「変わりつつあるのは、企業がそもそも移転しなければならなかった根本的な理由だ」と、ラバブルのオシカ氏は述べた。同氏は、AIによって事業拡大に必要な多額の資本が減り、ヨーロッパでより多くのスタートアップが成功を収め、VCマネーがそれに続くという「好循環」を予測する。「私たちはまさにその転換の始まりにいる」と彼は語った。
「大規模言語モデルと、それを取り巻くインフラは、研究アイデアから製品化までの期間を短縮し、ヨーロッパの強みが発揮されやすい環境をもたらした」と、セコイアのロブソン氏は語った。「ヨーロッパは常に卓越した研究力を持っていたが、今ではその研究力が、かつてないほど迅速に製品化されるようになっている」
資本の流れ
2025年、アメリカのスタートアップが調達した資金は、ヨーロッパのスタートアップの6倍に達したが、資本調達へのアクセスが改善しつつある兆候も見られる。アトミコ(Atomico)のデータによると、ヨーロッパのVCファンドの中央値は2016年以降3倍に拡大し、3200万ドル(約50億8800万円)から1億500万ドル(約238億5000万円)になった。
AI研究者のルカン氏は、メタ(Meta)を退社後の3月、パリを拠点とする自身の新たなAIスタートアップ、AMIラボのために10億ドル(約1590億円)を調達したと発表した。ルカン氏は、同社が「中国でもアメリカでもない」数少ない最先端AI研究ラボの一つになると述べた。OpenAIのヨーロッパ版とも呼ばれるミストラル(Mistral)は、2025年9月に20億ドル(約3180億円)というヨーロッパ最大級の資金調達ラウンドを発表した。
ロンドンの自動運転車企業ウェイブ(Wayve)のCEO、アレックス・ケンドール(Alex Kendall)氏も、現在「AIによって新たな市場が開きつつあるのを目の当たりにしている」と述べた。「ヨーロッパには非常に優れた研究力と技術力があり、それが今、成長のための資金と意欲に結びつきつつある」と彼は語った。
アレックス・ケンドール率いるウェイブは、イギリス史上最大規模の資金調達ラウンドの一つを実施した。Bloomberg/Getty Images
ケンドール氏は、企業価値評価や資本調達という点でヨーロッパはまだアメリカに遅れをとっているが、変化の兆しも見えていると述べた。
「世界最高峰のファンドが今、イギリスのような市場への投資を望み、現地にオフィスやゼネラルパートナーを設置して投資を行おうとしている」と彼は語った。「それらのファンドが、グローバル展開を目指す規模と野心を持つようになってきているのを感じる」
北欧らしさを備えたシリコンバレー
ヨーロッパのテック・ルネサンスの恩恵として、同大陸がアメリカの大手テック企業への人材供給地でなくなる可能性がある。レベリオ(Revelio)のデータによると、現在はアメリカからヨーロッパへ移動するテック人材の数が、その逆を上回っている。これはヨーロッパが優秀な人材の確保に優れているだけでなく、アメリカからの人材獲得にも成功していることを示している。
「5年前、トップクラスのAI研究者や創業期のエンジニアが最も重要な問題に取り組もうとすれば、サンフランシスコへの強い魅力を感じていた」と、セコイアのロブソン氏は語った。「その魅力は消えたわけではないが、弱まっている。なぜなら今や、パリ、ロンドン、チューリッヒ、ベルリンでも同じ問題に取り組んでいるからだ」
ストックホルムはテックハブとして台頭しており、「シリコン・ヴァルハラ(Silicon Valhalla)」と呼ぶ人もいる。スポティファイの創業地であり本社所在地でもあるこの都市は、ラバブル、クラーナ、レゴラなど、アメリカのライバル企業に真っ向から挑むテック企業を生み出してきた。
レゴラのプロダクトディレクター、エイドリアン・パーロウ(Adrian Parlow)氏は最近、アメリカからストックホルムに移住してレゴラに加わった。彼はストックホルムの雰囲気を「北欧らしさを備えたシリコンバレー」と表現し、それはつまり、自己主張が強すぎず、成長への意欲、勝利への意欲が溢れていることを意味すると語った。
誰もがこの考えに同意しているわけではない。YCの創業者ポール・グレアム(Paul Graham)氏はこの5月、ストックホルムには可能性があるとしながらも、野心ある創業者はやはりシリコンバレーを目指すべきだと述べた。
ヨーロッパへの人材流入を促し、かつ引き留める要因として、他にも様々な要素が働いている。
「H-1Bビザをめぐる問題が、人材流出につながっていることはわかっている」と、ロンドンを拠点とするインモーション・ベンチャーズ(Inmotion Ventures)のマネージングディレクター、マイク・スミード(Mike Smeed)氏は述べた。これは、毎年数千人のテック系労働者がアメリカでの就労のために取得するビザに対する、ドナルド・トランプ(Donald Trump)の締め付けに言及したものだ。Business Insiderが確認したデータによると、グーグル(Google)やアマゾン(Amazon)などのテック大手によるH-1Bビザの申請件数は2025年の年末に急減した。
創業者のフライホイール
成功は次の成功を生むことが多く、複数の創業者たちは、これこそがヨーロッパの好循環を生み出す鍵になると述べた。
「それが実現可能だと証明するための、初期の成功事例が必要だ」と、レゴラのパーロウ氏は言う。彼はスポティファイとクラーナを初期の大きな成功例として挙げ、それらがラバブルやレゴラのような企業に刺激を与えていると指摘する。「そして数年後には、レゴラが次の創業者たちの参考になり、『ああ、これは実現可能なんだ』と思わせる存在になるだろう」
セコイアのロブソン氏は、今日のトレンドは10年にわたる複利効果から生まれたものだと述べた。スタートアップを売却した創業者たちが、その経験と資金をエコシステムに還元してきた結果だという。
「2010年代にヨーロッパの企業を築き、そして売却した創業者世代はヨーロッパを去らなかった」と彼は言う。「彼らは留まり、人材を採用し、次世代を支援した。その勢いは今、10年前には考えられなかったほどに加速している」
なぜヨーロッパで起業しないのか。ヨーロッパ大陸には、生活の質に関する世界ランキングで常に上位にランキングする国がいくつかある。
フィンランドはその前提のもと、アメリカからテック及びAI人材を引き抜こうと積極的に動いている。
フィンランド大統領、アレクサンデル・ストゥブ。 Yauhen Yerchak/SOPA Images/LightRocket via Getty Images
「できるだけ多くの国際的なテック専門家をフィンランドに招きたい」と、フィンランドのアレクサンデル・ストゥブ(Alexander Stubb)大統領はアクセル・シュプリンガー・グローバル・ネットワーク(Axel Springer Global Network)を代表してポリティコ(Politico)に語った。「フィンランドはワークライフバランスが非常に優れている。世界トップクラスだ。質の高い学校があり、生活水準も高く、快適な暮らしを送ることができ、あらゆる面で安全だ」
インモーション・ベンチャーズのスミード氏は、同様の議論がヨーロッパの他の地域でも当てはまると言う。
「生活様式は素晴らしい。だから、人々がここに留まり、成長できる機会を提供すれば、当然そうしたいと思うだろう」と彼は言う。「ただし、そのための適切な環境を整えなければならない」
