Asia Trends
2024.08.15
アジア経済
アジア金融政策
ニュージーランド経済
ニュージーランド:金融政策(24年8月)
~足もとの経済減速を受けて前倒しで金融緩和へ転換、約4年5か月ぶりの利下げを実施~
阿原 健一郎
要旨
8月14日、RBNZは政策金利の引き下げ(▲25bps、5.50%→5.25%)を決定。市場予想は据え置きと利下げで割れていた。利下げは約4年5か月ぶり。21年10月会合から開始した金融引き締めを、今回会合で緩和方向へと転換させた。
利下げの背景は、消費者物価はターゲットレンジである1~3%に戻りつつある、としている。
先行きは、追加緩和のペースはデータ次第、としつつも、インフレ率が想定通りに推移すれば▲25bpsの利下げを継続していくとみられる。
今回の利下げを受けて、NZドルは対米ドル、対円いずれも減価。
8月14日、ニュージーランド準備銀行(RBNZ)は政策金利(オフィシャルキャッシュレート)の引き下げ(▲25bps、5.50%→5.25%)を決定した。市場予想は据え置きと利下げで割れていた(据え置き:19/31人、▲25bps:12/31人、ロイター調査)。利下げは約4年5か月ぶり、直近は8会合連続の据え置きとなっていた。21年10月会合から開始した金融引き締めを、今回会合で緩和方向へと転換させた(図表1)。


利下げの背景について、RBNZは「ここ数カ月の国内の経済活動が大幅に弱まった」うえ、「消費者物価は、ターゲットレンジである1~3%に戻りつつある」として、金融引き締めのレベルを緩和させたとした。
インフレの動向については、「サービスインフレは依然として高い水準にあるが、経済の余力が増加することで、国内外で低下し続けると予想される」、「ニュージーランドの消費者物価は、当面の間、ターゲットレンジの中間値付近にとどまると予想される」と評価した。直近24年2Qの消費者物価は、総合CPIが前年比+3.3%と、24年5月時点のRBNZ見通し(同+3.6%)以上に鈍化しており、足もとのインフレ抑制の進展を受けて、RBNZは今回インフレ見通しを大きく引き下げている(図表2)。


経済活動については、「広範囲にわたる高頻度データが、ここ数カ月の国内の経済活動が大幅に弱まっていることを示している」と評価した。ここ数か月、クレジットカード等の電子カード取引や住宅販売件数の減少が続いている。
また、需給ギャップの推計値も、5月時点の推計よりも、足もとまでは上振れていたものの、先行きはマイナス幅が拡大するという内容に改定された(図表3)。需給ギャップの推計値がこのように改定された背景には、移民の伸びの鈍化等を中心とした人口減少と生産性の低下により、潜在成長率の推計が引き下げられたことがある。足もとまでは、実質GDPの実績値に対して、潜在成長率の推計が遡及して引き下げられたことで需給ギャップのプラス幅が拡大しているが、先行きは、実質GDPの見通しも下方修正されたため、結果として需給ギャップのマイナス幅が拡大する格好となった。25年半ばからは、設備投資等が回復し、需給ギャップのマイナス幅が縮小するとしている。RBNZにとって、前回見通し対比、経済活動が想定以上に減速する見込みとなったことも、今回の利下げ開始の大きな判断材料になった。


インフレリスクについては、相対的に、下振れリスクよりも上振れリスクについて議論が行われたようである。上振れリスクとしては、企業の価格設定行動の非対称性(インフレ率が上昇している局面では迅速に値上げするが、インフレ率が低下している局面では緩やかに値下げを行う)や、地政学リスクの高まり、グローバルな製造業の国内回帰による輸入物価の上昇を挙げている。下振れリスクは、中国を中心とした世界経済の減速が国内経済を下押しするリスク、賃金改定や価格設定行動が予想以上に急速に行われる可能性等に言及している。
先行きについては、国内のインフレ圧力が引き続き解消されることを確実にするため、当面は金融政策の引き締めを続ける必要があるとし、「追加の緩和ペースは、価格動向が低インフレ環境と引き続き整合的であり、インフレ期待がターゲットである2%付近で固定されている、という確信を政策委員会がもてるかどうかに左右される」として、データ次第だとした。もっとも、今回公表されたRBNZの政策金利見通しによれば、RBNZの想定通りにインフレ率が推移すれば、今後も▲25bpsの利下げペースを継続していくとみられる(図表4)。7月から低中所得者層や子育て世帯を対象とした個人所得税の減税(1年あたり名目GDP比約0.7%の財政支出)が開始されるため、先行きインフレ率の鈍化ペースは幾分緩慢になると考えられるが、RBNZのインフレ見通しでもその点は織り込まれており(図表2)、前述のリスクが顕在化しなければ、概ねRBNZの想定しているパスで推移すると考えられる。次回会合以降も▲25bpsの利下げが既定路線となるだろう。


なお、今回の利下げを受けて、NZドルは一時、対米ドルで▲0.6%、対日本円で▲0.8%減価した(図表5、6)。


阿原 健一郎
