「最近は短歌を詠み始めた頃を思い出して、ゼロからの出発という気持ちです」 石川県輪島市出身の歌人、三井ゆきさん(84)の第9歌集『水平線』(KADOKAWA)が第39回詩歌文学館賞短歌部門に選ばれた。自宅の窓から見える広大な日本海や山々と一体化することの喜びなどを静かに詠んだ。「80歳を過ぎると、自由に歌が詠めるようになった。年とるのって楽しいですよ」とはにかむ。
「アルプス席の母」早見和真さん 球児の母の熱闘を確信
朝起きて、一杯の水道水をぐっと飲み干し、体の中を「洗う」ことを日課にしている。 <一杯の水にはじめる一日の窓の遠くに白山が立つ> 若い頃は考えたことを全て歌に詰め込もうとしていた。「今は対象に対してうんと考えて、そこから引き算をしていくと、逆に広がりが出てくる」 受賞作にはこれまでの人生を振り返るような歌も収められている。浮かび上がるのは故郷の能登への優しいまなざしだ。 <渡り来る鳥の思ひのひたすらをひたと受けとむ能登の渚辺> 中学生の時に国語の教師の影響で歌を詠み始め、「内側ばかり見ていた」という少女は作歌にのめり込んだ。短大を経て、教育委員会で働いたこともあり、新聞記者と昼休みにバレーボールをした思い出もある。 <記者室の記者は新しきものが好きワイシャツのポケットに透く「ハイライト」> 「記者さんは気さくな人が多かった。色々思い出しちゃうわね」 20歳の頃に結社「短歌人」に入会。東京に移り、結社誌の編集などに携わった。評論家の吉本隆明と劇作家の寺山修司が対談した際に速記をしたこともある。短歌人では古株の一人だ。 <短歌人会員にして一番古き人われならむかも恐ろしきこと> 心情と自然描写が合わさって象徴性を帯びる歌風は深化し、1996年の『能登往還』でながらみ現代短歌賞、2007年の『天蓋天涯』で日本歌人クラブ賞を受賞した。現在は金沢市内で穏やかな日々を送りながら、歌を作っている。 「歌人は全国に散らばって、幸せな気持ちで歌を詠んでいる。私はその一員でいいと思っている」 1月1日の能登半島地震発生時は自宅におり、すさまじい揺れに見舞われた。輪島に住む妹は避難生活を余儀なくされた。雑誌「歌壇」4月号の緊急特集に歌を寄せた。 <象徴となりしか倒れし五島屋の七階建てビルまた映りをり> 「いま私にできることは祈るしかない。それしかないのよね」 (池田創)
![[本のインタビュー] 三井ゆきさん 自由に作歌 「水平線」で詩歌文学館賞 [本のインタビュー] 三井ゆきさん 自由に作歌 「水平線」で詩歌文学館賞](https://www.walknews.com/wp-content/uploads/2024/04/1714445183_20240430-OYT1I50047-1-1024x576.jpg)