【5月20日 CNS】53兆4800億元(約1232兆1417億円)とは、どれほどの規模なのか。比較してみると、2025年に中国で域内総生産(GDP)が1兆元(約23兆393億円)を超えた29都市の経済規模は、合計で約60兆元(約1382兆3580億円)だった。この数字に迫る53兆4800億元は、中国工商銀行(ICBC)が最新の決算で発表した総資産額であり、同行は世界で初めて総資産50兆元(約1151兆9650億円)を突破した銀行となった。
この「世界一」のバランスシートは、「宇宙銀行」とも呼ばれる工商銀行にとって発展の節目であると同時に、中国の銀行業がどのように変わろうとしているのかを映す一つの例でもある。規模の上限が次々と押し上げられる中で、銀行は何を成長の軸にすべきなのか。業界はいま、その問いに向き合っている。世界の銀行業界で「規模の王者」となった工商銀行の決算は、二つのポイントを示している。一つは圧倒的な規模、もう一つは構造の変化だ。
まず規模を見ると、総資産53兆4800億元、営業収入8000億元(約18兆4314億円)超、純利益3707億元(約8兆5406億6円)という数字が、巨大銀行としての全体像を示している。招聯首席エコノミストで上海金融発展実験室副主任の董希淼(Dong Ximiao)氏は三里河中国経済観察に対し、「これは中国の銀行業が世界の金融地図の中で規模面のリーダーとしての地位を確立したことを示している。中国の銀行業がすでに世界金融市場の重要な参加者となり、世界規模で資源を配分し、総合金融サービスを提供する能力を備えていることも、一定程度示している」と述べた。
ただし、この決算は、銀行業全体で純金利マージンが縮小し続けているという大きな流れの中で見る必要がある。国家金融監督管理総局のデータによると、2025年第4四半期末時点で、商業銀行の純金利マージンは1.42%だった。ローンプライムレート(LPR)の引き下げ、既存貸出の金利見直し、預金獲得競争の激化などの影響により、2025年は国有大手6行の純金利収益率がいずれも低下した。純金利マージンは銀行収益の重要な指標であり、その低下は貸出の進め方やコスト管理に一段と高い要求を突き付けている。
2025年、工商銀行の純金利マージンは1.28%で、年初から14ベーシスポイント低下した。同行の頭取に当たる行長を務める劉珺(Liu Jun)氏は決算説明会で、「利ざやが徐々に縮小する環境の中で、プラス成長を実現することには一定の難しさがある」と述べた。一方で、低下幅は四半期ごとに縮小しており、安定に向かう傾向も見えていると強調した。
純金利マージンが縮小し、利息純収入の伸びが鈍る中で、工商銀行の2025年の非金利収入は11.8%増となり、成長を支える大きな力となった。このうち、手数料・コミッション純収入は1112億元(約2兆5619億円)で前年同期比1.6%増、その他の非金利収益は919億7300万元(約2兆1189億円)で22.6%増だった。2026年の重点業務について、劉珺氏は「世界一流の金融機関を目指すには、間接金融を中心とするバランスシートを土台にしながら、現代的な金融サービス業の構築に全面的に取り組む必要がある」と述べた。
銀行の収益モデルは、利ざやに頼る形から、より多様な収益源に支えられる形へと移りつつある。ウェルスマネジメント、投資銀行、資産管理、取引決済など、少ない自己資本で展開できる「軽資本」業務が、新たな利益成長分野になっている。建設銀行の生柳栄最高財務責任者も、能動的な負債管理を強化し、資産・負債構造を最適化し、顧客別の価格管理を進めることで、資産側と負債側の双方から改善余地を掘り起こし、純金利マージンの低下幅をさらに抑えられるとの見方を示した。
董希淼氏は、銀行は収入構造の見直しを急ぎ、ウェルスマネジメント、投資銀行、資産保管など、資本消費の少ない中間業務を大きく育てる必要があると指摘する。同時に、銀行の役割も「資金の仲介」から「サービスの仲介」へと転換すべきだという。特に大型銀行は総合金融サービスの提供者となり、顧客の価値創出を支えながら、多様な収入を得る方向へ進む必要がある。
次に構造を見ると、工商銀行の資産の中身は大きく変わりつつある。2025年末時点で、同行の法人向け貸出残高は18兆8400億元(約434兆604億円)に達し、前年末から1兆3600億元(約31兆3334億円)増加した。このうち、製造業向け貸出残高は5兆2400億元(約120兆7259億円)で19.4%増、科学技術関連貸出残高は6兆元(約138兆2358億円)、グリーンローンは6兆7000億元(約154兆3633億円)を超えた。
この18兆元(約414兆7074億円)規模の資金は、工業、科学技術、グリーン分野などをカバーするネットワークを形づくっている。融資はもはや単独の金融行為ではなく、産業チェーン全体をつなぎ、連動させるエコシステムの中核になりつつある。多くの商業銀行も同じ方向に進んでおり、新規融資をリスク耐性の高い質の高い分野に重点的に投じることで、新たな成長分野の前進によって、旧来型の景気循環がもたらす調整圧力を吸収しようとしている。
董希淼氏は、こうした動きについて「国家戦略に応えるだけでなく、銀行自身が持続可能な発展のために新たな成長余地を探るものでもある」と見る。有効な資金需要が不足し、一般産業の融資需要が飽和に向かう中、ハイエンド製造業、グリーン転換、科学技術イノベーションなどの分野には、巨大で長期的な資金需要があり、将来の優良資産の基盤になる可能性があるという。
同氏はまた、この流れは銀行にサービスモデルの革新とサービス能力の向上を促すと指摘する。新興分野、特に科学技術企業を支援するには、銀行に「未来を見る」力が求められる。融資判断も、担保に頼る従来型の発想から、企業の技術力や特許などの無形資産を評価する方向へ変わる必要がある。これは銀行の専門性を高める大きな転換でもある。
業界全体で見ると、商業銀行は規模とスピードだけを追う段階から離れ、非金利収入に支えられ、新しい質の生産力を方向性とし、精緻な管理によって安定を図る質の高い発展モデルへ移行している。董希淼氏は、「銀行は新たな発展の原動力と成長分野を探すだけでなく、精緻な管理、とりわけ負債側のコストを効果的に下げることで、利ざやの基本的な安定を保つ必要がある。同時に、リスクと収益のバランスを守り、強いリスク管理能力を土台として、発展と安全を両立させなければならない」と述べた。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News
