ホワイトハウスがソーシャルメディアに投稿した動画で、トランプ大統領はアメリカンドリームを破壊した「外国のハイエナども」を打ち負かすために関税を導入する英雄として描かれ、喝采を浴びている。 

  ヘルメットをかぶった作業員やブルーカラーの制服を着た人々から称賛され、最新のアクション映画にふさわしいサウンドトラックが流れる中、メッセージは明確だ。つまり、米国はルールを破棄するという宣言だ。

  一方、中国外務省が発信した動画は、緊張感のある音楽から始まり、米国の覇権主義や強欲、搾取、関税、その他の悪が語られる。そして、ジョン・レノンの「イマジン」が流れ、中国が主導する安全と平等、正義、そして「障壁が橋に変わる」世界の穏やかなイメージが映し出され、「あなたはどんな世界で暮らしたいですか」と問いかける。

relates to 関税ショックの連鎖で変わる世界、勝者は米国か中国か-予断許さず

ホワイトハウスの動画と中国外務省の動画からのスクリーンショット

 

  この2つの動画に欠けているのは、パニックに陥った投資家や外国首脳の反発、そして悩める企業経営者らだ。そして、今や明らかになっている現実、すなわち、世界中が世界1、2位の経済大国である米中の衝突に対処しなければならないという事実だ。ほとんど誰も無傷で済むことはないだろう。

  「トランプ・ショック」とは、米国の利益のために世界貿易のルールを書き換えるというあからさまな試みだ。

  トランプ政権が「解放の日」と呼ぶ2日に発表した関税計画がそのまま実施されれば、サプライチェーンは混乱し、投資戦略は見直され、輸入品の価格は急騰。同盟国およびライバル国との通商・安全保障関係は再構築されることになる。

  実際、トランプ氏が「米国の黄金時代」を実現しようとしている大胆な賭けは、こうした激変にかかっている。

米国は少数派

  米国発のショッキングな危機は、過去四半世紀にわたり世界経済を変え、いまだに弱まる兆しを見せずにじわじわと進行する「中国ショック」と交差する。

  世界の製造業をリードする中国が新たな市場で販売を拡大し、電気自動車(EV)などの未来の産業分野でも優位性を強める中で、中国共産党の習近平総書記(国家主席)は中国をルールに基づく貿易制度を擁護する国として描こうとしている。

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トランプ氏が「相互関税」を発表

 

  トランプ氏は7日、中国が米国製品に対する34%の報復関税を撤回しない場合、「50%の追加関税を課す」と警告。米中間の板挟みになっている国々にとっての疑問は、どの国がどの国の経済に最も大きな打撃を与えるのかということだ。

  貿易の流れと経済関係に関するブルームバーグ・エコノミクス(BE)の分析によると、中国は米国で失うことになる市場を他国で補うため、輸出先を大きく変える公算が大きい。

  対中関税を発動したトランプ政権1期目は、中国以外の国々が中国離れを進めたが、今回は中国が動く番だ。

  中国からの輸出増加が各国にもたらすリスクは、米国の輸入減少の影響よりも小さい可能性が高いが、「トランプ関税」はこうした中国ショックを増幅させることになり、保護主義の波が次々と押し寄せる恐れもある。   

  東京で5日閉幕した国際通貨基金(IMF)の会議に出席していたエコノミスト、リチャード・ボールドウィン氏は、「米国ショックがより深刻な中国ショックにつながるだろう。そして、他の主要国が中国に対して関税を課す可能性も十分にある。これは、ほぼ確実なシナリオだと思う」と他の貿易専門家らと共に警鐘を鳴らした。

  同氏によると、世界経済にとっての救いは、米国が世界貿易の15%程度しか占めていないこと、そして中国を含む残りの85%を占める国々が現行の通商制度を維持したいと考えていることだという。

  トランプ氏の関税政策に対する一次的な反応として従うか反発するかに世界が二分されるとしても、中国や欧州連合(EU)を中心に、貿易自由化に向けた独自の動きが広がる可能性があるとボールドウィン氏はみている。

不確実性の時代 

  数十年かけ国境をまたぎ複雑なサプライチェーンを構築してきた企業にとって、トランプ関税はビジネスモデルの根幹を揺るがす脅威だ。米アップルのスマートフォン「iPhone」をはじめとする消費者向け製品の価格も上昇するだろう。

  世界中の投資家にとって、こうした状況は、米中の将来像の対立によってあおられた不確実性の時代に、経済的ダメージを推測しながらリスクを再評価することを意味する。

  トランプ関税がいつまで続くかを決めるのは、米国内でどれほどの痛みが引き起こされるかが最大の要因となる可能性がある。JPモルガン・チェースのエコノミストは現在、米国が2025年にリセッション(景気後退)に陥る可能性があると予測。

  ブルームバーグ・ニュースのエコノミスト調査では、関税がリセッションの可能性を高めると92%が述べている。そして、金融市場の動きも重要だ。多くの米国民が退職後に備えて貯蓄している資金の行方を左右する。

 

  ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスの貿易専門家テレサ・フォート氏は、「トランプ関税が米国の生産、そして世界にどれほどの打撃を与えることになるか、人々は過小評価している」と主張。「企業による意思決定に多くの不確実性がもたらされるため、多くのダメージが長引く」との見方を示した。

  BEによる世界貿易データの新たな分析は、トランプ氏の関税が各国に重要な貿易・投資関係を見直すことを強いている状況を示している。

  こうした関税措置が続き、対象国が米国からの輸入品に半分の関税を課して報復するシナリオに基づけば、30年までに米国の輸入品は、関税が見直されなかった場合よりも約3割減少する。中国は対米輸出が85%も落ち込み、最も大きな打撃を受ける。

Yantian International Container Terminals As China Discusses Frontloading Stimulus to Counter Tariff Hit

深圳のコンテナターミナル

Photographer: Qilai Shen/Bloomberg

  日本や韓国といった中国以外の主要貿易相手国からの米国の輸入は50%余り減少する一方で、EUやインドからの輸入額はほぼ40%減となる。トランプ氏の計画では10%という低めの関税が課される英国やブラジルといった国でも、15%程度の減速が見込まれる。

中国の優位性

  米中対立の中で中国に代わる重要な製造拠点として浮上したベトナムは大打撃を被る経済となりそうだ。BEのモデル予測によると、対米輸出は30年までに75%近く減少する見通し。

  トランプ関税の規模と広がりは、中国の供給過剰よりも世界経済に大きなリスクをもたらし得るが、これら2つの力学が組み合わさることで、その影響が及ぶ経済は大打撃を受けるとアジア開発銀行のチーフエコノミスト、アルバート・パーク氏は警告する。

  「多くの国が米国の関税引き上げに対処している状況で、他の国々が中国製品の輸入増加を吸収するのは難しいだろう」とパーク氏は言う。

  中国は1970年代に開放政策を始めて以来、世界の工場へと変貌。現在では世界の製造総生産の約3割を占め、160カ国以上に対し貿易黒字を計上している。

  台湾の鴻海精密工業は、今もなお世界で販売されるiPhoneの大半を中国で委託生産している。それだけでなく、中国企業自らが世界を席巻する勢いのEVや風力タービン、バッテリーなどを含め、ハイテク製品の新市場を探っている。

  中国の貿易政策を研究しているシンガポール経営大学のヘンリー・ガオ教授によれば、トランプ関税は衝撃的だが、世界経済にとってより重要なのは中国製造業の優位性増大だという。

  ガオ氏は「2つのショックのうち、トランプ・ショックは、ここ数日で目にしたように短期的な変動と混乱という形で、即座に痛みを伴う」と説明。

  その上で、トランプ関税は「中国による国家資本主義が世界経済秩序に及ぼす根本的な脅威という、根本的な問題に対処する症状だ」と論じた。こうした根本的な問題が解決されない限り、同様の対応は米国だけでなく、他の国々からも出てくるとみている。

「良き世界市民」

  現在見られる中国の輸出急増は永遠に続くものではない、あるいはすでにピークに達しているという見方もある。

  同様に、トランプ関税を巡り交渉の可能性はほとんどないように思われるとしても、トランプ氏が一部の国に対しては関税を引き下げる可能性もあるため、その真の影響は依然として未知数だ。

      HSBCホールディングスのアジア担当チーフエコノミスト、フレデリック・ノイマン氏は中国について、「消費を大幅に増やすには成長モデルを大きく転換する必要がある。これは経済的にも、政治的にも、またイデオロギー的にも非常に困難な課題だ。だが、自由主義的な世界秩序を維持し、経済的リーダーシップを引き継ぐためのユニークな機会にもなる」と述べた。

  「世界経済にとっての真のリスクは、米国が発端となり世界中に波及する関税の連鎖」だという。

  トランプ関税は中国にとって好機だ。信頼できる経済パートナーとして自らを位置付ける扉を再び開いてくれたからだ。

  中国外務省の動画が示すように、中国はこれを逃すまいとしている。習氏は4月にベトナムとマレーシア、カンボジアを訪問すると報じられている。米国の関税により大きな打撃を受ける3カ国との関係を強化する機会となる。

  「中国が大きな勝者となるだろう。なぜなら、各国は『さて、今なら誰と取引できるだろうか。米国は全く予測不可能だ』と言うためだ」と米外交問題評議会のシニアフェローで国際貿易の専門家エドワード・オールデン氏は指摘。「皮肉なことだが、中国は現時点で比較的、良き世界市民のように見える」と話した。

  多くの途上国にとって、中国に輸出できる農産物や原材料、その他の物資を見つけることは魅力的な答えかもしれない。

  一方、トランプ氏の関税政策はアフリカやアジアの一部貧困国にとって、米国際開発局(USAID)や多くの米国の対外援助プログラムを廃止するという同氏の決定による経済的打撃にさらに追い打ちをかけるものに過ぎない。

  米財務省で働き今はシンクタンク、グローバル開発センター(CGD)に所属するカレン・マティアセン氏は「何千万人もの人々を貧困から救い出すことに、自由貿易は他のどんなことよりも大きな責任を担っていた」が、トランプ関税を「非常に悪質なものにしている一因は、世界でも最も貧困層が多い国々や、数百万人を雇用する事業を展開している国々を標的にしていることだ。それらの国々は一夜にして競争力を失うことになる」と批判した。

  トランプ氏がかつて神聖視されていた米国を中心とする安全保障の枠組みを自らの重商主義と結び付ける意向を示していることから、米中両国が引き起こしている2つの経済ショックは、多くの国々にとってより広範なジレンマとなっている。

  日本やカナダ、韓国、そして欧州の国々では首脳らが経済と安全保障の両面での対外関係を検証するとともに、そうした見直しで生じ得る混乱を乗り切る方法を探っている。

中国は日本のような「失われた10年」を回避できるのか

Source: Bloomberg

原題:Trump’s Tariffs Collide With China Shock, Hitting Global Economy (1) (抜粋)

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