会場は、旧朝香宮邸として知られる東京都庭園美術館。1933年に竣工した本館は、アール・デコ様式の装飾が随所に施された国の重要文化財でもある。ここに並ぶのは、パリの名門ハイジュエラー、ヴァン クリーフ&アーペルが誇る歴史的なジュエリー、時計、工芸品およそ250点と、デッサンなどの資料およそ60点。アール・デコ建築のなかで、アール・デコ・ジュエリーの精華を見ることができるまたとない機会となっている。

 アール・デコとは、1920年代から30年代にかけてフランスを中心にヨーロッパを席巻し、1925年の博覧会の名前をとってこのように呼ばれているデザインの潮流のこと。ライフスタイルやファッションがモダンに変化するなかで広まったアール・デコの機運は、やがて海を越えてアメリカや日本にまで波及した。

 当時、日本の皇族であった朝香宮鳩彦王(あさかのみややすひこおう)はフランスに長期滞在しており、妃の允子妃(のぶこひ)とともにパリでアール・デコ博覧会を観覧して、その様式美に大いに魅せられたという。帰国後、自邸を建設するにあたっては、アンリ・ラパンやルネ・ラリックなどフランスきっての優れたデザイナーに依頼して、瀟洒(しょうしゃ)なアール・デコ様式の邸宅をつくり上げた。宮家の皇籍離脱後は、首相公邸や迎賓館としても使用されてきたが、内装、外装ともにここまで良好な状態で残されたアール・デコ建築は、フランス本国でも珍しいという。

 今回の展示のハイライト《絡み合う花々、赤と白のローズ ブレスレット》は、アール・デコ博覧会に出品され、宝飾部門でグランプリを受賞した記念碑的な作品。ルビーの鮮烈な赤でバラを描き出した本作は、きっと博覧会の会場で朝香宮夫妻も目にしたことだろう。このブレスレットは、花模様のレリーフが壁面を飾る大食堂に展示される。花々に囲まれた部屋で見る、バラのハイジュエリー。博覧会から100年後に果たされた、夢のような邂逅(かいこう)だ。

 1906年にパリのヴァンドーム広場に宝飾店を構えたヴァン クリーフ&アーペルは、創業後たちまち国際舞台に躍り出て、王侯貴族や大富豪、文化人、そしてマハラジャからも愛された。とりわけアール・デコ期におけるメゾンの躍進はめざましく、機能的な「ミノディエール」や、宝石を立爪なしで留める「ミステリーセット」などの豪奢なスタイルで名を馳せた。本展では、メゾンが収集する「パトリモニー コレクション」から選りすぐりの貴重なマスターピースが、旧朝香宮邸の建築と呼応し、響き合う。優雅によみがえる100年前の時代の空気を体感できる展覧会なのだ。

『永遠(とわ)なる瞬間 ヴァン クリーフ&アーペル ー ハイジュエリーが語るアール・デコ』
会期: 2025年9 月27日(土)〜2026年1 月18日(日)
会場:東京都庭園美術館 開館時間:10時〜18時
(11月21・22・28・29日、12月5・6 日は20時まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜、年末年始(12月28日〜1 月4 日)
祝日の月曜は開館、翌日の火曜は休館 
※日時指定予約制
問い合わせ:TEL. 050-5541-8600(ハローダイヤル)

BY KEIKO HONMA

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