自治体の行政情報を住民らに知らせる広報紙。目を引く写真やデザインなど様々な工夫が施され、自治体ごとの個性が光る。足立区が月2回発行する「あだち広報」もその一つ。意外と知られていないが、表紙タイトルの「だ」の濁点部分が、毎号内容に合わせてデザインされている。「広報紙を手に取るきっかけにしてほしい」との思いで、報道広報課の職員たちが10年以上試行錯誤を続けてきた。(斉藤新)「あだち広報」の2024年2月25日号。自転車がなくなり、慌てふためく人の様子がデザインされている(足立区提供)「あだち広報」の2024年2月25日号。自転車がなくなり、慌てふためく人の様子がデザインされている(足立区提供) 「わ、わたしの自転車がない…」。今年2月25日号のあだち広報の表紙。「だ」の文字を目で追うと、濁点の二つの点が人と自転車のデザインだ。止めたはずの自転車が元の場所から跡形もなく消え、持ち主が慌てふためく様子が描かれている。

 なぜ、このようなデザインなのか。同じページの記事を読むと答えはすぐにわかる。この号は昨年の区内の刑法犯認知件数が、2年連続で増加したことを伝える特集。同区では自転車盗の割合が最も多く、3割を占めた。半数が無施錠で、注意を呼びかけた。広報紙のデザインについて話し合う広報係の職員たち(20日、東京都足立区で)広報紙のデザインについて話し合う広報係の職員たち(20日、東京都足立区で) 区の広報紙は、1948年から発行されている。濁点のデザインが最初に変わったのは、2013年4月25日号。区が新しく委託した製作会社が、濁点に二片の桜の花びらをあしらったデザインを手がけたという。「面白いので続けてみては」。近藤弥生区長のそんな一言がきっかけで、同年6月10日号から現在まで続いているという。 デザインを担当するのは、報道広報課広報係の20~30歳代の職員5人。毎号の特集に合わせて案を考え、イメージを製作会社に伝えている。その後、できあがった刷りを見ながら意見を出し合い、よりよいデザインに仕上げていくという。犬のおまわりさん(左)と迷子の子猫のデザイン犬のおまわりさん(左)と迷子の子猫のデザイン夏らしいちょうちん(左)とうちわのデザイン夏らしいちょうちん(左)とうちわのデザイン「サポート詐欺」に注意を呼びかける号では、パソコン(左)と羽の生えた紙幣をデザインした「サポート詐欺」に注意を呼びかける号では、パソコン(左)と羽の生えた紙幣をデザインした 11年間で紙面を飾った濁点のデザインは、約250種類。打ち上げ花火や紅葉、雪だるまなど季節を感じさせるものもあれば、地域に民間交番が開設したことを伝える号では、童謡をヒントに犬のおまわりさんと迷子の子猫をデザインしたものもある。パソコンに偽の警告画面を表示して金銭などを要求する「サポート詐欺」を取り上げた記事では、パソコンと羽の生えた紙幣をあしらい、お金がだまし取られる様子を表現した。 広報係には選挙管理委員会や教育委員会、人事課など様々な部署から異動してきた職員たちが集まっており、鈴木賢志さん(28)は「様々な経験のある人材が知恵を出し合うことで、今でもネタが切れず作り続けられている」と話す。 毎年1月のお年玉プレゼントの企画のアンケートや広報紙の取材で区民らから「毎号違った濁点を楽しみにしている」といった声が届き、デザイン作りの励みになっているという。今年3月には、濁点のデザインに気づいた読者がX(旧ツイッター)で投稿。投稿が拡散され、にわかに注目が集まった。 今では約36万世帯の目を楽しませているあだち広報。広報係の田端雄貴さん(29)は「広報紙を読む楽しみの一つとして、これからもアイデアをひねり出していきたい」と話していた。◇足立区広報紙のアーカイブQRコード足立区広報紙のアーカイブQRコード 足立区は今年3月に過去の広報紙をインターネットで検索、閲覧できるデジタルアーカイブ=QRコード=を開設した。 区では過去の広報紙を数年ごとに縮刷版として冊子にまとめ保存してきたが、冊子は劣化が進んでいるほか冊数も限られるため、資料を後世に残そうと紙で保管されていた約2000号分の広報紙を電子化した。