アングル:日鉄の巨額CBが示す潮流、金利上昇と株高で資金調達に変化

東京スカイツリーの展望台から見えるオフィスビルや住宅。2021年8月18日撮影。REUTERS/Marko Djurica

[東京 24日 ロイター] – 日本の転換社債(CB)市場で、発行拡大への機運が高まっている。日本製鉄(5401.T), opens new tabが日本企業で最大となる総額5500億円のCB発行を決めるなど、大型案件が動き出した。金利上昇や株高を背景に、成長投資が必要とされる企業側でCBを選択肢として検討する動きが広がっている。関係者によると、少なくとも複数件以上のパイプライン(準備中の案件)があるとの声も出ている。

<金利上昇で負債構成見直し>

日銀の金融政策の正常化を背景に国内金利は上昇基調にある。これまで低金利を前提に間接金融や普通社債(SB)を活用してきた企業にとって、調達コストは徐々に重みを増す。野村証券の投資銀行部門で転換社債を手がける木原隆夫マネージング・ディレクターは「金利上昇を意識して、負債構成を見直す企業が増えている」と指摘。資金調達手段を多様化する動きが加速しているという。

選択肢の一つとして浮上しているのがCBだ。社債として資金を調達しつつ、株価があらかじめ定めた転換価格を上回れば投資家の株式転換により、企業は自己資本を増強できる。クーポンをつけずに発行できることもあり、借り入れや社債に対して金利コストも抑制できる。

昨年11月に300億円のCBを発行したJVCケンウッド(6632.T), opens new tabの宮本昌俊・最高財務責任者(CFO)は、当時借入の固定金利が1年前の倍程度に上昇し、仮に社債を発行すれば、年間で20億円超の利払い増が見込まれる可能性があったと話す。このため「利払いとしてキャッシュアウトするのではなく、成長投資に振り向けるべきだ」と判断し、即時の希薄化も抑制できるCBを選択したと説明した。

もっとも、CBには希薄化懸念や、転換されなかった場合のリファイナンスリスクも伴う。株式転換後の資本コスト上昇を警戒する投資家もおり、それを上回る成長ストーリーを示せるかが重要となる。実際、JVCケンウッドでは潜在的な希薄化率を超える株価下落を招いた局面もあった。宮本CFOは、次期中期経営計画の発表前だったこともあり、投資家に唐突感を与えた面があったと振り返る。その後は個別IR(インベスター・リレーションズ)などを通じて成長戦略の説明に努めており、足元の株価は上昇基調にある。

<増える大規模投資>

みずほ証券のグローバル投資銀行部門の武井隼人・エクイティシンジケーション部長によると、大型M&A(合併・買収)を視野に入れた場面でも、利払いの財務負担を抑えつつ機動的に大規模な資金を確保できる点も企業の間でCBが選択肢として浮上している理由の一つだという。「企業が攻めに転じる事例が全体的に増えており、それに見合う形で資金調達ニーズも高まっている」といい、株高が続く中、高い転換価格を設定しやすい環境にあることも、CBを検討しやすい要因になっているとみる。

日本製鉄はきょう、総額5500億円の転換社債の発行を決めた。資金使途は、約2兆円(141億ドル)を投じた米鉄鋼大手USスチール買収に伴い調達したブリッジローンの借り換えだ。同社は、国内市場が人口減少に伴い中長期的に縮小が見込まれるのに対し、成長が期待できる北米で安定した需要基盤を確保するため、戦略市場と位置付ける米国での事業基盤強化を目的にUSスチールの買収に踏み切った。

さらに、高級鋼材である電磁鋼板の能力増強や電炉転換などの脱炭素投資、インド事業強化など大型投資が控える中、財務の安定性に配慮しつつ資金確保を進める考えだ。

金融機関の関係者によると、データセンターや半導体関連投資、脱炭素分野への対応など大規模な投資が必要な分野でもCBが選択肢として検討されているとみられるほか、日鉄のような攻めのM&Aの資金調達手段としても候補に挙がっているという。

別の関係者は、少なくとも今後複数以上のパイプラインがあると述べている。12日には、北海道電力(9509.T), opens new tabが財務基盤の強化と資金調達手段の多様化、低コストの資金調達として400億円の転換社債の発行を決めた。

<待たれる日本物CB>

グローバルのCB投資家にとって、日本物はクレジットが比較的安定しており、分散投資の観点で魅力的とされる。ただ、既発債の償還が進む一方で発行件数が限られ、まとまった投資機会が少ないのが実情だ。「日本株に注目が集まる中で、CBの投資家もその流れに乗りたい人が多いが、増えると思っていたのに増えていない」(野村証券の木原氏)とされる。

LSEG(ロンドン証券取引所グループ)のデータによると、2025年の発行額は2850億円で、過去10年でみても高水準だった24年対比7割減った。ただ、個別案件では底堅い需要も確認されている。昨年、日産自動車による2000億円のCB発行を率いたみずほ証券によると、成長戦略と最適なバリュエーション、流動性の確保などにより需要が集まり、最終的に増額発行に至った。武井氏は「投資家の目線に合う適切な条件を設定すれば、日本のCBには十分な需要がある」と話す。

日本のCB市場は「水面下で徐々に機運が高まっている段階」といい、金利上昇と株高、さらに企業の成長投資ニーズが重なれば、26年、日本でもCBによる調達が24年を上回る可能性があるとみている。

浦中美穂  編集:内田慎一

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