や、友だちができてこの場に通うようになった人など、集うみなさんの立場や背景がちがうからこそ、多様な視点の意見が出ました。

瀬川さん 「お金を払わずいられる場所って逆に怪しく感じない?」「分かりやすい用途があったほうがいろんな人が来やすいよね」という声や、「機能が複数あることで参加の自由度が高くなり、いろんな目的の人が来れるね」などさまざまな声があがるなかで、5月にカフェ、10月には本屋を開業し、リソグラフ(デジタル孔版印刷機)を置くことにしました。

オープン日は週に4日。お茶を飲みながら過ごす人もいれば、リソグラフで本や印刷物をつくる人もいる、日常の中で人が出会い、つながる場が育っていきました。

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本棚に並ぶのは約1000冊の本。よりよく生きるベースとなる本や、手にとって発見があるような本が選書されている

「あなたの視点」を大切につくる場

現在TAKASHIMA BASEには、ボランティアでたかしまサーカスなどのイベント運営に関わってくれる人が15〜20人います。日付が変わるまで話し合ったり、イベントのチラシをみんなで手分けして200ヶ所ほどにさっと配ったりするというから、その熱量に驚きます。

2025年9月〜12月の4ヶ月間で開催した「たかしまマッププロジェクト」は、デザインと編集を学びながら、「私のとっておきの高島」をテーマにZINEを制作するプロジェクト。29歳までの9名が参加し、それぞれが1冊の本をつくりました。

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「たかしまマッププロジェクト」の参加者は、高島出身者、移住者、働きに通う人などさまざま。制作中は、仕事終わりに深夜までインタビューの文字起こしをする参加者の姿もあったとか(写真提供:TAKASHIMA BASE)

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完成したZINE。テーマから製本のやり方に至るまで、人それぞれ(写真提供:TAKASHIMA BASE)

そんな風に、自分の楽しみを持ち寄りながら関わるみなさんは、いまではTAKASHIMA BASEを訪れた人に進んで話しかけたり、場所や人を紹介したりと、自然に人や場を「つなぐ」役割を担っているそう。

一方で、たくさんの人が集うということは、考え方や思いも人の数だけあるということ。それぞれの意見がぶつかるときは、どうしているのでしょう。

瀬川さん 例えば、いろいろな人が来ることに「むしろ、近づきにくくなります」って伝えてくれる方もいるんです。でも、この場の目的はそこにあるので「あなたが大事にしたいものを大事にするために、この場がどうあれば関わりたいと思うか」を話したり、みんなで考えたりしています。すると、話をしただけでスッキリする人もいるし、「思い描いている場をつくるには時間がかかるけれど…」と通う人もいる。深く話してみると「近づきにくくなる」という言葉だけでは捉えられない思いがあったということもあります。

TAKASHIMA BASEが大切にしているのは「あなたの視点」だからできる場をつくること。常識や一般的な意見よりも、立場や背景がちがう人が、それぞれの声を重ねて、ちがいを尊重しながら、行動していける場や地域になれば、という思いが根っこにあります。

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瀬川さん 自分は、高島で大切な人ができて初めて、体が勝手に動く経験があったんです。

高島ではいい意味で“お節介”に関わらざるを得ないというか、野菜をいただいたり、先回りして気遣ってくれたりすることに対してお返しをしているうちに、人間関係が築かれていて。ここで出会った漁師や農家の友人がとった食材でつくるごはんをみんなと食べる時間がすごく豊かだったり。そんな体験を人にさせてもらっているので、独り占めせずにみんなでやろうと思うんです。

みんなも、つながりが個人的なものじゃなくて、場と結びついているのかな。この場をつづけていきたいし、ここでの体験を次の人にもわたしたいって感覚を共有できているのかもしれません。

つながりの力で

最近では、仕事で高島に暮らす外国籍の人たちが、自国の民族衣装を着て料理を振る舞いながら地域やお互いを知る「ミャンマー食堂」が開かれたり、行政やさまざまな企業、団体が会議や研修の場に利用したりすることもあるというTAKASHIMA BASE。「未来のジャム」に参加するうちに同世代の友人ができた若者が、福祉の仕事に興味をもつようになり、西村さんの運営する施設に就職が決まるということも起きています。

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取材の間、カフェやリソグラフを利用する人、スタッフと談笑する人の姿が次々と。TAKASHIMA BASEは、訪れる人にとって職場や家以外の大切な居場所になっているようだ

全国の多くの自治体では、今後ますます人口が減少し、これまでの仕組みや制度では立ち行かなくなる状況に置かれています。高島も同様の状況にあるなかで、瀬川さんたちは「まちには可能性が溢れている」と捉えています。

瀬川さん 人口が増えていく前提でつくられた社会システムがいびつになっている中で、高島がどうモデルになっていくか考えたとき、僕たちは「つながりの力」が大事だと思っていて。日常的に世代や立場を超えて人がつながり、連携しているからこそ、人口という数字ではない、別のインパクトが生み出せるんじゃないかなと考えています。

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日常のつながりが、お互いの領域を超えて、新たなインパクトを生みだす。そんな動きはすでに始まっています。

2026年には市内の福祉法人との連携プロジェクト「ふくしデザインセンターたかしま」がスタート。ひらがなの「ふくし」は「ふだんの くらしの しあわせ」の頭文字。専門職が担う印象がつよい「福祉」を広げ、制度やサービスの枠を超え、誰もが「ふくし」に関わりながら地域社会をつくっていく試みです。東京都八王子市に本社を置く社会福祉法人武蔵野会とぼくみんとが2022年から取り組んできた「ふくしデザインセンター構想」を参考に、広報採用や人材育成、まちづくりまで、高島らしく総合的に実践していこうとしています。

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「『ふくしデザインセンターたかしま』は同じ市内の法人が肩を寄せ合い、連携しながら新しいものをつくっていこうとはじまったばかりのプロジェクト。いろいろな人の力や知恵を借りながらつくっていければ」と西村さん

西村さん 介護業界は制度ありきの業界なので、これまでは国の指針やガイドラインに沿って動いていたんです。でも、厚労省が示す「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」では、「大都市部」「一般市等」「中山間・人口減少地域」の3つの地域区分ごとに、地域の介護需要に合わせた展開を考えていくことが求められています。答えがあった時代から、誰も答えを知らないところに向かっていくのです。これからは、ひらかれた場に仲間が集まって、対話しながら、新しいものをつくっていくことが大事だし、TAKASHIMA BASEがその実践の場になっていけばと思っています。

 
TAKASHIMA BASEのオープンに合わせて高島に移住した瀬川さんは、深く関わりながら、高島の可能性をどう見ているのでしょう。「いま、話しながら思ったことなんですが」と、言葉を紡いでくれました。

瀬川さん あるものを信じてやっていこう、とは思っています。このまちを「何もない」って捉えるんじゃなくて、「何があるか」。それをどう可能性に変えていくかというときに、まちを編集する意識をもちつつ、ぼく自身もここで暮らす一人として思いっきり楽しんでいると、地域の資源が今までとちがう伝わり方や楽しみ方で広がっていく感じがあるんです。周りの人たちも、はじめはまちづくりに興味がなくても、まちに出て人や場所に出会っていく中で面白さを見つけていて。

目立っているものじゃなくても、普通に、何気なく「あるもの」の力を信じてほり起こしていくみたいなことが、高島式なのかな、と感じています。

やってダメなら、もう1回

TAKASHIMA BASEを通して、人が出会い、一緒に場をつくり、まちの中にはこれまでなかった関係が生まれはじめています。これからさらに取り組みたいことはあるのでしょうか。

TAKASHIMA BASE

この場はずっと「未完成」のままで、いまも自分たちで手を入れ続けているそう

瀬川さん 最近は、20代の人たちが個人事業を始めたり、副業でお菓子屋さんを始めたりということも起きていて。ここを起点に、まちでの挑戦やアクションに広がっていき、まちの景色がもっと賑やかになっていくことができればと思っています。もう一つは、メディアができるといいなと。高島市は広いので、そもそもここに来られない人もいるし、週4日の営業時間中に来られる人は限られてくる。そういう人たちとつながりをつくるときに、ポッドキャストなのか記事なのか、人の温もりが届くようなことができると面白くなっていくと思っています。

私たちにまちを案内するとき、最初にカラオケ喫茶に連れて行ってくれた瀬川さんは、いちばんにマイクを握り、場を温めてくれました。そんな風に自然と空気をつくる瀬川さんは、自身が高島のまちや人に向き合う気持ちが変化したきっかけの出来事を振り返ってくれました。

TAKASHIMA BASE グリーンズ

駅前のカラオケ喫茶。このあと筆者も常連の方と一緒に歌を歌わせてもらった

瀬川さん 実はぼく、人前で歌うのがめっちゃ苦手だったんです。得意じゃないことで恥ずかしい思いをするのが嫌でブレーキをかけていたんですけど、あるときスナックで出会ったおじさんが「どれだけ上手く歌おうとしてもプロには勝てないし、人の心を動かすってそういうことじゃない。今から歌うから見とけ!」って。正直、そのおじさんは音痴やったんですけど、周りの人は「わあっ!」って心を動かされていた。そのとき、自分がこのまちで「やってみよう」と感じる最初のきっかけをもらった感じがあって。

何かをやりたいって思ったとき、そんな風に一番身近でできることに挑戦してみることで、物事は動いていくと思っています。

自分が心を動かすから人も応えてくれて、等身大でいれば応えてくれる人がいることを、まずは体感することで分かるはず。人との関わり合いに安心感をもてるようになるには、できるようになるまでやる。やってダメなら、もう1回です。


TAKASHIMA BASE

長年ソフトテニスに打ち込んでいたという瀬川さん。移住してきてから、高島のお店に一軒一軒通うことを続けている

人口がどんどん減少し、自治体がこれまでのように機能できなくなる可能性に直面する中で、まちでの暮らしや未来はどうなっていくのか。答えのない問いに対して、自分の考えがはっきりとまとまっていなくても、話してみることから少しずつ前に進むことがある気がします。

瀬川さんが「あるものを信じてやっていく」と話していたように、「何があるか」でまちを見直すと、捉え方は変わってくるはず。そして、関わる人たちが「あなたはどう思う?」「何を大切にしている?」と、等身大で対話を重ね、価値観を共有しながら動いてみる。「ダメならもう一回」と、続けていくことで確かになっていく日常の中のつながりこそが、お互いの立場や領域をふわりと飛び越えて、未来をつくる鍵となっていくのではないでしょうか。

(撮影:水本光)
(編集:村崎恭子)

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