中国共産党の習近平総書記との会談を終えて帰国、党本部で演説する台湾の鄭麗文・国民党主席(4月15日、写真:ロイター/アフロ)

はじめに

 これまで台湾とは距離を置く姿勢を見せてきた米国のドナルド・トランプ大統領が、現時点で台湾についてどう考えているのか、その本音はなかなか見えてこない。

 中国の軍事的脅威が高まる中で、「有事の際に米国は本当に台湾を助けに来るのか」という「疑米論」が台湾で広がっている。

 また、中国は台湾に対し、SNSを通じた世論操作やインフルエンサーの取り込みなど、武力に頼らず台湾社会を内部から分断・弱体化させる認知戦を強化している。

 中国の台湾に対する認知戦の実態については、拙稿「戦わずして勝つために、新しい戦闘領域として世界各国が力を入れる『認知戦』、その実態と日本の対応」(2026年3月13日)を参照されたい。

 さて、中国の認知戦が台湾国内の選挙結果に影響を及ぼしているのではないかという見方は、台湾内に根強くある。

 実際、2024年1月の立法委員(国会議員、定数113)選挙で、与党・民進党は過半数を獲得できず、親中国政策を掲げている最大野党の中国国民党(注1)(以下、国民党とする)と第3勢力の民衆党が過半数を握る「ねじれ国会(立法院)」となった。

 この結果、国防予算や重要法案の審議で強い抵抗を受けるなど頼清徳政権は極めて厳しい政権運営を強いられている。

 ちなみに、選挙の結果は、国民党52議席、民進党51議席、民衆党8議席、無所属2議席であった。今まさに、頼清徳政権は内憂外患の状態にあると言えるのではなかろうか。

(注1)台湾の国民党の正式名称は、「中国国民党」である。理由は、同党がもともと孫文により中国本土で結成され、中華民国(中国全土)の統治を前提とした政党であるからである。そして、現在も正統な中国の統治者であるという理念を維持している。

 そうした中、中国共産党の習近平総書記は2026年4月10日、国民党の鄭麗文(ていれいぶん)主席(党首)と北京で会談した。

「私は中国人だ」と主張し、「92年コンセンサス」(詳細は後述する)の堅持と「台湾独立」への反対を明言する鄭麗文主席の訪中は注目を集めた。

 台湾の頼清徳総統は4月10日、「権威主義者への妥協は民主主義を犠牲にするだけだ。自由はおろか平和ももたらさない」とSNSに投稿し、国民党を批判した。

 中国共産党と台湾の国民党による国共トップ会談は2016年11月以来、約9年半ぶりとなる。

 前回の国共トップの会談は、2016年11月の習近平氏と国民党の洪秀柱(こうしゅうちゅう)主席(当時)との会談である。

 さて、国共トップの会談に先立ち、2026年2月に中国共産党と国民党の交流事業が9年ぶりに再開された。

 国民党の副主席蕭旭岑(しょうきょくしん)氏は、2026年2月2日から3日間の日程で北京を訪問し「国共フォーラム」に出席した。

「国共フォーラム」は国民党と中国共産党が中台(両岸)の経済・文化交流や政策などを話し合う対話の枠組みである。

「国共フォーラム」は2005年当時、国民党の連戦主席が中国共産党の胡錦涛総書記との会談で合意し、翌年から毎年行われてきたが、民進党に政権交代した2016年を最後に中断していた。

 昨年、国民党の主席に中国との関係を重視する鄭麗文主席が選ばれ、鄭麗文主席と習近平総書記との会談につながるかが注目されていた。鄭麗文氏と習近平氏との会談の概要は後述する。

 他方、今年3月末から4月上旬にかけて、米上院議員の訪台が相次いだ。

 4月8日、民主党のジーン・シャヒーン(Jeanne Shaheen)上院議員、共和党のジョン・カーティス(John Curtis)上院議員が3月30日から31日にかけて超党派の上院議員訪問団を率いて訪台したのに続き、共和党のジム・バンクス(Jim Banks)上院議員も代表団を率いて訪れたと、台湾の外交部が発表した。

 頼清徳総統は4月8日、バンクス上院議員率いる訪問団の表敬訪問を受けた。

 頼清徳氏は挨拶で、バンクス上院議員が長年にわたりインド太平洋地域の安全保障に高い関心を寄せ、特に下院議員時代に「台湾強化による平和法案(Taiwan Peace through Strength Act)」や「台湾武器輸出法案(Taiwan Weapons Export Act of 2022)」など、数多くの台湾支援法案を主導したことに謝意を表した。

 また今年2月、バンクス上院議員を含む超党派の上・下院議員37人が、台湾の国防特別予算について早期承認を求めて台湾の主要政治家に対して連名で書簡を送り、中国による台湾への脅威を明確に指摘するとともに、台湾の国防力強化への支持を表明したことについても感謝の意を伝えた。

 一方、バンクス上院議員は挨拶の中で、今回の訪問の最大の目的は、米国が台湾と共に歩む姿勢を改めて表明することであり、それは過去も将来も変わらないと述べた。

 また、中国共産党がいかに圧力をかけようとも、世界は最終的に真実を目にすることになると信じていると語った。

(出典:RTI台湾中央放送局「頼清徳・総統、米バンクス上院議員の表敬訪問で 『実力による平和』を強調」2026年4月9日)

 以上のように、台湾は安全保障面で米国の支援に依存しつつ、台湾を領土の不可分の一部と主張する中国とは、歴史、地理、経済的に切っても切り離せない関係にあるなど極めて複雑なバランスの中で揺れ動いている。

 さて、本稿は、約9年半ぶりの国共トップ会談を通じて見える、最近の台湾情勢を述べてみたい。

 初めに、鄭麗文氏の経歴と特徴について述べ、次に鄭麗文主席が率いる訪問団の行動概要について述べ、最後に習近平総書記と鄭麗文主席との会談の成果について述べる。