(CNN) 米国がイランに対して起こした戦争を巡り、米国側の戦争長官(本人がそう呼ばれたがっている)が好んで口にするのは、自身がどれだけキリスト教の神を味方につけているかということだ。
8日放送のCBSニュースのインタビューで、ヘグセス米国防長官はイランに対し、米国の覚悟を疑ってはならないと警告した。米国の後ろには、より高次の力がついているというのがその理由だ。
「能力と意志、共に我が国の方が優れている。軍隊もそうだ。我らの全能の神による導きが兵士たちを守るからこそ、我が軍はこの任務に全力を尽くしている」。ヘグセス氏はそう語った。
CBSのメージャー・ギャレット記者はヘグセス氏に、当該の戦争を宗教的背景から捉えているのかどうか尋ねた。
これに対しヘグセス氏は「自明のことだが我々が戦っている相手は宗教的狂信者で、核の能力を求めている。宗教におけるある種の最終戦争を起こすために」と回答。その後には「このようなときこそ、兵士たちはそれぞれの全能の神と結びつく必要がある」とも付け加えた。
それから数日後、殉職して送還された兵士の追悼式典から戻って間もないヘグセス氏は、国防総省での記者会見で旧約聖書の詩編144を引用した。その言葉は以下の通り。
「我が岩なる主はほむべきかな。主は、いくさすることを我が手に教え、戦うことを我が指に教えられる」
米国はキリスト教国と主張
ヘグセス氏は長年、国を設定し直したいと考えていた。
「米国はキリスト教国として設立された」。最近の全米祈祷(きとう)朝食会でヘグセス氏はそう発言し、「キリスト教国の本質は我々のDNAに刻まれている。それを守り抜ければの話だが」と言い添えた。ここではベンジャミン・フランクリンが口にした有名な言葉に、ある種の宗教性をまとわせている。フランクリンはかつて、米国は君主制か共和制かと問われ、「共和制だ。それを守り抜ければの話だが」と答えた。
ヘグセス氏はまた、「我々は自由という武器庫を備えた戦士であるだけでなく、究極的には信仰という武器庫を備えた戦士でもある」と語った。こちらは、米国は民主主義の武器庫たるべしというフランクリン・D・ルーズベルトの考えを、自身の宗教的世界観に寄せて言い換えた形だ。
信仰示す胸のタトゥー
ヘグセス氏が自身の体に入れたタトゥーの一つに、「エルサレム・クロス」 がある。これは十字軍と結びつく宗教的なシンボルで、本人によればこのタトゥーが原因で過激主義者扱いを受け、2021年に行われたバイデン前大統領の就任式の警護に参加することができなかったという。当該の図像は十字軍に起源を持つ。当時欧州のキリスト教徒は聖地エルサレムをイスラム教徒から奪還しようとしていた。
「Deus Vult(ラテン語で「神はそれを望まれる」の意)」の文字もまた、タトゥーとしてヘグセス氏の体に刻まれている。本人の20年の著書「American Crusade(米国十字軍)」の中で、ヘグセス氏はその言葉について、「エルサレムへ向けて行進するキリスト教の騎士たちのスローガン」と説明している。

ヘグセス氏の胸に「エルサレム・クロス」のタトゥーが見える2019年のインスタグラム動画の静止画像/Pete Hegseth/Instagram
21世紀の「十字軍」
イスラム教徒もしくはイスラム教の信仰を中心に社会と政治を整理し直そうとする人々に異議を唱えることは、一つの動機付けとしてヘグセス氏の公人生活に影響を及ぼし続けている。
「American Crusade」の中で、ヘグセス氏は米国が「十字軍的瞬間」に直面していると主張。キリスト教徒が聖地に侵攻した11世紀と同じだと示唆した。ヘグセス氏によればイスラム主義者たちは米国の「左派」から力を得て、敬虔(けいけん)なキリスト教徒の米国人と敵対しているという。
「我々は戦いを望んではいない。しかし、1000年前の仲間のキリスト教徒と同様に戦わなくてはならない」。ヘグセス氏はそう書いた。米国がイスラエルと共に戦争に向かうという構想も、同書に前兆があった。次の一節がそれだ。
「我々キリスト教徒は、ユダヤ人の友人たちやイスラエルにおける彼らの素晴らしい軍隊と共に、妥協なき米国主義の剣を手に取り、自らを守らなければならない。我々はイスラム主義を押し返さなくてはならない。文化的に、政治的に、地理的に。そして過激派組織イラク・シリア・イスラム国(ISIS) のような悪の勢力に対しては軍事的にもそうする必要がある」
長年のイスラム不信
「American Crusade」はISISに対抗して戦うことを念頭に置くが、現在米国はイスラエルと共に、イスラム共和国のイランと戦争をしている。同書の別の箇所でヘグセス氏は、イスラム教が米国にもたらす脅威にまつわる自らの見解を説明している。
「米国人が『イスラム教は平和の宗教』という幻想を抱き続ける時間が長ければ長いほど、我々の課題はますます困難なものとなる。欧米の人口構成が変化し続ける中ではなおさらだ。イスラム教は創設以来、自らの敵、つまり全ての『異教徒』と戦い続けており、決してその戦いを止めることはない」
米国とイスラエルが空爆を仕掛けてイランの最高指導者を殺害したのは今年だが、トランプ政権の主張によると戦いは1979年から続いている。この年イランではイスラム革命が起こり、米国の支援していた国王が権力の座から追い落とされた。
宗教色強めるペンタゴン
国防長官として戦争前、ヘグセス氏は「従軍聖職者を再び偉大にする」ための取り組みを開始した。従軍聖職者はあらゆる宗教の信徒に奉仕することになっているが、ヘグセス氏は彼らのマニュアルを改訂する意向を表明。神への言及を増やし、世俗的な表現への依存を減らしたいとしている。
「信仰を持つ戦士たち」は軍内の世俗的ヒューマニズムによって疎外されてきたと、ヘグセス氏はX(旧ツイッター)への投稿で述べた。
同氏は国防総省内全体に放送される月例の祈りを推進している。2月には、自身の牧師のダグ・ウィルソン氏を招き、米軍に向けた説教を行った。ウィルソン氏は米国をキリスト教の神権政治国家にしたいと望むキリスト教ナショナリストだ。
ウィルソン氏は昨年、CNNとのインタビューで、女性について「人が生まれてくる方の人間」との見解を表明。また米国はキリスト教の神権政治国家であるべきだという考えを擁護した。

2025年11月28日、米首都ワシントンのコロンビア地区兵器庫で、ヘグセス国防長官が州兵隊員らと共に祈りを捧げている/Spc. Sherald McAulay/Joint Task Force DC/US Army National Guard
世俗的な軍関係者からの苦情
軍人の権利擁護を目指す非営利活動団体「軍事宗教自由財団(MRFF)」は、開戦から1カ月も経たないうちに多数の苦情が寄せられたと述べている。CNNはこれらの苦情を独自に確認できていない。MRFFの創設者で元空軍弁護士のマイキー・ワインスタイン氏によると、その理由は苦情を申し立てた人々が報復を恐れているためだという。
しかしワインスタイン氏は、そうした苦情の中に司令官同士の会話も含まれていると明かす。それはイランとの戦争が聖書の終末予言の一部だとする内容だという。下院の民主党議員たちは、この苦情に関する調査を求めている。
ワインスタイン氏は記者に対し、ヘグセス氏の発言はイスラム世界に対し、米国が自分たちの十字軍を開始しているとの印象を与えるものだと語った。
「11世紀から13世紀にかけて8回の十字軍遠征が行われたが、現在の我々はその第9弾さながらに思える」とワインスタイン氏。「相手はボコ・ハラム、ISIS、タリバン、アラビア半島のアルカイダだ。彼らがシーア派であれスンニ派であれ、我々はただ巨大なイスラム国家を攻撃するだけだ。こうした行動は全て、我々が戦っている相手にとって計り知れないほどのプロパガンダの好機をもたらすだろう」
ヘグセス氏が終末の予言や、イスラエルによる聖地の奪還を神の啓示の前兆とする考えについて、公の場で語った様子はない。一方で、宗教的な理由から米国はイスラエルと連携すべきだという見方からは距離を置いていない。
キリスト教徒にしてシオニスト
昨年の承認公聴会における一連の賛同的な質問の中で、アーカンソー州選出の共和党上院議員トム・コットン氏は、ヘグセス氏に対し、自身を「キリスト教シオニスト」と考えているかどうかを尋ねた。
これに対しヘグセス氏は「私はキリスト教徒であり、イスラエル国家とその存亡をかけた防衛を強く支持している。偉大な同盟国としてイスラエルに寄り添う米国の姿勢についても同様だ」と答えた。
シオニズムとは、ユダヤ民族が中東に自らの国家を樹立し、防衛する権利を有するという思想を指す。一方、「キリスト教シオニズム」という独自の用語は、ユダヤ人が聖地に戻る権利が旧約聖書の創世記によって保障されているという考えを意味する。
「キリスト教徒は特にそうだが、一部の人間はイスラエルの存在が聖書の予言、とりわけキリストの再臨に関する予言の実現だと信じている」と、オクラホマ大学の政治・宗教学教授であり、キリスト教ナショナリズムに関する共著書を持つアリソン・ショートル氏は述べた。
「米国例外主義」の一形態
ショートル氏が記者に語ったところによれば、ヘグセス氏が信奉するキリスト教福音派の傾向は、「米国例外主義」の見解に一致しているという。米国例外主義は、米国人は他国の人々とは異なり、他の社会とより広範な道徳的対立を繰り広げているという考え方。
「キリスト教ナショナリズムと米国の宗教的例外主義は、同じ秩序の本質的な部分に属する。それはキリスト教徒を頂点に据え、その他すべての人々をある意味その下に位置づけるもので、極めて支配的な形式を取る」(ショートル氏)
我ら対彼ら
こうした世界観を持つ人々にとって、イランは戦うべき相手ということになる。戦いは「国益の問題もさることながら、同時に原則や信念、価値観を巡るものにもなる」という。 米国の福音派に関する著書があり、ウィスコンシン州マディソンにあるキリスト教学者コミュニティー「ルーメン・センター」の所長を務めるダニエル・フンメル氏はそう述べた。
「イスラエルを『選ばれた民』とする考えや、中東で起きている出来事には宇宙的な意義があるという見方は非常に広く浸透している。特に白人の米国人キリスト教徒の間ではそうだ」(フンメル氏)

3月9日、デラウェア州ドーバーの空軍基地で行われた殉職兵士の追悼式典で、国旗で覆われた棺が運ばれる中敬礼するヘグセス国防長官/Brendan Smialowksi/AFP/Getty Images
ショートル氏は、ヘグセス氏の見解を「極端」と評しつつも、米国人の約半数は、何らかのキリスト教ナショナリズムのイデオロギーを支持していると述べた。そこには米国がキリスト教国家として建国され、神の啓示を受けたという考えが含まれる。
「これがキリスト教ナショナリスト運動の一部だという文脈を抜きにすれば、人々はそうした考えそのものを十分好意的に受け止めている」とショートル氏は分析。さらに「そうした米国人の規模には不安を覚える。当該のイデオロギーは多くの反民主的な結果や信念と結びついているからだ」と付け加えた。
ヘグセス氏がこうしたジレンマに悩まされることはない。「American Crusade」の中で、同氏はイエスの平和的な教えと、自身の多様性推進への反対、そして戦いに向けた広範な呼び掛けを、次のように整合させた。
「いわゆる『寛容』は、イスラム主義者への降伏のように感じられる。なぜなら、実際その通りだから。イエスは確かに『もう一方の頬も差し出せ』と我々に教えたが、それが国防長官への助言でなかったことは、ほぼ間違いのないところだろう」
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本稿はCNNのザカリー・B・ウルフ記者による分析記事です。
