
ウクライナ停戦・和平の論点
(2)

執筆者:鶴岡路人
2025年4月28日

米国がウクライナのNATO加盟や、「安全の保証」の提供に反対すればするほど、ウクライナに対するカードが失われるという皮肉な構図も[米欧ウクライナの高官協議に臨んだルビオ米国務長官=2025年4月17日、フランス・パリ](C)AFP=時事
侵略するロシアとそれに抵抗するウクライナ。この両者に米国と欧州が加わる4つのアクターが停戦交渉の行方のカギを握る。議論の一つの柱は米露だが、トランプ政権はロシアとの“ディール”に躓く苛立ちを隠さない。米国は誰に対してどのようなカードを持っているのか。ロシアの「時間稼ぎ」はどこまで可能なのか、弱点はないのか。米国はウクライナをどこまで自らの意思に沿って動かせるのか。欧州は何がカードなのか。第2回は米国、ロシア、ウクライナ、欧州という4つのアクターをとりあげ、交渉における力関係の分析をつうじて、交渉の全体的構図を把握する。
ウクライナの停戦に限らず、あらゆる国際交渉に関して、関係国間の力関係を把握することが重要である。それが交渉のあり方や最終的な結果を決するからである。特に、自らを「ディール(取引)の達人」だとする米国のドナルド・トランプ大統領は、国際関係の本質はディールであるとの姿勢であり、この政権下ではとりわけ交渉が鍵になる。
2025年2月28日の決裂した米ウクライナ首脳会談の席上、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領に対してトランプが強調したのは、「(ウクライナは)カードを持っていない」との主張だった。では米国はどれほどのカードを持っているのだろうか。
また、その後3月11日にサウジアラビアで開かれた米ウクライナ協議では、トランプ政権による30日間の停戦案をウクライナが受け入れ、マルコ・ルビオ米国務長官は、「ボールはロシア側にある」と表現した。他方で、4月18日には、パリでのウクライナ、フランス、英国、ドイツとの協議を終えたルビオ長官が、妥結が可能か「数日以内」に判断し、無理であれば、米国は「他の問題に取り組むために手を引く」可能性に言及することになった。交渉がうまくいかないことへのトランプ政権の苛立ちが高まっているのである。
以下、本連載(2)では、米国、ロシア、ウクライナ、欧州という4つのアクターをとりあげ、交渉における力関係の分析をつうじて、交渉の全体的構図を把握することを目的とする。米国は誰に対してどのようなカードを持っているのか。ロシアの「時間稼ぎ」はどこまで可能なのか、弱点はないのか。米国はウクライナをどこまで自らの意思に沿って動かせるのか。欧州は何がカードなのか。これらの問いにこたえるため、米露、米ウ、米欧、欧ウといった、アクターの間の「対」に着目して分析する。
米露関係の力学――ロシアの時間稼ぎに苛立つ米国
ウクライナをめぐる停戦議論の一つの柱が米露関係であることに異論はないだろう。しかし、戦争を戦っているのがロシアとウクライナであることを踏まえれば、米露ばかりが前面に出てくることは、まったく自明ではない。それでも、停戦に向けたイニシアティブがトランプ政権によるものであること、および停戦実現には、ウクライナのみならずロシアの同意が必要であることに照らせば、交渉における米国とロシアの中心性は否定できない。
ではどちらが有利な立場にあるのか。
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執筆者プロフィール

鶴岡路人(つるおかみちと)
慶應義塾大学総合政策学部教授、戦略構想センター・副センター長 1975年東京生まれ。専門は現代欧州政治、国際安全保障など。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学院法学研究科、米ジョージタウン大学を経て、英ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得(PhD in War Studies)。在ベルギー日本大使館専門調査員(NATO担当)、米ジャーマン・マーシャル基金(GMF)研究員、防衛省防衛研究所主任研究官、防衛省防衛政策局国際政策課部員、英王立防衛・安全保障研究所(RUSI)訪問研究員などを歴任。著書に『EU離脱――イギリスとヨーロッパの地殻変動』(ちくま新書、2020年)、『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』(新潮選書、2023年)、『模索するNATO 米欧同盟の実像 』(千倉書房、2024年)、『はじめての戦争と平和』(ちくまプリマ―新書、2024年)など。
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