米ジョージア州のバッテリー工場で先週、数百人の韓国人労働者が拘束された。トランプ政権下での査証(ビザ)審査の厳格化が、積極的な対米投資にどのような影響を与えるかが問われている。

    移民当局が9月4日に実施した抜き打ち査察では、韓国の現代自動車とLGエナジーソリューションの合弁事業が対象となった。約300人の熟練エンジニアや下請け業者が拘束された。

  数週間前にトランプ米大統領と韓国の李在明大統領がワシントンで首脳会談を開き、同盟関係の強化と通商合意のとりまとめを確認したばかりだった。

Immigration Raid Hyundai Plant

現代自動車工場での労働者摘発(ジョージア州、9月4日)

Photographer: Corey Bullard/U.S. Immigration and Customs Enforcement/AP Photo

  韓国政府は米国向けに総額3500億ドル(約52兆円)規模の投資パッケージを表明しているが、今回の事態でその実現に不透明感が漂い始めた。

  ビザを巡るトラブルや入国管理の強化が、プロジェクト立ち上げに不可欠な韓国人労働力の投入を阻む可能性があるためだ。

バッテリー工場の韓国人労働者はどのようなビザを持っていたのか

  当局によれば、大半の労働者は90日間のビザ免除プログラム(ESTA)か「B1」ビザで米国に滞在していた。

  数十億ドル規模の工場建設には数百人規模の外国人エンジニアや下請け業者が必要となるが、現代自動車やLGエナジーのような企業はトランプ政権下で就労ビザの確保に苦労してきたと事情に詳しい関係者は話している。

  特に下請け業者については、ビザ取得の遅れが長引き、渡航調整や現場での重要な技術的な業務の遂行が難しくなっている。

B1ビザとは

   B1ビザは短期の非移民ビザで、会議出席や契約交渉、市場調査といった商用目的に適用される。契約に明示されている場合に限り、プロジェクトの監督や設備設置といった特殊業務も限定的に認められる。しかし、直接的な労働や建設作業、米国法人での雇用は認められていない。

なぜ問題になったのか

  企業は熟練労働者を速やかに投入するため、取得に時間を要する「H1B」「L1」「E2」などの長期ビザではなく、B1ビザやビザ免除を活用するケースが多い。

  ただし、B1で許可範囲を超える技術作業や実務を行えば違反となり、拘束や送還につながる可能性がある。不法就労と見なされた場合、数年間の再入国禁止や将来のビザ取得への支障も生じ得る。

  韓国政府は外交ルートを通じ、こうした制裁の回避や緩和を米国に求めている。

拘束された労働者の今後は

  拘束された最大300人の韓国人労働者は9月10日に釈放され、大韓航空のチャーター便で帰国する予定。

  韓国外務省は「自主的出国」の形での早期釈放に向け米当局と交渉している。趙顕外相は9日にワシントン入りし、10日にはホワイトハウスでルビオ米国務長官と会談し、帰国者が将来的に米国に再入国する際に入国禁止措置を受けないよう保証を求める見通しだ。

バッテリー工場の意義

  摘発された工場は「HL-GA Battery Company LLC」。現代自動車とLGエナジーが2023年に折半で設立した合弁会社だ。年間30ギガワット時の電気自動車(EV)用バッテリーを生産する能力を持つ。

  建設に総額43億ドルが投じられたこの工場は現代自動車の新しいEV工場「メタプラント」の敷地内にある。

  製造されたバッテリーセルは現代モービスによりパッケージ加工が施され、米国で組み立てられる現代自動車および起亜自動車のEVに供給される。韓国企業による対米投資の中でも最大級の案件だ。

対米投資への影響

  今回の査察は、韓国が約束した巨額の対米投資に影を落としかねない。企業は技術者や下請け労働者を送り込むためのビザ確保に苦慮しており、プロジェクト遅延やコスト増加が懸念される。入国管理の厳格化が進めば、必要不可欠な韓国人労働者への依存を控える動きが広がる可能性もある。

  実務的な課題にとどまらず、今回の事態は米国の政策環境の安定性に対する投資家の信頼を揺るがしかねない。

  企業にとっては、政治的および規制面でのリスクが利点を上回るのかどうかが問われている。

  李大統領にとっても、6月の就任後で最大の外交上の打撃となった。10月末に予定されるトランプ氏訪韓と慶州でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を控え、難しい局面を迎えている。 

原題:Why Trump Immigration Raid Snared South Korea Workers Over Visas(抜粋)

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