内心笑が止まらないであろうプーチン大統領(3月19日撮影、写真:代表撮影/AP/アフロ)

(英エコノミスト誌 2026年3月21日号)

ただし、「シュガー・ハイ」は長続きしないかもしれない。

 香港船籍で船齢20年の石油タンカー「セーラ号」は2月22日から26日にかけて、トランスポンダの電源を一時的に落とした。オマーンの沖合でロシア産の原油を小さなタンカー3隻から受け取るためだ。

 積み替えを終えて目指した港はシンガポールだった。恐らくそこで別の「影の船」に積み荷を移し、中国に向かわせる計画だったのだろう。

 だが、米国がロシアへの制裁の適用を一時免除し、インドの石油精製業者によるロシア産原油の購入を30日間に限って認めると発表した翌日の3月6日、セーラ号は不意に針路を変えた。

 本稿執筆時点では、3月14日にインド西部の製油所に到着する予定になっていた。

 タンカーのUターンはロシアのエネルギー産業の運命がイラン戦争勃発後に劇的な反転を見せたことを象徴している。ホルムズ海峡の事実上の閉鎖により、世界の石油のおよそ15%がペルシャ湾に封じられた。

 昨年12月には、世界の石油価格の指標である北海ブレント原油が1バレル59ドルという5年ぶりの安値を記録し、石油業界は「スーパーグラット(供給過剰)」を予測していた。

 それが今では同100ドル前後で推移している。

 そのため、ロシア産原油を遠ざけることはますます難しくなっている。3月12日にはトランプ政権が例の適用免除措置を拡張し、すでにタンカーに積み込まれたロシア産原油についてはどの国でも購入できるようにした。

絶好のタイミングで訪れた僥倖

 ウラジーミル・プーチン大統領にとって、この適用免除はこれ以上ない絶好のタイミングで訪れた。

 イラン戦争の前、ロシアの石油収入――そして同国経済――はついに沈むかに見えた。

 最大の顧客であるインドと中国の製油所の多くは、ロシア最大の石油生産会社ロスネフチとルクオイルの2社に対する米国の制裁発動を控え、11月頃に購入を停止した。

 今年2月までには輸出量が2割減少し、価格の下落も相まってクレムリンの石油・ガス収入は前年比で44%も減っていた(図1参照)。

図1

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 わずか2カ月間でロシアの財政赤字は3兆4000億ルーブルに膨らんだ。通年の財政赤字目標の90%に相当する額だった(図2参照)。

図2

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 今日、ブレント原油の価格はロシアがウクライナに全面侵攻した年の平均水準に戻っている。

 米シンクタンクのブルッキングス研究所に籍を置くロビン・ブルックス氏は、ホルムズ海峡の閉鎖が長引けばロシアは「2022年式棚ぼた」を再度手にする可能性があると見ている。

 同年に西側諸国によって凍結されたロシア中央銀行の資産3000億ドルの穴を埋めるのに十分な額だ。

 湾岸危機でロシアが得る目先の恩恵は、出荷したものの、買い手不足のために洋上に滞留していた大量の原油を売りさばくチャンスだ。

 インドはすでにロシア産原油の購入量をざっと50%増やしており、ロシアの洋上在庫を10%以上減らして1億2200万バレルにすることに貢献している(図3参照)。中国の輸入も増えている。

図3

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 こうした動きは、ロシアの財政よりも貿易業者の助けになる。出荷された原油は政府がすでに売却したものだからだ。

 だが、トランプ政権は、公式的か否かはともかく、ロシアが新たに生産する原油に対しても態度を軟化させるだろう。実際にそうなった場合、ロシアは3つの面で恩恵を享受する。

 販売する原油の価格上昇、西側による制裁の緩和、新規開発プロジェクトに中国からの支援が得られる可能性だ。