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外務省の開発協力大綱改正、16年ぶりのJICA法改正を受け、日本のインパクト投資はグローバルサウス、とりわけアフリカへと向かおうとしている。

「案件」ではなく「市場」を作る。官と民の役割分担をどう設計するか?

3月23日、都内で開かれた「グローバルサウス官民共創インパクト投資フォーラム」には、金融機関、スタートアップ、国際機関の関係者ら約100名が集まった。GSG Impact JAPANナショナルパートナーが主催し、JICAとAVPNが後援する招待制イベントだ。

2つのパネルトークで交わされた議論から、日本のインパクト投資の現在地と課題を報告する。

ODAは「共創」の時代へ

開会挨拶に立ったGSG Impact JAPAN National Partner Chairの渋澤健さんは、インパクト投資の源流をG8時代にさかのぼりながら、現在50以上の国々に広がるGSG Impactのネットワークを概観。

外務省がGSG Impact本部に300万ドルを拠出し、アフリカ6カ国のインパクト投資エコシステム強化支援プロジェクトが始動していることを紹介した。

開会挨拶に立つGSG Impact JAPAN National Partner Chairの渋澤健さん開会挨拶に立つGSG Impact JAPAN National Partner Chairの渋澤健さん撮影:藏西隆介

ビデオメッセージを寄せたGSG Impact&Impact Taskforce Chairのニック・ハードさんは、48カ国に広がるネットワークのうち半数以上が新興国にあると説明。アフリカでは少なくとも3カ国で新たな投資ビークルの設計が進んでおり、「日本の外務省との連携は、いま最も重要なパートナーシップのひとつ」と強調した。

続いて登壇した外務省国際協力局長の今福孝男さんは、2023年の開発協力大綱改定のキーワードが「共創(コクリエーション)」であることを強調。従来の「あげもの」というイメージを脱し、日本側からも積極的に提案するオファー型協力へ舵を切る方針を示した。

さらに、2025年4月に16年ぶりに改正されたJICA法により、債務保証や債権引受が可能になったことにも触れ、「現場の皆様がどういうものがほしいか、ご意見をどしどしいただきたい」と呼びかけている。

インパクト投資の現在地と課題

パネルトーク第1部は、ジャーナリストの浜田敬子さんがモデレーターを務め、安間匡明さん(インパクト志向金融宣言事務局長)、小木曽麻里さん(SDGインパクトジャパンCo CEO)、細野恭平さん(株式会社ドリームインキュベータ取締役副社長)、平田仁さん(JICA上級審議役/GSG Impact JAPAN 理事)の4名が登壇する形で進行した。

パネルトーク第1部の登壇者。左から浜田敬子さん、安間匡明さん、小木曽麻里さん、細野恭平さん、平田仁さんパネルトーク第1部の登壇者。左から浜田敬子さん、安間匡明さん、小木曽麻里さん、細野恭平さん、平田仁さん

まず安間さんが、日本のインパクト投資市場が急成長した7つの要因を整理してみせた。

金融庁が「社会課題の解決とファイナンシャルリターンは両立する」と明確に打ち出したこと。PBR1倍割れへの危機感。地銀にとっての「社会課題解決なくして存在なし」という認識。バブル崩壊以来の社会的信頼の回復。生保の加入者意識の変化。そして2023年以降の骨太方針への明記。「この7つが非常に大きな要因だった」と安間さんは語る。

だが課題も残る。取り組みが一部の金融機関の一部の部局にとどまっていること。金額は増えていても、サステナビリティリンクローンなどデットファイナンスに偏り、リスクテイクの柔軟性が高いエクイティが不足していること。また、海外のプライベートエクイティに対する審査体制の弱さも課題であると、安間さんは指摘する。

では、現場の実感はどうか。小木曽さんはマイクロクレジットファンドを金融機関に提案した際の経験を明かす。

「内容を見る前に、『あそこの国うちダメなんです』と。ほとんどの国がグローバルサウスで切られてしまう」。これは情報格差の問題であり、セクター別の知見をもつGP(ファンド運用者)の育成が急務だという。

細野さんが語る途上国投資はさらに生々しい。「ベトナムで5社投資して、2社の社長が公安に逮捕された」。それでも、拡大できない最大の理由は「儲かる構造にまだなっていない」ことだと細野さんは断じる。リスクが高いから尻込みするのではなく、儲かる仕組みそのものが整っていないという見立てだ。

一方、平田さんはJICAが約1,000億円規模でインパクト投資を実施していることに触れ、JICA法改正によってその幅がさらに広がるとの展望を示した。

「案件ではなく市場を作る」。官民連携の可能性

議論が深まるにつれ、ひとつのキーワードが浮かび上がった。「案件」ではなく「市場」を作るという発想である。

細野さんはこう切り出す。「案件を作るんじゃなくて、市場を作っていく。我々の言葉でいうと産業プロデュースだ」。

「案件ではなく市場を作る」をキーワードに、官民連携のあり方をめぐる議論が交わされた。「案件ではなく市場を作る」をキーワードに、官民連携のあり方をめぐる議論が交わされた。撮影:藏西隆介

具体例がインドネシアの水素アンモニア案件で、JICAが三菱重工や川崎重工を引き合わせ、現地政府とのあいだでロードマップの策定を支援しているという。

こうした市場形成の土台にあるのが、相手国政府との長年の関係だ。平田さんが引き合いに出したのは、ケニア発のモバイル金融サービスM-Pesaの事例。

当時のイギリスのDFIDがボーダフォンにデリスキング資金を出しただけでなく、銀行以外がこのサービスを提供できるよう銀行当局への橋渡しまで担っていた。「そういう仕事はまさにJICAがやれることだ」と平田さんは言う。

そもそも、途上国が日本に求めるもの自体が変わってきている。細野さんは「この5年で明確に変わった」と実感を込める。「以前は『支援してくれ』だったのが、今は『日本企業を引っ張ってきてくれ』がJICAへのオーダーになっている」というのだ。

続けて安間さんはブレンディッドファイナンスに対する誤解も正した。

「JICAだけがリスクを取って、民間が儲けるように都合よく解釈している人もいるが、そうではない」。テクニカルアシスタンスの供与や環境社会配慮確認のコスト低減など、手法は多様にありうると説く。

インパクト測定(IMM)をめぐる議論も白熱した。

「途上国にはデータがない。監査費用が1社あたり20万円。ベンチャーにとっては相当大きい」と細野さんが課題を突きつけると、平田さんは「JICAはODAの効果測定で30年以上の蓄積がある。開発コンサルタントが活躍できるポテンシャルは大きい」と応じた。

なぜアフリカなのか、3つの危機感と現場の実践

パネルトーク第2部の冒頭、ガーナからGSG Impact Ghana National Partnerのアンマ・ラーティさんがビデオで登場。ガーナと西アフリカの年金資金を活用し中小企業への投資を促すCi Gabaファンド・オブ・ファンズ(7,500万ドル)の進捗を報告した。

パネルトーク第2部の登壇者。左から有馬嘉男さん、渋澤健さん、林禎二さん、馬場ちひろさん、金子洋介さんパネルトーク第2部の登壇者。左から有馬嘉男さん、渋澤健さん、林禎二さん、馬場ちひろさん、金子洋介さん撮影:藏西隆介

モデレーターの有馬さん(NHK「新プロジェクトX〜挑戦者たち〜」メインキャスター)が「そもそも、なぜアフリカである必要があるのか?」と切り出すと、渋澤さんは「3つの危機感がある」と切り出した。

第一に、日本の人口減少と逆ピラミッド化。若い世代が多いアフリカとは「パーフェクトマッチだ」という。

第二に、日本はミドルパワーとして「相手から求められたことにきちんと応えられる」国であるべきだが、「アフリカは日本にたくさん求めている。果たして応えられているのか」という問い。そして第三に、大きな組織のなかにも「アフリカをやりたい」という挑戦者は必ずいる。その人たちに光を当てなければ日本の未来はないという危機感だ。

「メイドイン・ジャパンで大成功した昭和。メイドバイ・ジャパンの平成。では令和は?」。渋澤さんの答えは「メイドウィズ・ジャパン」、すなわち共創のモデルだという。

官民連携がなぜ鍵を握るのか。渋澤さんはこう整理する。ひとつは「官が入ることで信用が高まること」もうひとつは、「ファーストロスを官が負担し、民間がリターンを上げられる構造をつくること」。精神論ではなく、仕組みの設計の話である。

現場の実践例も出た。SORA Technology株式会社 代表取締役 CEOの金子洋介さんは、衛星・ドローン・AIを使ってマラリア媒介蚊の発生地を特定する事業を紹介。JICAの事業に選定されたことが転機だったと振り返る。

「セレクションされたという信用創造が大きかった。そこから日本生命など民間投資につながった」。エコシステムは「回りはじめている」と金子さんは言い切る。

SORA Technology株式会社 代表取締役 CEOの金子洋介さん。衛星・ドローン・AIを活用したマラリア対策事業を紹介した。SORA Technology株式会社 代表取締役 CEOの金子洋介さん。衛星・ドローン・AIを活用したマラリア対策事業を紹介した。撮影:藏西隆介

三井住友信託銀行サステナブルビジネス部インパクトビジネス開発室 室長の馬場ちひろさんが強調したのは、ローカル投資家の育成だ。

「海外からの投資は一過性のトレンドに振り回されるリスクがある。気候変動が流行れば気候変動の資金は来るが、数年後には全然違うものになっている」。ローカルのニーズにローカルのお金が応える仕組みこそが重要だと馬場さんは訴える。

渋澤さんは自身の経験にも触れた。And Capitalのアフリカファンドを立ち上げた際、ある大手金融機関に「アフリカのアの時点でダメです」と門前払いされたという。

約100社を回り、出資に応じたのは7社。すべて事業法人だった。「アメリカに投資して損した金額と比べれば、ゼロが4つ小さいぐらいの金額でも十分アフリカではインパクトのあることができる」と、発想の転換を強調した。

「変わり目」に立って

各パネルの締めくくりで、登壇者それぞれが率直な言葉を残している。

安間さんは「リターンにこだわるなら、むしろ途上国に目を向けてほしい。そして人を張ってほしい」。

小木曽さんは「JICAさんが何がしたいのか、どのように協力しあえるのかが、少しわかりづらい。コミュニケーションが足りていない部分がある」とストレートにリクエストを投げた。

細野さんは「産業プロデュースがナイストゥハブ(あったらいいな)にとどまっている。目標設定とガバナンスの問題がある」と踏み込んだ。

第2部では、金子さんが「失敗しても目をつぶってほしい。100のうち99は失敗する。それでもマーケットから出てはいけない」と訴え、馬場さんは「ナレッジハブを作り、経験を共有する場が必要だ」と呼びかけた。

閉会挨拶に立ったGSG Impact アンバサダー 兼 GSG Impact JAPAN National Partner 副代表の鵜尾雅隆さんは、「3月23日、今日が大きな変わり目だ」と切り出した。

閉会挨拶に立つ鵜尾雅隆さん。『ここで日本が何か超えられると、これは世界の変わり目になる』と語った。閉会挨拶に立つ鵜尾雅隆さん。『ここで日本が何か超えられると、これは世界の変わり目になる』と語った。撮影:藏西隆介

ODAが変わり目にある。インパクト投資もまだ変わり目の途上にある。そして日本の未来にとっても、いまが変わり目なのだと。

「ここで日本が何か超えられると、これは世界の変わり目になる」。

(取材・文・撮影:藏西隆介)

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