トップニュース蔡英文・頼清徳両氏が主導、次なるTSMC狙う台湾「量子代表チーム」の全貌
台湾には「量子国家代表チーム」が存在し、5年前から次世代の「護国神山(台湾経済の支柱)」構築に向けた布石を打っている。(写真/台湾総統府提供)
人工知能(AI)ブームが世界を席巻し、台湾の株式市場が上昇を続ける中、ある海外のフィンテック企業幹部は「台湾はすでにAIハードウェアの代名詞となっている」と感嘆の声を上げた。しかし、台湾は半導体の優位性を武器にAIサプライチェーンで確固たる地位を築いている一方で、早くも台湾の次なる「護国神山(国を護る神の山=国を支える中核産業の意)」の構築に向けて、あるチームが静かに動き出している。
量子技術は次なる産業革命の要と目されており、米国、中国、日本から欧州連合(EU)に至るまで、各国は20世紀に物理学界を根底から覆した量子力学を、現実世界での実用化へと昇華させるべく総力を挙げている。台湾の半導体産業における主要な競争相手である韓国も、2026年1月に正式な量子国家戦略を発表し、2035年までに世界の量子チップ製造におけるトップを目指すと宣言した。では、台湾はどう動いているのか。実は、産業界がまだ本格参入しておらず、応用の見通しも不透明だった2021年の時点で、学術界が主導し政府が支援するチームが「量子ナショナルチーム」を結成し、次世代のテクノロジー領域において台湾の確固たる立ち位置を確保しようと奮闘しているのである。
台湾は「護国神山」と呼ばれる台湾積体電路製造(TSMC)を筆頭に半導体の優位性を固めつつ、次世代のテクノロジーである量子技術の開拓にも注力している。(写真/柯承恵撮影)
台湾「量子ナショナルチーム」、中研院から蔡英文氏への報告を経て始動
台湾の株式市場が世界第6位へと躍進したその日、『風傳媒』は「量子ナショナルチーム」の頭脳とも言える「量子システム推進チーム」のオフィスを訪れた。本拠地は、内部がローマのパンテオンを彷彿とさせるドームと天窓を備えた「次震宇宙館」の3階にある。同チームは、国家科学技術委員会(国科会)、中央研究院(中研院)、および経済部で構成される量子ナショナルチームの統合と調整を担い、台湾全土の17の研究開発チームを連携させている。量子チップから量子コンピューター、さらには量子通信に至るまで、台湾の量子技術の青写真を着実に描き出している。
2021年9月14日、当時の国科会主任委員・呉政忠氏が量子システム推進チームの始動を宣言したが、その約1年前から中研院ではすでに量子技術の応用について集中的な議論が展開されていた。実際、量子ナショナルチームが2022年3月に正式に発足できた背景には、中研院チームの多大な貢献がある。前台湾総統・蔡英文氏が2020年に再選を果たした後、中研院院長・廖俊智氏がチームを率いて総統府を訪問し、中研院副院長・周美吟氏が蔡氏に対し、量子技術が台湾にもたらす戦略的意義とその優位性について説明を行った。
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関係者によると、報告を受けた蔡氏はその構想を高く評価して即座に支持を表明し、関連部署に推進の支援を指示した。これが量子ナショナルチーム始動の契機となった。当時の中研院応用科学研究センター主任であり、現在は量子システム推進チームの責任者を務める果尚志氏も、廖氏率いる総統府訪問団に同行した一人である。果氏は『風傳媒』の取材に対し、廖氏は常に量子技術を中研院の重要な政策目標として位置づけていたと明かした。2019年に果氏が中研院応用科学センターの主任として出向した後、量子技術の応用が多岐にわたる分野を跨ぐことから、廖氏はこの任務を果氏に委ねることを決断した。こうして、果氏は量子ナショナルチームがゼロから立ち上がる過程を間近で見届けることとなった。
中研院院長の廖俊智氏(写真)は当時、自らチームを率いて総統府を訪問し、当時の総統・蔡英文氏に報告を行ったことで、量子ナショナルチーム誕生の契機を作った。(写真/柯承恵撮影)
多彩な顔ぶれが揃う研究開発チーム、物理から化学、光電、原子・分子までを網羅
異なる機関や技術分野を統合する量子システム推進チームの責任者として、果氏自身のバックグラウンドも多岐にわたる。還暦を迎えた果氏は、40年以上前に電子工学の学士号を取得したが、大学在学中には物理学や電機工学も修めた。米国での修士・博士課程における6年間は、当初は理論物理学を専攻していたが、途中で実験物理学へと転向した。果氏の最初のキャリアは、日本の通商産業省(現・経済産業省)が主導した10カ年計画「アトムテクノロジー」の初期メンバーとしての参加であった。1997年に台湾へ帰国後は、長らく清華大学物理学科で教鞭を執り、その後は国科会、国家シンクロトロン放射光研究センター、中研院などの機関へ出向して要職を歴任してきた。
理論と実験の双方の背景を持ち、学術界と政府機関での多様な経験を積んできた果氏だからこそ、台湾の量子技術発展における分野横断的な任務を推進する適任者となったのである。さらに、量子システム推進チームが対外向けに作成した48ページに及ぶ濃紺のハードカバーのパンフレットを開くと、17のプロジェクトの総責任者たちがまさに「臥龍蔵虎(隠れた人材の宝庫)」であることがわかる。物理学、化学、電子工学、光電工学、電機工学、原子・分子など幅広い分野を網羅し、台湾の量子研究の中核となる能力を結集させている。
実のところ、廖氏が総統府で蔡氏に報告を行った際、周氏や果氏に加えて、中研院重要課題研究センター特任研究員・陳啓東氏も同行メンバーの一人であった。陳氏が主導する超伝導量子コンピューターのプロジェクトは、量子ナショナルチームの発足以来、極めて重要かつ代表的な取り組みとなっている。また、量子システム推進チームのチーフエンジニアである王明杰氏は、中研院天文研究所の出身である。量子ナショナルチームが当初、各プロジェクトの異なる技術を連携させる役割として彼を招聘したのは、王氏が超伝導材料や検出器の専門家であることに加え、天文学研究が通常、国境やシステムを越えた大規模なチームで行われるという特性が、量子技術開発の性質と合致していると判断したためだ。
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量子システム推進チームの責任者である果尚志氏(写真)は、学術界や政府機関での多様な経験を経て、プロジェクト推進のキーパーソンとなった。(写真/柯承恵撮影)
量子コンピューターの姿とは?まるで「吊り下げられた金色のシャンデリア」
量子ナショナルチームは蔡氏の任期中に最初の5カ年計画を始動させた後、2026年3月6日に台湾総統・頼清徳氏が「高速量子コンピューティング国家戦略」の発表記者会見に出席し、政府として第2期計画を全面的に支援することを表明した。その後、頼氏は国科会とフィンランドの超伝導量子コンピューター企業であるIQMが共同で構築した5量子ビットの超伝導量子コンピューターシステムを自ら視察した。しかしそれに先立ち、陳氏率いる中研院チームは早くも2023年に台湾初の独自開発・製造による5量子ビット超伝導システムを発表しており、さらに2026年1月には20量子ビットの超伝導量子コンピューターシステムを発表している。
台湾における量子コンピューターのゼロからの構築について語る際、果氏は笑みをこぼしながら「当初は皆、多くの疑問や懐疑を抱いていた」と振り返る。量子ナショナルチームの発足当初、設定された目標や戦略は技術大国でなければ実現不可能だと考えられ、多くの人が首を傾げていた。「我々の手には負えないのではないかと、誰もが感じていた」という。しかし、「物事は始めが最も難しい」と言われるように、「第1期計画が明らかに成果を上げ、全体の状況は以前とは大きく異なっている」と果氏は語る。
20世紀におけるコンピューターの黎明期、それが部屋全体を占拠し画面を持たない巨大な機械であったように、現在の実験室にある量子コンピューターも、一般的なコンピューターの概念とは大きくかけ離れている。ディスプレイやキーボードはなく、まるで吊り下げられた金色のシャンデリアのような形状をしており、周囲には目視で数え切れないほどのケーブルが接続されている。量子コンピューターと従来のデジタルコンピューターは用途が異なり、将来技術が成熟しても両者は共存し補完し合う関係になると見られている。しかし、量子コンピューターが特定の領域において発揮する計算能力は、すでにデジタルコンピューターを遥かに凌駕している。例えば、Googleが開発した量子コンピューターは、デジタルコンピューターでは1万年かかる計算問題をわずか数分で解決できるまでになっている。
台湾が独自開発した量子コンピューターは、まるで金色のシャンデリアのような形状をしている。写真は量子実験室を視察する頼清徳総統(左)。(写真/総統府提供)
英国情報機関が警告、中国の量子技術開発がもたらすリスク
特筆すべきは、米国が長期にわたって科学研究の最前線と見なされてきた一方で、その量子技術の推進は主にGoogle、IBM、マイクロソフト(Microsoft)といった民間IT大手の分散的なイノベーションに依存している点である。対照的に、中国は2016年に発表した「第13次5カ年計画」において量子技術を国家戦略の重点に位置づけ、民間企業の個別努力に委ねるのではなく、軍民融合プロジェクトとして量子通信や量子コンピューティングなどの技術を強力に推進している。同年、中国は世界初の量子科学実験衛星「墨子(Micius)」を打ち上げ、地上と宇宙空間を結ぶ双方向の量子通信実験を成功させた。
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中国が国家を挙げて量子技術の研究開発を進める現状は、台湾にとって事実上、もう一つの重大なリスクを孕んでいる。果氏は、量子コンピューターがもたらすポジティブな貢献を別とすれば、最大の脅威は現行の通信暗号システムにあると指摘する。現在広く採用されている暗号化技術「RSA暗号」は、将来的に量子コンピューターによって容易に解読される可能性が高い。「量子ネットワークはまさに矛と盾の問題だ。矛は課題の解決をもたらすが、同時に情報セキュリティを破壊する力も持つ。一方で盾となる防御策も必要であり、最終的かつ最も安全な防御策とは、量子暗号を使用することに他ならない」と果氏は語る。
さらに厄介なことに、量子技術に伴う情報セキュリティのリスクは、量子コンピューターが普及するのを待たずしてすでに顕在化している。英国の政府通信本部(GCHQ)の元暗号設計責任者は、中国政府の支援を受けたサイバー攻撃に対し警告を発している。たとえ窃取されたデータが現状では解読不可能であっても、それらは収集・保存され、将来の技術成熟を待って一挙に解読される恐れがあるというのだ。これは「先に盗み、後で解読する(Store now, decrypt later)」と呼ばれる手口であり、数十年にわたる保秘が求められる国家機密データにとっては極めて致命的である。サイバー攻撃によってデータが盗まれれば、敵国が現在解読能力を持っていなくても、量子コンピューターが実用化された瞬間にすべてが読み取られる危険性が高いのである。
量子技術は矛と盾のようなものであり、中国の量子科学への重点的な投資は、台湾の情報セキュリティや国家安全保障に対する脅威ともなっている。写真はフィンランド企業IQMと共同構築した5量子ビット量子コンピューター。(写真/総統府提供)
量子コンピューターは国家安全保障の要、各国の戦略的優先課題は量子通信と暗号技術
言い換えれば、台湾にとって量子技術の発展は単なる産業の青写真ではなく、国家安全保障に直結する死活問題である。果氏は、量子コンピューターが実用化されれば、どの国が成功したかにかかわらず即座にリスクが生じると指摘する。そのため、各国の戦略的な優先課題は間違いなく量子通信と量子暗号(情報セキュリティ)の構築となる。量子暗号の分野においては、現在「耐量子計算機暗号(Post-Quantum Cryptography)」を用いた対策が可能であるが、果氏は最終的に「量子安全ネットワーク(Quantum-Safe Network)」への移行が不可欠であると強調する。「量子の原理を用いて真にその安全性を担保しなければならない。なぜなら、量子原理とは宇宙の真理であり、いかなる人為的な手法をもってしても物理法則を覆すことはできないからだ」。
果氏はさらに、各国の国情が異なるため、量子安全ネットワークは自国の環境に適したシステムを構築する必要があると述べる。また、国家安全保障に関わる暗号技術を他国に委ねることは現実的ではないため、台湾は必然的に独自の研究開発を進めざるを得ない。「量子コンピューターが登場してから着手したのでは遅すぎる」というわけだ。一方で量子通信においては、地上と宇宙空間を結ぶ数千キロ規模の量子通信を実現している中国にはまだ及ばないものの、台湾の量子ナショナルチームはすでに県市をまたぐ量子暗号通信の開発に成功している。果氏によれば、台湾は現行の光ファイバーネットワークのインフラが充実しており、量子通信は既存の光ファイバーと並行して運用することが可能だという。量子通信と量子暗号は、第2期計画における重点プロジェクトにも位置づけられている。
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台湾は半導体チップ産業の基盤を生かし、量子コンピューターに使用される超伝導量子チップの研究開発を進めている。(写真/総統府提供)
量子チップ技術を台湾の核心的発展と位置づけ、サプライチェーンで他国との協力を模索
果氏は「量子技術発展の第一歩は、まず防御を固めることだ」と強調する。しかし、量子ナショナルチームは台湾のために「盾」を構築するだけでなく、「矛」の発展も目指している。事実、台湾の現在の「シリコンの盾」と呼ばれる半導体産業自体が、量子力学の産物である。果氏は、量子コンピューターの開発はすべてをゼロからやり直す必要はなく、その基盤の一部は半導体産業から派生していると説明する。もちろん、超伝導チップのように、製造プロセスや材料、サイズが従来の半導体チップとは異なる新たな開発も求められるが、両者には確かな関連性が存在するという。
実際、AI時代において台湾のチップ産業は、すでに半導体チップとシリコンフォトニクス(シリコン光集積回路)技術を融合させている。果氏は、量子時代においても台湾に同様の現象が必然的に起こると指摘する。「チップこそが台湾の強みであるため、我々は量子チップ技術を台湾の核心的な発展分野と位置づけている。将来的に量子チップ技術は重要な鍵となり、世界中がそれを必要とするからだ。そして、これこそが他国と最も協力しやすい分野でもある」。
「米国の量子コンピューターやサプライチェーンの一部は、すでに台湾で受託製造(ファウンドリ)が行われている」と果氏は語る。台湾はサプライチェーンにおいて、しばしば「隠れたチャンピオン」の役割を果たしてきた。事実、量子技術のサプライチェーンにおいて、台湾がすべての項目を自前で賄う必要はない。例えば、量子コンピューターに不可欠な低温技術はフィンランドが供給の8割を握っており、台湾はフィンランドと分業を図るべきである。「しかし、システム統合の分野においては、我々には十分な能力がある。台湾はシステム統合の達人であり、『電子五哥(台湾の電子機器受託製造大手5社)』もすべてシステム統合を手がけている。これは台湾が伝統的に強みを持つ領域なのだ」。
果尚志氏(写真)は、量子システム推進チームのロゴが、量子技術によって台湾が前進し続けることを象徴していると語った。(写真/柯承恵撮影)
台湾の次世代における不可欠な地位を布石、「量子ナショナルチーム」が蒔いた種が開花の時を待つ
半世紀近く前、台湾は国民党政権下でファウンドリ(半導体受託製造)モデルの発展を推進し、テクノロジー産業の基盤を築き上げた。これが現在のAIサプライチェーンにおいて、国際社会に不可欠な存在としての台湾の地位を決定づけた。それから40年以上が経過し、政権樹立から10年目を迎える民進党政権は現在、次世代においても台湾が不可欠な地位を確保できるよう布石を打っている。果氏は、過去のファウンドリ・モデルの成功例と同様に、台湾は他国と競争するのではなく、重要な役割を果たすことを目指すべきだと述べる。量子技術のサプライチェーンは必然的に多岐にわたる広範なものとなるため、産業チェーンにおける分業と相互協力が最も効果的であり、より多くの利益をもたらすと強調した。「いくつかの中核技術さえ掌握すれば、十分に大きな成果を上げることができる」。
量子ナショナルチームの第1期計画が終盤を迎える中、5年間で80億台湾元(約384億円)を投じた各プロジェクトを振り返り、果氏は「多くのプロジェクトは極めて良好な成果を上げたが、一部は辛うじて及第点であり、目標未達成のものもあった」と明かした。将来の第2期計画に向けては、これらが再編成されることになるという。しかし同時に、超伝導量子コンピューター、半導体量子コンピューター、および県市をまたぐ量子通信などの技術が次々と開発されるにつれて、産業界も当初の静観の姿勢から本格的な参入へと舵を切っており、経済部も新たに「量子産業推進オフィス」を設立する予定である。「第1期は種を蒔き、芽吹かせる段階だった。現在は小さな苗に成長しており、それがさらに大きく育ち、皆が協力して花を咲かせ実を結べば、全体の勢いは一気に加速するだろう」と果氏は期待を込める。
インタビューの終わりに、果氏は量子システム推進チームのロゴが描かれたパネルを手に取り、写真撮影に応じながらその由来について説明した。このロゴはチームメンバーがデザインしたもので、偽造防止のためにわざわざ経済部知的財産局に商標登録を出願し、幾度かの答弁を経てようやく承認されたという。ロゴの左側にある帽子を被った「Q」の文字は量子演算子を意味し、右側の台湾のシルエットと下部の矢印は、量子技術によって台湾が前進し続けることを象徴している。中国が国家を挙げて量子技術を開発する中、台湾はすでに国家戦略計画を始動させ、今後のステップも見据えている。しかし、Googleが先日、量子コンピューターが現行の暗号技術を解読可能になる「Q-Day(暗号危機の到来日)」が2029年に前倒しされると発表したことで、台湾の「矛」と「盾」を構築する量子ナショナルチームは、厳しい時間との戦いを強いられることになるだろう。
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