【5月19日 CNS】最近、タイ首相府前でひときわ注目を集める光景が見られた。アヌティン・チャーンウィーラクーン(Anutin Charnvirakul)首相がこれまで使用していたロールス・ロイス(Rolls-Royce)をやめ、中国の比亜迪汽車(BYD)製電気自動車(EV)を公用車として使い始めたのだ。車の乗り換えの背景には、経済的な事情がある。今年2月末に米国とイスラエルがイランを攻撃して以降、国際原油価格は上昇を続け、現在は1バレル110ドル(約1万7251円)を突破した。「バンコック・ポスト(Bangkok Post)」によると、原油輸入への依存度が高いタイでは、3月だけでディーゼル価格が約30%上昇した。

燃料価格の高騰は、企業の運営コストを押し上げ、市民の消費余力も大きく圧迫している。景気回復途上にあるタイ経済にとって、これは新たな重荷となり、回復をさらに難しくしている。こうした状況の中で、アヌティン首相が中国製EVに乗り換えたことには、明確な政策メッセージが込められている。エネルギー問題への対応において、電動化が重要な解決策の一つだという考えだ。

こうした動きはタイに限らない。東南アジアから欧州、中南米、中東に至るまで、高騰する燃料価格が世界中でEVへの関心を高めている。地政学的な衝突が引き起こしたエネルギーショックは、人びとの移動手段の選択を直接変えつつある。メディアによると、フィリピン・マニラの中国系EV販売店では、3月の受注が急増した。販売担当者は「2週間で以前の1か月分に匹敵する注文が入った」と語っている。

オーストラリアでも燃料価格の上昇を受け、長距離通勤をする人びとの間で「ガソリン代が負担になりすぎる」との声が広がっている。維持費が安く利便性も高い中国製EVへの関心が高まり、中国ブランドには多くの問い合わせが寄せられている。

2026年に入り、中国の新エネルギー車は海外市場で引き続き力強い成長を見せている。高いコストパフォーマンスに加え、スマート化技術で先行している点が競争力になっている。欧州では今年最初の2か月間で複数の中国ブランドEVの販売台数が大幅に増加した。ブラジルでは、今年2月、中国製EVが初めて小売販売台数トップに立った。

オーストラリア連邦自動車工業会のデータでも、今年2月、中国車の販売台数は2万2362台に達し、中国は初めてオーストラリア最大の新車輸入元となった。これは1998年以来、日本車が維持してきた首位の座を崩す結果となった。

一方、米国では中国製EVは「欲しくても買えない存在」になっている。ロイター通信が最近引用した調査によると、今後2年以内に車の購入を予定している米国人の約半数が、中国車について「非常にコストパフォーマンスが高い」または「極めて優れている」と評価した。しかし政策上の制限により、多くの消費者は米国内で中国製EVを購入できない状況にある。

かつては「ニッチな選択肢」に過ぎなかった中国EVが、海外市場で存在感を高めている背景には、「安くて実用的」という理由だけではなく、各国がエネルギー自立と脱炭素化を急ぐ必要に迫られていることがある。タイでは2022年にEV戦略を本格始動し、「2030年までにゼロエミッション車を自動車全体の30%にする」という目標を掲げた。これに合わせて、タイ投資委員会は完成車製造、電池システム、充電・交換インフラなどを対象に、多くの税制優遇策を打ち出している。

世界に目を向けても、主要経済圏はEV普及政策を加速させている。政策と市場の双方に後押しされる形で、世界のEV普及率は急速に上昇している。国際エネルギー機関(IEA)は以前、2030年の世界EV需要が4500万台に達すると試算していた。

現在、中国では上流のリチウム鉱山開発や材料研究から、中流の車載電池・完成車製造、下流の充電インフラやスマートサービスまで、EV産業チェーンがほぼ完結している。産業全体を通じた強みがもたらすコスト競争力と開発スピードは、他国が短期間で再現するのは難しい。世界市場に存在する大きな需要ギャップを、中国製EVが埋めつつある。

半世紀前、石油危機が日本車の世界的な躍進を後押ししたように、現在の新たなエネルギー転換の波の中で、電池技術と産業チェーンの優位性を持つ中国EVもまた、大きなチャンスの入り口に立っている。タイ首相の車の乗り換えは、一見すると小さな出来事に見える。しかしその背後には、エネルギー革命と産業構造の変化という大きな潮流がある。

時代の変化と中国製造業の技術革新が重なり合う中、市場はその価値を選び始めている。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News

 

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