鉄道会社の駅員らが客から暴言や理不尽な要求などを受ける「カスタマーハラスメント(カスハラ)」の被害が深刻化していることを受け、JR西日本などが対応の基本方針を策定した。暴力行為のほか、SNSでの嫌がらせも目立つ。鉄道事業者は「働きやすい環境を損なう」として、そのような乗客にはサービスを行わない方針だ。(林佳代子) 「早くしろ、クズ」。駅の乗り越し精算機のエラー音に対応していたJR西の駅員はある日、利用客から暴言を浴びせられた。状況を確認しようと質問をしたところ、「殺すぞ、ボケ」と激怒されたという。 鉄道業界では列車の遅延などを巡り、カスハラが起きやすいとされる。国土交通省が昨年12月に公表した実態調査によると、2022年度に全国の鉄道会社で1124件が確認された。 駅の窓口で切符の変更を希望した子連れの乗客が、駅員に「対応が遅いから子供がぐずった。フォロワーが多い私のSNSに載せる」と迫った事案などがあった。最多の発生場所は神奈川県(220件)。東京都(178件)、大阪府(173件)と続き、上位3都府県で半数以上を占めた。 暴力行為も後を絶たない。国交省によると、コロナ禍による乗客減で一時減少したものの、22年度は569件となり、21年度(435件)から増加に転じた。事案の半数以上で客が飲酒状態で、ある鉄道会社では駅員が額を3回殴られ、全治約2週間のけがを負った。◎ カスハラは列車の運行や駅業務に支障を及ぼすだけでなく、職場環境が悪化して従業員の離職につながりかねないとして、鉄道事業者は対応策を講じている。 JR西は昨年7月、個人の特定を避けるため、運転席や駅窓口でのネームプレートを廃止。今年4月には、カスハラ対応の基本方針を策定。該当事例として▽腕をつかんだり物を投げつけたりする暴力行為▽土下座の要求――などが確認された場合、サービスを中止することなどを盛り込んだ。 JR東日本も4月に同様の対応方針を公表。全国72の鉄道会社が加盟する一般社団法人「日本民営鉄道協会」は昨年12月、業界が一丸となってカスハラ撲滅に取り組むための基本方針をまとめた。
 近畿大の島崎敢准教授(安全心理学)の話「顧客と従業員は対等な関係であり、企業がカスハラに
毅然(きぜん)
とした対応を示すのはあるべき姿だ。公共交通機関でのカスハラは、乗務員の平常心を奪い、安全を脅かすリスクがあることを十分に理解してもらいたい」
労災認定基準に追加  カスハラ被害は、顧客との接触の多い業種を中心に問題化している。 厚生労働省が17日に公表した職場でのハラスメントに関する実態調査では、回答を得た従業員30人以上の7780の企業・団体のうち、過去3年間で従業員からカスハラの相談を受けていた割合が27・9%に上ったことが判明した。 企業側では、航空業界やホテル業界でも取り組みが進み、航空大手の「ANAホールディングス」も対応マニュアルを作成した。 違法行為との線引きがあいまいなことから、対応に苦慮する企業も多い。同省は22年2月、身体的な攻撃など具体例を示した企業向けの対策マニュアルを策定。従業員のための相談窓口を設置したり、複数名で対応するなどの社内ルールを決めて研修を実施したりするなどの取り組みを呼びかける。 23年9月には、精神障害を労災認定する際の基準として「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」とするカスハラの項目が追加された。