九州・山口の文芸を巡っては、定型詩と自由詩、詩歌と散文といった、対照的なジャンルを行き来しながら、表現を追求する作品が目立った。中原中也賞の贈呈式であいさつに立つ佐藤文香さん(左)中原中也賞の贈呈式であいさつに立つ佐藤文香さん(左) 選考委員の大幅な世代交代で注目された現代詩の新人賞、中原中也賞(山口市主催)に、俳句で活躍してきた東京都の佐藤文香さん(38)の詩集『渡す手』(思潮社)が選ばれた。

 山口市で4月29日に行われた賞の贈呈式で、選考委員の蜂飼耳さんがたたえたのは、俳句という定型詩の経験を通して培われた言語感覚だった。
 その1編「
花筏(はないかだ)
」。〈柩をつくる仕事に就いたと/教えてくれたとき/池の緑の水に 花筏/白鷺はかしこまった口元で/このあたりの案内を買って出る〉(部分)
 「花筏といった俳句の季語が、キラッと光る位置を占めて作中に表れる。言葉を扱うことがどういうことなのか、日頃、様々な形で鍛錬していることが感じられた」
 これに対し、佐藤さんが中也の詩「
春宵(しゅんしょう)
感懐」を引用して語ったのは、定型詩を離れ、自由詩に挑んだからこその発見だった。
 例えば、冒頭の〈雨が、あがつて、風が吹く。〉という1行。字数が限られた俳句では「風」とだけ書くが両者には大きな違いがあるという。 「名詞に動的なイメージを託し、読者はそれを想像して鑑賞するのが俳句の妙味。でも、風が吹く、と言えば、風とだけ言った時には存在しない『ふーっ』という、風の音を作ることができる」 隣り合うジャンルを往来することで見えた日本語表現の豊かさと可能性。佐藤さんはこう表明した。「俳句の現場から足を踏み出さなかったなら、言葉を重ねることで、新たな音やリズムが生み出されることの面白さに気づかなかった。それぞれのジャンルの特性を意識しながら日本語による表現に挑戦していきたい」 1 2 3