日中関係をめぐり、昨年11月の日中首脳会談後に政府間対話や経済交流が徐々に再開している。中国側は自国の対日世論への配慮から本格的な関係改善に慎重とみられ、東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出を受けた日本産水産物の輸入禁止措置や邦人拘束などの懸案解決の見通しは立っていない。(中国総局 東慶一郎、上海支局 田村美穂)湖北省鄂州市で、孫兵・市共産党委員会書記(手前右)からの説明に耳を傾ける金杉憲治・駐中国大使(同中央)(3月24日)=田村美穂撮影湖北省鄂州市で、孫兵・市共産党委員会書記(手前右)からの説明に耳を傾ける金杉憲治・駐中国大使(同中央)(3月24日)=田村美穂撮影 「ようこそいらっしゃいました」


 今月11日、直轄市・天津市の迎賓館で市トップの
陳敏爾(チェンミンアル)
・市共産党委員会書記が金杉憲治・駐中国大使を笑顔で出迎えた。陳氏は
習近平(シージンピン)
国家主席の側近で、党中央にも近い。大使館によると、陳氏は昨年の日中首脳会談に触れ、日中の交流拡大と日本企業の天津進出に期待を示した。
 金杉氏は3月24日に内陸部・湖北省鄂州市を視察した際にも、同市トップの孫兵・市党委書記の歓待を受けた。視察中は孫氏が熱心に説明し、昼からアルコール度数の高い地酒を酌み交わした。日本政府関係者は「大使が中国の高官と面会できる頻度は増えている」と見る。 国内経済の低迷が続く中国では、地方を中心に日本との経済や人的な交流の拡大を望む声が大きい。中国は昨年以降、欧州や東南アジアの国を中心に短期の訪中ビザ(査証)免除を拡大して、外国人を呼び込んでいる。 だが、日本に対しては新型コロナの感染拡大前まで行っていたビザ免除の再開に踏み切れないでいる。日本に譲歩しているように見える政策判断のタイミングの取り方が難しいためだ。 福島第一原発の処理水海洋放出を受けた日本産水産物の禁輸についても、日中の局長級や専門家の協議が始まったが、中国側は「核汚染水」という言葉で放出に反対する姿勢を崩していない。中国側の対応について、日中関係筋は「振り上げた拳を下ろせない状況ではないか」と分析する。 習政権が重視する「国家安全」の強化も、関係改善を妨げている。2015年以降、中国ではスパイ容疑などで邦人17人が拘束されており、いまだに5人が帰国できていない。3月に拘束から1年となったアステラス製薬社員は、中国に進出する日系企業で作る経済団体「中国日本商会」の副会長を務めた日中ビジネスの「顔役」だった。日本政府が早期解放を求めているが、中国側が応じる気配はない。 対中警戒感から米国との関係を強化する日本外交への反発もある。党機関紙・人民日報は18日付の国際論評で今月の岸田首相訪米について、「台湾などの問題をまくし立てた」と批判した。「党中央の声」を反映するとされる論評が日本の首相を名指しで批判するのは珍しく、中国の態度が硬化する可能性がある。
 それでも、中国政府系機関の外交専門家は「中国は今、対日関係の安定を望んでいる」と語り、日本との対話は継続するとの見方を示す。当面は5月にも開催予定の日中韓首脳会談に合わせた岸田首相と
李強(リーチャン)
首相の会談での合意内容が注目されそうだ。

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