アメリカは中東での戦争にのめり込むあまり、インドとの関係を損なうリスクを忘れがちだ
Missing the India Moment
2026年05月21日(木)18時15分
マーク・ハンナ
(ユーラシア・グループ内に設置されている独立系非営利教育機関「グローバル問題研究所」のCEO)
いまアメリカ政府は莫大な資金を費やしてイランの弱体化を目指しているが、それにより、戦略上極めて重要な2国間関係を損ないかねない。それはインドとの関係だ。
私は先頃、それを実感した。インド訪問を終えてニューヨークに戻ってきたとき、ある事実を知った。私を乗せた旅客機がアラビア海の上空を飛んでいた頃、イランのミサイルが同じ空域を飛んでいたのだ。インド洋の英領ディエゴガルシア島にある米軍基地に向けてイランが発射したミサイルだ。
イランでの戦争を中東地域の出来事と見なしている人は多い。しかし、戦争はインドにとって戦略上重要な近隣地域にも波及しつつあるようだ。その結果として、米印関係に重大な影響が及びかねない。
これほど悪いタイミングはそうそうない。ナレンドラ・モディ印首相がホワイトハウスを訪問し、ドナルド・トランプ米大統領がモディを「素晴らしい友人」と持ち上げたのは、昨年2月のことだ。
このときトランプは、中東を介してインドとヨーロッパを結ぶ「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)」の構想を画期的な貿易ルートだと称賛した。IMEC構想は、中国の「一帯一路」構想に対抗し、向こう数十年にわたり強固な米印関係の基盤になると見込まれていた。
世界最大の民主主義国家
私は今回、インド西部のグジャラート州を訪ね、インドのエネルギー・インフラ大手アダニグループが進める2つの事業を視察した。1つは、インドのコンテナ取扱量の約3分の1を担う最大の商業港ムンドラ港。もう1つは、砂漠地帯のカウダで建設中の世界最大級の再生可能エネルギー拠点だ。
この風力・太陽光発電施設はニューヨークのマンハッタンの9倍もの面積を占める巨大施設で、アメリカではとうてい実現しそうにない大規模プロジェクトだ。IMEC構想の背景には、こうしたインドの壮大な産業規模と野心があった。
しかし、戦争が状況を一変させた。海上輸送が滞り、燃料価格が上昇し、IMEC構想の全域で不透明感が増している。この構想がもともと長期計画と位置付けられていたことは事実だが、戦争により実現可能性が低下したことは否定できない。
世界最大の民主主義国家であるインドは、世界で民主主義が揺らいでいる状況でことのほか重要な存在と言える。しかも、世界屈指の経済成長率を誇り、遠からず世界第3位の経済大国にのし上がる見通しだ。インドはテクノロジー大国であり、医薬品の有力な生産国でもあり、インド太平洋地域の地政学的な力関係においてもますます中心的な地位を占め始めている。
要するに、インドは戦略上、尊重されて当然の国だ。
ところが、最近のアメリカの振る舞いはインド重視とは言い難い。この1年の間に、米政府はインド政府に対し、ロシア産原油の購入削減を迫り、制裁関税まで課した後、部分的に方針を転換させた。
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【note限定公開記事】アメリカは「イラン」に夢中なあまり、“本当に重要な国”を失おうとしている
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