ビンテージ好きで知られる。「古き物の良さや魅力という点で、時代劇にも通じるものがある。人や物の大事な根源を表現したいと思いました」=永井秀典撮影 古典落語を原作とした時代劇映画「碁盤斬り」が17日に公開される。主人公の誇り高い浪人、柳田格之進を演じるのは映画俳優として存在感を増す草なぎ剛。彼が考える時代劇ならではの魅力とは。各方面からラブコールが絶えない理由にも迫った。(木村直子)
「より違う自分に」 時代劇の醍醐味
武士の本懐をとげられるのか。柳田格之進(草なぎ剛)はあだ討ちの旅に出る
「撮影に時間と労力がかかるがゆえに、今とは全く違う世界に生きる格之進という役にも入っていける。より違う自分になれる感覚があります」。時代劇に出る
醍醐(だいご)
味を、そう語る。
「凶悪」「孤狼の血」シリーズの白石
和彌(かずや)
監督がメガホンをとる。初の時代劇を撮る白石とは初タッグで、初もの尽くしだ。「血もしたたる、バイオレンスな世界観の白石監督が初めて時代劇を撮る。そのことにビビッときました」
碁を通じて交友を深める源兵衛(右、國村隼)と格之進。盤上の静かな戦いも見所だ
浪人の格之進(草なぎ)は碁会所で知り合った商人の
萬屋(よろずや)
源兵衛(
國村隼(くにむらじゅん)
)の窮地を救ったことで、たびたび碁を打つ仲になる。ある日、店の金が紛失する事件が発生。その場に居合わせた格之進に嫌疑がかけられる。
格之進と娘の絹(右、清原果耶)は実直な暮らしを送っていた
格之進は正直一徹な性格が災いし、同僚の
讒言(ざんげん)
により藩を追われた過去がある。再びぬれぎぬを着せられ、潔白の証明で切腹しようとするところ、娘の絹(清原果耶)が制止。自らが吉原遊郭に身を沈めて工面したお金を弁償にあて、あだ討ちも果たしてほしいと懇願される。
武家の誇りのためには自己犠牲をいとわない。現代の感覚では理解しがたく、父娘の心情をつかむのに苦労した。だが、「憂いを帯びていて透明感がある」と評する清原が絹役だったことに助けられたという。
「『こんなにかわいらしい娘がいるのに切腹? 冗談じゃないよ、格之進』という思いが本当に湧いてきた。役の重みや
復讐(ふくしゅう)
心とか足りない部分は僕自身の格之進に対する怒りをもって演じ切れました」と冗談めかしつつ語る。
大河ドラマなどの時代劇で将軍や侍を演じてきた。高貴な人物でも市井の人でも、時代の空気を自然にまとう。浪人の格之進も元々は彦根藩で献上品をつかさどる「
進物番(しんもつばん)
」だった。「(人物の背景を)考えると非常に難しい役ですよね。でも、どの役もあんまり考えないで現場に入るんです。役者って一人でやるものじゃないから、衣装を着せてくれたり、ヘアメイクしてくれたりする皆さんの力をお借りして、元・進物番になっていった感じです」
気の合う仲間と碁を打ち、酒を酌み交わす前半から、後半は自分と家族を陥れた敵を追い、あだ討ちの旅に出る。本作で描かれる浪人になった詳しい経緯は、落語にはない要素だ。白石監督の挑戦する姿勢が詰まった「新しい時代劇」になっているという。 「『静』から徐々に事件が起きて『動』に変わっていくところが面白い。囲碁の静かな世界観の中にも、実は精神的な戦いがあり、終盤で(源兵衛役の)國村さんを斬るか、斬らないかにつながっていく」 格之進は、自らの無実が証明されたら源兵衛と手代の弥吉(中川大志)に「首をもらう」と告げる。「落語ではいくつかオチがあるようですが、映像だとひと味もふた味も違った面白さになっていると思います」と胸を張る。
自身の反射神経の話からヨガ哲学までインタビューは時に脱線しながら、よどみなく続いた。鬼気迫る格之進像とは対照的な
飄々(ひょうひょう)
としたたたずまいこそ、想像をかき立て、出演オファーが途切れない理由なのかもしれない。
最後に仕事の原動力を聞いてみた。「『そこに作品があるから』。そういう言葉がありましたよね」。伝説の登山家の名言に寄せながら、こう続けた。 「だって、いくら僕らがその役をやりたいと言っても、場所を与えられないと、どうしようもない。人間だから、その日によって気分が違いますが、とにかく持っている力を全部出す。どこまで全力なの? アクセルを踏んで、もっとギア上げなよ、という(内なる)声が聞こえてくるんです」
「柳田格之進」
講談が基になった落語の人情
噺(ばなし)
で、別名「碁盤
割(わり)
」「柳田の堪忍袋」。訳あって浪人となり、娘と長屋暮らしの柳田格之進が大金盗難の嫌疑をかけられる。いわれのない汚名をそそぐ武士の気高い生きざまが描かれる。昭和の名人、古今亭志ん生、その次男の古今亭志ん朝などが得意とした。
高倉健 よりどころに
逆境でもじっと耐え忍ぶ、寡黙な男――。そんな格之進を演じるよりどころとしたのが名優、高倉健=写真=だ。映画「あなたへ」で共演し、交流があった。高倉は一世を
風靡(ふうび)
した
任侠(にんきょう)
映画のスターだった。本作の撮影が行われたのは京都・太秦撮影所で、「この道を健さんも通ったことあったのかなとか、自然と考えたりして、それが一番の役作りになった」と振り返る。
また、プロ棋士の所作からヒントを得て、碁の打ち方にもこだわった。「碁石をつまんで、ちょっと回しながら挟んで打つのがかっこいいなと思って。指先に格之進の心が宿ると思った」 移動中でも碁石を握り、自然に見えるよう練習した。細部まで神経を行き渡らせた対局シーンにも注目だ。
![[映画] [週刊エンタメ]主演 草なぎ剛 「碁盤斬り」17日封切り…落語・人情噺 新たな面白さ加え [映画] [週刊エンタメ]主演 草なぎ剛 「碁盤斬り」17日封切り…落語・人情噺 新たな面白さ加え](https://www.walknews.com/wp-content/uploads/2024/05/1715291723_20240509-OYT8I50057-1-1024x576.jpg)