事件を追う作家 業と闇評・池澤春菜(声優・作家・書評家)
◇ながえ・としかず=「禁止」シリーズで人気を集める◇いぶき・あもん=『刀と傘』で本格ミステリ大賞。 探偵小説の探偵が、探偵小説の書き手だったら。実在する作家や偉人が、架空の事件や歴史を生きる物語にはロマンがある。
『方舟を燃やす』角田光代著
『時空に棄てられた女 乱歩と正史の幻影奇譚』では、タイトルの通り主人公は江戸川乱歩と横溝正史。二人が出会った
美貌(びぼう)
の奥方が、ある日首のない惨殺死体となって発見される。犯人として疑われる乱歩、スランプに悩む横溝は事件の真相に
辿(たど)
り着くことができるのか。
事件は二つの視点を交互に行き来して進む。気がついた時、美しい女の生首と覚えのない原稿が入った
鞄(かばん)
を抱えていた男。手がかりを求めて原稿を読み進めていくと、どうやら横溝が書いたもののようで……虚実が入り交じり、どこまでが正しくてどこからが幻かがわからない。
二人の作家の友情と
相剋(そうこく)
、名作を生み出すまでの苦悩や
足掻(あが)
きに読み応えがあった。
『帝国妖人伝』はオムニバス形式の短編集。困窮した作家の那珂川二坊が出会う、奇妙な事件と人物たち。「長くなだらかな坂」では徳川公爵邸に入った盗人の謎を鮮やかに解決してみせる青年・福田房次郎。「法螺吹峠の殺人」では豪雨の中、殺人事件が起きる。行きずりの旅人たちの中から犯人を見つけ出したのは、墨染め姿の若い雲水だった。「
攻撃(アングリフ)
!」の舞台は那珂川が
報告記事(ルポルタージュ)
を書くため訪れたドイツのポツダム市。事件に隠された本当の目的と登場人物の正体に
瞠目(どうもく)
する。「
春帆飯店(チュンファンファンディエン)
事件」は昭和二十年、大東亜戦争の最中の上海。密室事件と、とある人物の隠された顔が明らかになる。「列外へ」では、北野天満宮で倒れた那珂川を助けた一人の青年・山田誠也が那珂川が抱えた闇を暴き出してみせる。
物語の謎と妖人たちの正体が密接に絡み合い、二重に楽しめる。 どちらの本も、作家が抱える業と闇の深さが描かれていて、呼応する面白さがある。是非二冊合わせて読んで欲しい。(講談社、2035円/小学館、1870円)
読書委員プロフィル
池澤 春菜(
いけざわ・はるな
)
1975年生まれ。声優や女優として活動する傍ら、書評集『乙女の読書道』を刊行するなど、作家や書評家としても本格的に活動。日本SF作家クラブ会長も務めた。
![[書評・レビュー] 『時空に棄てられた女 乱歩と正史の幻影奇譚』長江俊和著/『帝国妖人伝』伊吹亜門著 [書評・レビュー] 『時空に棄てられた女 乱歩と正史の幻影奇譚』長江俊和著/『帝国妖人伝』伊吹亜門著](https://www.walknews.com/wp-content/uploads/2024/05/1714717757_20240430-OYT8I50017-1-1024x576.jpg)