This post is also available in:

English

能登沖地震で大きな被害を受けた石川県で5月31日、国の特別天然記念物トキの放鳥が行われた。いったんは絶滅したが、新潟県佐渡市で野生復帰、繁殖が行われてきた。本州では初の放鳥となる。石川の空に、トキ復活のために生涯をかけた101歳の翁の夢がかなった。

佐渡で撮影されたトキの群れ(大山文兄撮影)

8羽のトキが石川の空へ

能登半島に位置する羽咋市で行われた放鳥式に、村本義雄さんの姿があった。101歳。70年以上にわたってトキ復活の活動を行ってきた。

トキ放鳥式で、本州初となるトキを放鳥される秋篠宮ご夫妻=5月31日午後、石川県羽咋市(鴨川一也撮影)

秋篠宮ご夫妻も出席する放鳥式で、8羽のトキは木箱のふたが開くと、元気よく飛び出し、数秒空を旋回した後、思い思いの方向に消えていった。

「私の一大事業を成し遂げることができた。トキ復活に駆けてきた夢がかなった」。村本さんは感無量の様子だった。

放鳥され、空を舞うトキ=5月31日、石川県羽咋市(鴨川一也撮影)

村本さんは羽咋市で生まれ育った。昔から鳥が好きで幼い時、かごに野鳥を飼っていたところ、蛇に食べられてしまう。鳥をかごに閉じ込めた自分の責任だと落ち込む村本さんに、父親は拾ってきたトキの羽を渡されたのをきっかけに、村本さんはトキに魅了される。当時、日常的にトキを見ることができた。

トキが石川の空を再び羽ばたくことを夢見てきた村本さん=2024年(杉浦美香撮影)

太平洋戦争に従軍し、ベトナムで約半年の捕虜生活を終えて戻ってきたとき、トキの数はわずかになっていた。トキは、植えたばかりの稲を踏みつけると農家にとっては害鳥扱いだった。また、農薬を使うなどの環境悪化でエサが少なくなり、トキの生活環境は悪化、ますます数が減っていった。

1970年、能登で生き残っていた最後のトキが捕獲され、保護の地となる佐渡に移送される。佐渡で人工繁殖が続けられたが、1981年に日本産のトキは絶滅してしまった。

中国との交流が育んだトキの繁殖

村本さんは、トキの復活を願って、野生のトキがいる中国・陝西省(せんせいしょう)との交流を深める。20数回にわたり訪中、トキ保護のために募金を届けるなどして、中国のトキ保護活動に尽力した。

その活動もあって1999年、中国から雄と雌のつがいが贈られる。佐渡で、人工繁殖が続けられ、2008年、初めて佐渡の地で放鳥された。この放鳥式にも、村本さんは招待され、今回と同様、秋篠宮ご夫妻の横にいた。

「トキの羽は、20年ごとに行われる伊勢神宮の式年遷宮の式典で使う太刀にも使われている大切な鳥だ。日本の歴史を途絶えさせてはいけないと思った」

トキを見たことがない子どもたちにトキについて知ってもらうため、自宅の敷地にトキの資料館を作った。

「トキが無事、石川で定着するのをこの目で見るまで、まだ死ねない」と話す。


Japan 2 Earth Masthead Banner
田んぼづくりでトキを応援

放鳥式の現場では、羽咋市でトキの餌場づくりに協力してきた農家、濱田栄治さんもトキの放鳥を見守っていた。

「トキも木箱の中は暑かっただろう。ストレスに負けずに元気に石川で生活してほしい」と語る。

トキが生息できる環境に優しい米作りを行ってきた濱田栄治さん=2024年(杉浦美香撮影)

濱田さんは羽咋市でいち早く、トキの餌場づくりに取り組んだ。もともと生物多様性を大切にする農業を行うために農薬や化学肥料を削減していたことから、県の依頼で、トキの餌場を確保するトキ認証米作りを3年前から実施してきた。羽咋では、協力農家は最初、濱田さんだけだった。今年は県が補助金を出すことを決め、協力農家が増え、対象となる田は濱田さんが始めたころの約8倍の500haになった。

佐渡島のトキ。トラクターのそばでもエサとりを行っている(大山文兄撮影)

能登沖地震の復興はまだ道半ばだ。トキ放鳥を復興のシンボルでもある。

「トキが石川で繁殖し、トキをきっかけに観光客が訪れるようになってほしい」

放鳥の翌日、濱田さんの田んぼにトキが飛来したという。知り合いの新聞記者が見せに来てくれた。濱田さんは自分の目でトキを確かめるのを心待ちにしている。

佐渡島のトキの群れ。真ん中はシギ。こんな光景が石川で見られるかもしれない(大山文兄撮影)

佐渡では約500羽に

5月31日の放鳥は、木箱を開けて外に出すハードリリースで行われた。第2弾は、残り10羽を約2週間、順化ケージで放鳥環境に馴らし、トキが自ら飛ぶのを待つソフトリリースで行うことになっている。計18羽のトキがどのように行動するのか。

本州初のトキの放鳥を見ようと集まった人たち=5月31日、石川県羽咋市(鴨川一也撮影)

佐渡では、放鳥と繁殖で野生下のトキは現在、約500羽にまで増えた。一度絶滅した種の復活は、並大抵の苦労ではなかった。膨大な時間と予算、トキへの理解、農家の協力、観察・保護活動を行うボランティア、そして村本さんらの市民の復活にかける熱い思いの賜物だ。

石川県と佐渡までの距離は約200~250km。トキが飛ぶことができる距離になる。小動物が豊富にある環境が整うことで、放鳥されたトキが佐渡と能登を行き来する時代がくるかもしれない。来年は、島根県出雲市で放鳥が予定されている。かつてのようにトキが日本各地で生息する、そんな時代の復活の一歩となってほしい。

佐渡のトキ。田植えされた田でエサを探している(大山文兄撮影)

筆者:杉浦美香(Japan 2 Earth編集長)

This post is also available in:

English

Continue Reading

Share.