ネット時代 自己の偏り調律
安川純撮影
ゴールデンウィークの午後、駅前の書店に行くと、シャッターが下りていた。店舗の改装中なのかと思い、貼り紙を見ると、店じまいをしたという。本も文具も品ぞろえが豊富で、ジャンルごとの本棚の位置も、おおよそ把握していたなじみの店だった。つい1か月ほど前にも訪れたばかりだったので、心に穴が開いたような気持ちになった。
[深層NEWS]通算5期目のプーチン大統領、「権力維持のため戦争が長期化する危険性」
かつて、東京郊外の団地商店街の一角で、親戚が小さな書店を営んでいた。こぢんまりとした店内には、新刊の文庫本や雑誌、漫画本に学習参考書――。背丈の違う色とりどりの背表紙が、隣り合いながら本棚に隙間なく並んでいた。マンモス団地にある唯一の書店で、店の前にはアーケードゲームやメダルゲームもあったことから、地域の子供たちにとって格好の集い場だった。 店舗の2階は住居になっていて、正月には親戚が一堂に集まるのが恒例だった。大人たちが新年会に興じている間、幼い頃の私は、弟やいとこらを引き連れ、閉店後に漫画本を読むのが、何よりも楽しみだった。にぎやかな昼間とはちがって、薄暗く静まりかえった夜の店内は、雑誌や文房具、辞書や文庫本の入り交じったにおいがやけに強く感じられた。時間を忘れて漫画本を読みふけった特別なひとときが懐かしい。その書店は、10年以上前に店を閉じた。 日本出版インフラセンターによると、2013年度に全国1万5000店以上あった書店の店舗数は、この10年で約3割も減った。ネット書店や電子書籍が普及したことや、小規模店舗では後継者不足が背景にあるという。月刊誌や週刊誌の休廃刊も増えている。 インターネットやSNSで最新の情報がいつでも無料で探せるようになったことも要因のひとつかもしれない。英会話教本や分厚い辞書もスマートフォンのアプリに取って代わられてきた。電車の中で本や新聞を読む人は減り、黙々とスマートフォンを触っている。 日々、SNSを通じて様々な“流行”が飛び込んでくるが、もはや自らの興味関心にカスタマイズされてしまった個別のネット空間にいたら、いまの社会や時代が正しく見えているのか、不安にかられる。 そのようなとき、書店に行くと、入り口に平積みにされた新刊本は、いま求められている知識や教養が何かを教えてくれる。雑誌のコーナーでは、今をときめく俳優が表紙を飾り、最新号の特集は、季節感やトレンドを映し出す。幼い頃に母から読み聞かせてもらった絵本を見つけると、長年変わらず愛され読み継がれる価値を見いだす。書店には、偏りがちな情報によって凝り固まった自己を調律したり、リアルな社会に引き戻したりする作用があるように思える。 ちょっとした時間ができると、ふらりと書店に入るのが好きだ。店頭の新刊本や話題本に添えられた手書きポップにひかれ、数ページめくる。偶然手にした一冊が、新たな「知」にいざない、私の世界を広げてくれることもある。幼い頃のように、時間を忘れて読みふけりたい。(BS日テレ「深層NEWS」キャスター)
![[テレビ] [深層一直線]町の書店 「今」映す貴重な場…右松健太 [テレビ] [深層一直線]町の書店 「今」映す貴重な場…右松健太](https://www.walknews.com/wp-content/uploads/2024/05/1715584581_20240513-OYT1I50101-1-1024x576.jpg)