
クリエイティブの力で世の中に新しい視点をもたらし、社会課題の解決に挑む博報堂の若手メンバーにフィーチャーする連載企画。今回は、和歌山県海南市で行われた「鈴木サミット」の事例をご紹介します。2019年入社の同期メンバーではじめて取り組んだという地域プロモーション。「苗字は観光資源になる」という気づきから生まれたユニークな施策の数々とは?
「鈴木サミット」とは

和歌山県海南市が、全国約176万人と言われる鈴木姓のルーツであることからはじまったイベント。2013年まで一部の鈴木姓関係者のみで開催されていたが、10年ぶりの開催となった2024年11月に大幅リニューアルされた。
人口減少や高齢化が課題。海南市をなんとか盛りあげたいという思いを受け取った
-鈴木サミットの企画を手がけることになったきっかけから教えてください。
河野:海南市との取り組みは、僕が関西支社に異動になったタイミングで同期の大川くん梶川くんとともに、自主プレゼンさせていただいたことからスタートしました。はじめは農業関連のプロジェクトだったのですが、その提案を評価していただき、鈴木サミットのご相談を受けることにつながったんです。
-海南市としてはどのような課題感があったのでしょう?
大川:もともと海南市は、紀州漆器などの工芸品やたわしをはじめとした棕梠(しゅろ)を使った日用品を多く生産していた場所で、高度経済成長期には家庭日用品の一大生産地だったんですよね。でも、安価な海外製品の流入などもあって環境は大きく変化し、現在は人口減少・高齢化といった課題に直面している地域。海南市をなんとか盛りあげたいという市役所の方の強い思いがありました。

河野:鈴木サミットは1998年に初開催され、20年以上の歴史がある会なのですが、2013年以降しばらく開催されていない状況だったんです。2024年に11年ぶりの開催が決まり、これを機に何かおもしろいことができないかというご相談でした。
-そもそも鈴木サミットとは?
大川:海南市は鈴木姓の故郷と言われている土地なんです。市内の藤白神社にある「鈴木屋敷」は、鈴木姓のルーツとされる場所。鈴木姓が全国に広がった歴史的な経緯は、熊野信仰を広めるため、藤白神社を拠点に鈴木氏が全国へ移動したことにあるとの説があります。
鈴木サミットは、もともとは鈴木という姓について研究している歴史学者などが集まり、海南市ゆかりの場所を巡って議論する学術的な場だったんです。2023年に「鈴木屋敷」の改修工事が完了したこともあり、このタイミングでもっと多くの人に知ってもらい、イベント自体を盛りあげたいという狙いがありました。
スローガンは「打倒佐藤」。全国の鈴木さんを振り向かせるキャッチーな企画を連発
-どんなことをポイントにプラニングを進めていったのでしょう?
大川:まず考えたのは「鈴木」という苗字自体が観光資源になるのではないかということ。 鈴木姓は全国に約176万人。その鈴木さんたち皆が「自分ごと化」できるユニークなニュースを届けられたら、海南市を知ってもらうきっかけになるのではと考えました。
そこで注目したのが、全国一位の「佐藤」姓。数で負けている佐藤さんを仮想ライバルに設定し、「打倒佐藤」というスローガンで企画を考えました。全国の鈴木さんが振り向いてくれるだけでなく、あわよくば「佐藤さん」も巻き込んで盛りあげられるのではないか、という狙いもありました。
河野:「打倒佐藤」というスローガンが韻を踏めていてキャッチーですし、コンセプトが決まってからは一気にアイデアが広がりました。

-具体的にはどのような企画を行ったのですか?
大川:鈴木屋敷の見学には通常300円の入場料が必要ですが、鈴木さんに限り0円。一方、佐藤さんは5万円とする鈴木贔屓の企画や、道の駅では「スズキの共食い・佐藤を喰らえ」という限定メニューも提供しました。魚のスズキを使ったランチで精をつけていただいて、食後には海南市のお菓子を添えて砂糖(=佐藤)も喰らっていただくという……。
実は、海南市はお菓子発祥の地とも言われているんです。砂糖がなかった時代に甘味として珍重されていた橘の木が、日本ではじめに植えられたのが海南市。橘本神社という神社にはお菓子の神様が祀られています。砂糖(=佐藤)という洒落なのですが、土地に根付いた企画にもなっているんです。
河野:ほかにも、道の駅にスズキ製の車・バイクで来た方に「鈴木大躍進」と書かれたステッカーを差しあげたり、藤白神社でお清めスプレーを配ったり、とにかく、盛りあげるためにはなんでもやる!という気概で企画を詰め込みました。

大川:イベントでは、佐藤姓発祥の地である栃木県佐野市から「佐藤の会」の方をお呼びして「鈴木さんvs佐藤さん討論会」という企画も開催しました。「佐藤の会」ではおしゃれなグッズをつくるなどして佐藤姓を盛りあげていらっしゃるので、それに対抗して僕らも鈴木姓を盛りあげる企画をプレゼンしたり。あとは、著名人の鈴木さんを「プロ鈴木」と称して、サミットに向けたメッセージを寄せていただく企画なども盛り込みました。
メディアに向けたPR活動が肝。「鈴木vs佐藤」のフレームはいまも生き続けている
-鈴木サミットに参加された方に向けてさまざまな施策を用意したということですが、全国的な認知度アップのためにはどのようなプラニングをされたのですか?
大川:放送局などメディアに向けたPR活動に力を入れました。地域発のユニークなイベントということで多くのメディアに注目していただき、全国放送の情報番組でも取り上げられたのはよかったですね。市役所の方も、ここまで全国的に話題になったのははじめてだと言って大変よろこんでくださいました。
「鈴木さんvs佐藤さん」という構図も気に入っていただけたようで、いまでも海南市と佐野市の交流が続いているんです。出場メンバーが全員「鈴木さん」と「佐藤さん」という草野球やサッカーの大会を開催したり、「天下分け目の鈴木vs佐藤合戦」と称して合同の移住セミナーを行なったり…。そういうふうに、僕らが関わらない部分でもこのアイデアが生き続けているのは、すごくうれしいことだと思っています。
-今回のような地域プロモーションに関わる仕事と通常のクライアントワークでは、どのような違い、もしくは共通点があると感じますか?
河野:コピーライターの視点としては、人に伝わり、さらに広がる表現というのは地域プロモーションでもクライアントワークでも変わらないんだと感じました。コアとなるコンセプトにしても企画にしても、「打倒佐藤」「鈴木贔屓」や「スズキの共食い・佐藤を喰らえ」のようにキャッチーな言葉に仕上げていくことで、ちゃんと「おもしろがって」もらうことができる。

大川:河野くんの書くコピーはキャッチーなだけでなく、こう書いたらこういうリアクションをもらえるだろうな、という視点でも考えられるので、きちんと拡散しやすく設計されているんですよね。デジタルネイティブらしい視点でアイデアを広げてくれるので心強いです。
アクティベーションプラナーとして今回僕が大切にしたのは、「社会に対してどう広がるか」まで設計すること。これは、いままでのクライアントワークで培った経験が生かされた部分だと思います。現場で体験できる人数が限られているからこそ、PRが大事。「鈴木vs佐藤」という構図や「苗字の観光資源化」といったキーワードなど、メディアが取りあげたくなるポイントを押さえてリリースすることにも注力しました。これは入社当時ではできないことだったと思いますし、クライアントワークで経験を積んだことが糧になっていると感じます。
生活者発想で地域のポテンシャルを発掘。いつか地元を盛りあげる企画に携わりたい
-地域活性化というソーシャルテーマに向き合った事例でしたが、この経験を通して今後チャレンジしたいことなどあれば教えてください。
河野:海南市との取り組みを通じて感じるのは、地域を元気づける活動はとてもおもしろいしやりがいがあるということ。クライアントワークでは売上がひとつの指針になりますが、地域活性化では話題にならないと意味がありません。そこにコミットしてチームで向き合えたことはとてもいい経験になりました。僕は生まれてから18歳まで宮崎で過ごしていたので、いつか地元の宮崎を盛りあげるような企画を考えて実行してみたいという気持ちがありますね。

大川:僕も実家が群馬県の草津温泉のあたりにあるので、河野くんと同じように、いつか地元に恩返しをしたい。今回海南市とお仕事させていただくことで「苗字が観光資源になる」という新たな発見がありました。意外な視点から新しい資源を見つけるなど、地域のポテンシャルを発掘することにこそ、僕らの生活者発想やクリエイティビティが生かせるはずだと思うんです。見つけた資源を言語化し、ビジュアル化し、広げるところまでトータルでできるのが僕らの強み。発掘したものを宝石のように磨きあげて、地域の活性化に貢献できたらうれしいです。
※肩書は取材当時のものです
