オーストラリアの東海岸、特にシドニーに住んでいてこの鳥を見ない日はありません。公園、庭先、街路樹、どこにいっても「ピーピー、チャッチャッ」と賑やかな声を響かせているのが、クロガシラミツスイ(Noisy Miner)です。実はオーストラリア全土にいるわけではなく、西オーストラリア州など大陸の西側にはほとんど生息していません。今回はまさに東海岸の「顔」とも言える身近な鳥、クロガシラミツスイを独特な性格と共に紹介します。
(文・写真:クラークさと子)
第2回 ノイジー・マイナー
英:Noisy Miner
日:クロガシラミツスイ
分布:クイーンズランド州北部からニューサウスウェールズ州、ビクトリア州、南オーストラリア州、タスマニア州北東部にかけてのオーストラリア東海岸
春先、ピンクの桜に囲まれるクロガシラミツスイ。一見すると可愛らしい小鳥ですが……
特徴とライフスタイル:甘党だけど、実は肉食系?
名前に「ミツスイ(蜜吸)」とある通り、普段はユーカリなどの花の蜜を器用に吸っています。しかし、それだけではありません。時には自分の頭ほどもある大きな昆虫をパクリとくわえている姿も目撃されます。子育ての栄養補給や、エネルギーが必要な時はなかなかのハンターに変身するのです。
「ミツスイ」という名前ですが、このように大きな虫を捕まえて食べることも珍しくありません
よく似た名前にインドハッカ(Common Myna / Indian Myna)がいます。見た目の配色(茶・黒・黄色)が似ているため混同されがちですが、全く別の鳥です。
インドハッカ(Common Myna / Indian Myna)
インドハッカ: アジア原産の外来種。主に地面を歩いてゴミや虫を探す。
クロガシラミツスイ: オーストラリアの在来種。主に木々を飛び回り、集団で行動する。
彼らは非常に繁殖力が強く、なんと年に数回も子育てをします。身近な生垣や低い木の枝など、「え、そんな人間の生活圏に?」と思うような場所に巣を作ることもしばしば。
子育て中の彼らは警戒心がマックスになります。巣の近くを通る人間に対しても、威嚇のために低空飛行で突っ込んでくることも。ただ、マグパイ(カササギフエガラス)のように実際に人間を突いて怪我をさせるほどの狂暴さはなく、サイズも小さいので「なんか向かってきたな」くらいで済むのが救いです。
なぜ年中、大きな鳥を追い回すのか?
さて、ここからが本題です。子育て中に巣を守るために防衛行動をとる鳥はたくさんいます。しかし、このクロガシラミツスイの異常なところは、「年中無休で、自分より遥かに大きな鳥(カラス、マグパイ、キバタンなど)を追い回している」という点です。
大柄なマグパイやキバタンが、小さなクロガシラミツスイに突っつかれて「やれやれ…」と迷惑そうに逃げていく姿、そして大物らしく決して反撃しない「大人の対応」を見せる姿は、どこかコミカルでもあります。
なぜ彼らは、そこまでして年中喧嘩を売るのでしょうか?
体の大きなマグパイ(手前)に向かって、上空から果敢に突っ込んでいくクロガシラミツスイ(左上)
理由のひとつとして、 超協力的な「一大クローンファミリー」だからという事があります。クロガシラミツスイは「コロニー(集団)」を作って暮らしています。しかもただの集団ではなく、血縁関係のある個体が集まった非常に結束力の強いチームです。 彼らの子育ては「ヘルパー」と呼ばれる、親以外の独身の叔父や兄貴分たちが総出で手伝うシステムになっています。つまり、「群れ全体がひとつの家族」であり、年中誰かが子育てをしているか、あるいは縄張りを維持する必要があるため、季節を問わず常に戦闘モードなのです。
また彼らは、「攻撃こそ最大の防御」という生存戦略を持っています。彼らの防衛本能は、オーストラリアの鳥類の中でもトップクラスに過剰です。カラスやマグパイは、彼らにとって卵や雛を狙う「潜在的な天敵」。キバタンは肉食ではありませんが、巣作りの場所や餌場を荒らす可能性のある「邪魔者」です。 彼らは「近づかれる前に、集団の圧力で追い出す」という戦略をとっています。1羽がアラーム音(警告の声)を発すると、周囲の仲間がワッと集まり、数の暴力で大型鳥を精神的に追い詰めます。
なぜ大きな鳥は反撃しないのか?
大きな鳥たちにとって、クロガシラミツスイは「小さすぎて攻撃が当たらない相手」であり、下手に戦っても群れに囲まれて体力を消耗するだけです。そのため、彼らにとっては「まともに相手をせず、うるさいから移動する」のが一番省エネな選択なのです。大型鳥の「大人の対応」は、実は徹底的な合理主義の結果でもあります。
オーストラリアの空の「小さな支配者」
花の蜜を吸う可愛らしい一面を持ちながら、実は大型鳥をも退ける最強の組織力を持つクロガシラミツスイ。シドニーの街がどれだけ開発されても彼らが減らないのは、この驚異的な「チームワーク」と「強気な姿勢」があるからこそかもしれません。
次に街で大きな鳥が逃げていくのを見かけたら、ぜひその上空を見てみてください。きっと、小さなクロガシラミツスイがドヤ顔で飛び回っているはずです。
