病を機に英国名機を選定。自宅車庫の急坂を登り切るため宿を借りて挑んだ坂道発進の汗

試乗もせずに買ったため、納車の時点ではまだ運転できなかった。『サーキットの狼』世代にとってポルシェ「911カレラRS」と並ぶ存在のロータス「ヨーロッパ」を、2020年に手に入れた女性オーナーがいる。ブルーメタリックに金のストライプを引いた1972年式のスペシャル。このクルマを選んだ理由は、人生を変えることだった。

シトロエンから半世紀前の英国ミッドシップへ。背丈1090ミリの車体が放つ異彩

サクラオートヒストリーフォーラムの会場に並ぶクルマを眺めていると、スポーツカーやチューニングカーが居並ぶなかでもひときわ背の低い1台が目に入った。鮮やかなブルーメタリックのボディに、ゴールドのストライプを引いたロータス「ヨーロッパ」である。全高は1090ミリ。周囲のクルマの屋根が、ずいぶん高い位置にあるように見える。

ステアリングを握っていたのは女性であった。オーナーの松尾さんに声をかけ、話を聞いた。

「1972年式のロータス ヨーロッパで、2020年に手に入れました。『サーキットの狼』で知っていて前から気になっていたヨーロッパを、試乗もせずに買っちゃいました」

 

松尾さんがかつて所有していたのはシトロエン「2CV」である。壊れて手を焼いた日々も、楽しかった記憶として残っている。2020年に新型コロナウイルスに罹り、人生について考える時間ができた。出した答えが、人生が変わるようなクラシックカーに乗って楽しむことであった。

FRP成形と背骨骨格の革新構造。大径弁ツインカムが絞り出す126馬力の息吹

ロータス ヨーロッパは、ロータスカーズとして初のミッドシップレイアウトを採用し、1966年に登場した。バックボーンフレームにFRP製のボディを架装する構造で、全長は約4メートルと小さい。全高は1090ミリしかなく、体をよじるようにして乗り込むことになる。

エンジンは当初、ルノー「16」用の1470cc直列4気筒OHVを搭載していた。1971年のツインカム以降は、フォード製の1558cc直列4気筒ブロックにロータス製のツインカムヘッドを組み合わせたユニットへ切り替わる。スペシャルは吸気バルブを大径化し、圧縮比を高めたビッグバルブ仕様となり、最高出力は126psに達した。

シリーズ1からスペシャルまで、ロータス ヨーロッパの年式ごとの違い

ヨーロッパは年式によって呼び分けられている。登場した1966年からの初期モデルが「シリーズ1」、1968年からが「シリーズ2」、ロータス製ツインカムエンジンを積んだ1971年モデルが「ツインカム」、1972年以降の改良型ツインカムを積むモデルが「スペシャル」である。

スペシャルが登場した1972年は、チーム・ロータスがF1のタイトルを獲得した年にあたる。当時のスポンサーだったジョン・プレイヤー・スペシャル(JPS)にちなみ、黒地にゴールドのストライプを入れた個体が広く知られている。松尾さんの愛車は、ブルーメタリックの車体にゴールドのストライプが走る組み合わせだ。

北米輸出仕様の左ハンドル。運転できるようになるまでの練習

松尾さんが乗るのは1972年式のヨーロッパ スペシャルで、北米輸出仕様の左ハンドルである。外観上はワイパーが2本備わる点が見分けどころとなる。欧州仕様がデロルト製のキャブレターとなるのに対し、北米輸出仕様はSUに似たゼニス・ストロンバーグ製の負圧キャブレターを備える。

マニホールドの形状が異なるためシリンダーヘッドも両仕様で別物となり、互換性もない。 松尾さんは若いころに2CVに乗ったきりでブランクがあり、試乗もせずに購入を決めた。納車の時点ではまったく運転できない状態であった。

まずは購入したショップへ通い、数日かけて運転を練習。ようやく走らせられるようになったあとも、自宅駐車場のきつい傾斜が難関として立ちはだかった。2晩ホテルをとって坂道発進の反復練習を重ね、苦労を克服してようやく愛車とともに自宅へ帰り着いた。

人生を変えたい決意から始まった付き合いは、運転の練習に励む地道な時間からスタートしている。松尾さんは、約50年前の英国製ミッドシップを自らの手で走らせ、イベント会場まで運んできた。ブルーメタリックのヨーロッパは、今後も低い車高のまま、オーナーとともに走り続けていく。

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