安川純撮影安川純撮影 「ハムレットが世界最高峰の戯曲だと言われる理由。これ、なんだかわかります?」

 彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市)の壇上から、客席にマイクを向けて問いかけた。16分にわたり熱弁を振るった後、「なぜ、これが世界最高峰なのか。探し続けますよね。僕、わかっちゃった。でも今は言わないよ!」。ちゃめっ気たっぷりに期待感を高めた。 「ハムレット」か「ハムレット以外」か――。そう言い切れるほど特別な作品。吉田は5月に始動する「彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd」の芸術監督として、幕開けにこの作品を選んだ。冒頭のくだりは制作発表会見の一幕。シリーズは元々、演出家の蜷川幸雄がシェークスピア全37作品の上演を目指してきたものだ。5作品を残して、世を去った蜷川から吉田がバトンを受け取った。 テレビドラマでは、3人娘を大切に思うハンサムな父親も、男性部下に恋するおっさん上司も演じ、意外な真相を深掘りする教養番組では、渋い声で「事件ですよ!」とカットインする。これほどお茶の間に浸透しても、原点は揺るがない。 会見は粋に締めた。「18歳でシェークスピアを始めて50年近く。シェークスピアと言えば吉田鋼太郎だということはお忘れなく」
 演劇との出会いは高校生の夏休み。英語教諭から劇団雲の公演チケットをもらった。それが、シェークスピア劇「十二夜」だった。原作を読んだが、言葉も物語も頭に入ってこず、
暗澹(あんたん)
たる気持ちで劇場へ。しかし、橋爪功や岸田今日子が舞台上で躍動すると、立体になった物語が体にぶつかってきた。「まさに、大人の娯楽だ」。背伸びしたような体験に興奮した。そこから蜷川演出作品や、劇団「シェイクスピアシアター」を見て、のめり込んだ。
上智大のシェイクスピア研究会の仲間と吉田(左から2人目)。「せりふを覚える、グラウンドを走る、と完全に体育会系。発声練習は1日も欠かさなかった」上智大のシェイクスピア研究会の仲間と吉田(左から2人目)。「せりふを覚える、グラウンドを走る、と完全に体育会系。発声練習は1日も欠かさなかった」 流れのまま上智大へ。十二夜を薦めてくれた教諭が所属したシェイクスピア研究会に入るためだった。英文学科を諦めて入った独文学科では、ドイツ語そっちのけでシェークスピアを原語で読みふけった。初舞台は十二夜。「縁があるね」。物語のカギとなる双子の一人、セバスチャンを演じた。「若いイケメンがやる役」。自信たっぷりに振り返る。 3年の時、役者で食べていくなら劇団四季だと思い、休学して研究生になった。狭き門をくぐり抜けて待っていたのは、稽古場の掃除や舞踊の稽古など地道な鍛錬の日々だった。いつになったら役がもらえるのか。「役さえつけてくれれば、頭角を現してやるのに」。どこからか湧いてくる自信が、半年での退団を決意させた。 大学に戻ったが、中退。研究会の仲間たちが就職していく中、「役者という職業をやるって、本格的に決めなきゃいけない」とシェイクスピアシアターの門をたたいた。ホームグラウンドだった東京・渋谷のジァン・ジァンの前には大行列ができ、活気にあふれていた。 同じく研究生からのスタートだったが、今度は半年で「ヘンリー六世」3部作のサフォークという大役がついた。「ほらみたことか」。劇団を主宰する演出家の出口典雄から後に、「ハムレット役者が入ってきたと思った」と言われたという。「最初からすげえやつだったんだね」と笑う。 見いだされた理由は、「速度を保ちながら滑舌よくしゃべること」ができたから。高校の頃から見続けた芝居でうまい人は、「せりふがよくわかる人」だった。「早くしゃべったり、遅くしゃべったり、自由自在。こういうふうにしないと、という意識は常に持っていた」 「僕の中で2人、非常に怖い演出家がいて。いやぁもう厳しかったよ」。そう振り返る一人は蜷川。そして、もう一人が出口だった。シェークスピアの言葉を大事にする人で、第一声の一音の言い出しに4時間を費やしたこともあった。だからこそ、どれほど早く話そうとも、どんな感情であっても、言葉をはっきり、せりふを大切にすることを鍛えられた。 その後、「劇工房ライミング」や「東京壱組」で活躍を続けた。98年、客演したシェイクスピアシアター「ヴェニスの商人」では、シャイロック役で「しいたげられた者の思いを内面化した深い演技」が評価され、読売演劇大賞優秀男優賞を獲得した。 そして、2000年に上演されたギリシャ悲劇の超大作「グリークス」。世紀の変わり目に、“世界のニナガワ”との出会いが待っていた。(武田実沙子)■吉田鋼太郎(よしだ・こうたろう)のあゆみ 1959年1月14日生まれ、東京都出身   77年 上智大でシェークスピア劇を始める   80年代初め 劇団シェイクスピアシアターに入団   97年 劇団AUNを旗揚げ   99年 舞台「ヴェニスの商人」で読売演劇大賞優秀男優賞 2001年 舞台「ハムレット」などで紀伊国屋演劇賞個人賞   04年 蜷川幸雄演出の舞台「タイタス・アンドロニカス」で主役に抜てき   13年 連続ドラマ「半沢直樹」に出演   14年 連続ドラマ「MOZU」、連続テレビ小説「花子とアン」で注目を集める   16年 「彩の国シェイクスピア・シリーズ」の芸術監督に就任   18年 連続ドラマ「おっさんずラブ」が大ヒット

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