「本日もゆっくりお入りください」――。今月初旬、うきは市の筑後川温泉にある老舗旅館「清乃屋」で、3代目
女将(おかみ)
の高木
真実(まさみ)
さん(54)が来場客を出迎えてあいさつした。立ち寄り湯をよく利用するという久留米市田主丸町の女性(84)は「明るくフレンドリーで、いつも優しくもてなしてくれる」と高木さんについて笑顔で語った。
「くつろぎの空間を作りたい」と語る高木さん「くつろぎの空間を作りたい」と語る高木さん 沖縄県出身の高木さんは、地元の高校を卒業後、福岡市内の短大に進んだ。その後、就職先の自動車販売会社で夫の邦彦さん(56)と出会い、1992年に結婚。2人は後継者として、邦彦さんの両親が経営する清乃屋に入った。

 1956年創業の清乃屋は、筑後川温泉では最も早く開業した老舗だ。22歳で若女将となり、当初は戸惑うことばかりだった。子育てをしながらの仕事は多忙を極め、家族で触れ合う余裕もなくなっていた。がむしゃらに働き続けて11年が過ぎたある日、思いがけない事態が起きた。 2003年秋、義理の父繁勝さん(故人)と邦彦さんが経営方針などを巡って衝突し、一緒に暮らしていけないほど関係が悪化。小学生の子ども2人を連れて、家族4人で実家のある沖縄県沖縄市に移り住んだ。生活は苦しかったが、子どもたちと一緒に料理をするなど、家族との思い出が増えていった。 清乃屋の両親とは音信不通状態だったが、沖縄に来てうきは市の良さを再認識した。春の桜吹雪や秋の観月会、クリスマスイブに降った雪――。家族を見つめ直すとともに、沖縄にはないうきは市の自然の良さも感じた。 沖縄での生活が5年を過ぎた頃、義母で2代目女将のレイ子さん(故人)が体調を崩して入院したと、繁勝さんの友人から電話があり、夫婦で急いでうきは市に帰った。検査入院で命に関わるものではなかったが、久しぶりにお互いの顔を見て話していくうちに、わだかまりが解けていった。そして、義父母の年齢を考えた時、「この機会を失ったらここには戻れないかもしれない」と思い、長女の高校卒業に合わせてうきは市へ戻ることにした。 1 2

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