米国防総省、孔子学院関連組織を安全保障上の脅威に指定 30大学で80組織と主張、中国の統一戦線工作と対外影響活動の構造

ピート・ヘグセス米国防長官は2026年10月23日、中国政府の支援を受けて米国の大学で活動してきた「孔子学院」とその関連組織を、国家安全保障上の脅威として指定したと発表しました。長官は公式SNSに投稿した動画で、かつて閉鎖された孔子学院が名称や規約を変えて再び活動しており、30大学で80の組織を特定したと述べました。知的財産の窃取や学生に対する思想的影響を目的としていたとの主張を展開し、国防総省が過去2カ月でこれらの組織を解体したと説明しています。

今回の発表の背景には、大学の研究情報保全と外国政府による影響力行使を一体的に扱う米国の政策転換があります。中国語教育を担う孔子学院がなぜ防衛当局の監視対象となったのか。米国防総省・国務省・政府監査院(GAO)の資料に加え、中国共産党の統一戦線工作部や対外宣伝活動、日本における影響工作を扱った調査を基に整理します。

米国防総省による孔子学院関連組織の指定:主なポイント

2026年10月23日、ヘグセス国防長官が孔子学院関連組織の安全保障上の脅威指定を発表しました。
長官は、30大学で名称や設立文書を変えて活動していた80の「宣伝組織」が見つかったと主張しています。
目的について、知的財産の窃取と米国学生への思想的な働きかけを挙げました。これは長官の説明であり、80組織それぞれの違法行為が個別に立証されたという発表ではありません。
国防総省は8月17日、30大学に対し外国の懸念対象機関との学術・資金・研究上の関係を点検するよう指示していました。
10月19日の国防総省発表では、30大学による関係解消関連の措置が80件超に上ったとしています。
米政府は2020年に「孔子学院米国センター」を外国政府の外交使節団に相当する外国ミッションとして指定しており、今回が初めての規制ではありません。
GAOの2023年調査によると、米大学の孔子学院は2019年ごろの約100校から5校未満に減少していました。
中国政府は従来、孔子学院を通常の言語・文化交流事業と位置付け、米国の規制を教育交流の政治問題化だと批判してきました。

30大学・80組織――長官の発言と国防総省の監査結果を読み分ける

ヘグセス氏は10月23日の動画で、米国内の大学に存在する孔子学院が名称や設立趣意書を変更して継続していたと述べ、これを米国の安全保障を脅かす組織のリストに追加したと説明しました。

一方、これに先立つ8月17日の国防総省公式発表は、30大学に対して外国機関との協力関係を直ちに点検するよう求めたものでした。対象には2019会計年度国防権限法の第1286条に基づく懸念対象機関だけでなく、名称変更後の孔子学院に関係する組織も含まれています。研究成果の国外流出や安全保障に関係する技術移転を防ぐことが目的とされています。

国防総省は10月19日、全30大学が指摘された関係への対処を完了し、80件超の「関係解消に関連する措置」が実施されたと発表しました。この件数には第1286条リストに掲載された組織との関係解消に加え、リスト未掲載の機関との予防的な関係解消も含まれています。

発表
対象
数字の意味

8月17日・国防総省
外国懸念対象機関と名称変更した孔子学院の関連組織
30大学に監査を指示

10月19日・国防総省
外国機関との学術・研究等の関係
30大学で80件超の関係解消関連措置

10月23日・ヘグセス長官
孔子学院に関連すると長官が主張する組織
30大学に80組織という説明

「80件超の措置」と「80の宣伝組織」は同じ単位ではありません。個別組織の一覧や各大学での措置の対応関係まで公開されたわけではなく、発表内容の正確な理解にはこの区別が必要です。研究交流の見直しの中には、機密研究を扱わない交換留学や教育事業を予防的に終了させた例も報じられています。

孔子学院はどのような組織か 教育機関への資金・教員派遣を通じて拡大

孔子学院は、中国の教育関連機関と海外の大学などが共同で運営する中国語教育・文化交流の拠点として2004年に始まりました。語学講座、文化行事、中国留学に関する活動を主に提供してきました。

米政府監査院(GAO)は2019年、米大学との設置契約90件を調べました。中国側の漢弁(Hanban)や設置先大学が運営資金を提供し、多くの契約で活動内容・運営管理の規定が類似している一方、大学によって実際の運用は異なっていたと報告しています。10大学への聞き取りでは、大学側の責任者が運営を管理していると回答し、台湾やチベットなどのテーマを扱う行事を開催した例もありました。

他方、GAOは契約の透明性、大学の規則と教育の自由、外国政府からの資金の影響について懸念が生じていると記載。契約90件のうち42件に機密扱いの条項が存在したとしています。問題は中国語教育の存在自体ではなく、海外政府との資金・人員・教材・意思決定の関係が大学の説明責任に耐えるかという点です。

2020年には中国側の運営枠組みも再編されました。従来の漢弁の役割は、言語教育の事業を担う中外語言交流合作中心(CLEC)と、孔子学院ブランドの運営に関わる中国国際中文教育基金会(CIEF)に分かれています。新しい基金会を形式的な名称変更とみる批判がある一方、2026年に公表された学術研究は、制度改編により運営が現地大学と中国側提携校へ分散した側面も指摘しています。組織再編後の実態は、名称ではなく個別契約と意思決定経路から確認する必要があります。

セキュリティ対策Lab お役立ち資料

2026年に発生したサイバー攻撃・ランサムウェア事例をまとめて確認

国内外で発生した主要なサイバー攻撃やランサムウェア被害を、攻撃手法や対応状況とあわせて整理した資料です。

2026年の事例集を見る

米国は2020年から外国政府の影響工作として対処 国防資金の制限が閉鎖を促す

米国務省は2020年8月13日、米国内の孔子学院ネットワークの拠点と位置付けた「孔子学院米国センター」(CIUS)を、中国の外国ミッションとして指定しました。政府の資金供与や人員・採用・運営実態の情報を届け出させ、活動の透明性を高める措置です。2020年の指定だけで全孔子学院を閉鎖する命令が出されたわけではありません。

大学への連邦資金をめぐる制限は別の制度です。GAOが2023年10月に公表した報告書では、孔子学院を設ける大学への国防関連資金の制限が閉鎖を後押しし、米大学に設置された孔子学院が2019年ごろの約100校から5校未満へ減少したとしています。孔子学院閉鎖後に大学自身の中国語講座、他の教育機関との提携、台湾側との交流などへ切り替えた例も報告されています。

今回の2026年の措置は、語学教育機関に対する従来の対応を、研究資金・知的財産・外国研究機関との協定全般のリスク管理へ拡張する動きとして捉えられます。

中国共産党の統一戦線工作部、対外宣伝と孔子学院の接点

中国の海外影響力行使を分析する際には、教育行政機関と中国共産党の対外工作部門を区別する必要があります。

孔子学院の歴史的な設置・資金供与を担ってきたのは、中国教育部に関係する漢弁です。これに対し、米国務省は2020年の公式文書で、中国共産党中央統一戦線工作部(UFWD)の方針の下で孔子学院の活動が位置付けられていると指摘しました。統一戦線工作部は、党の政策目標に向けて党外の団体・個人との関係を築き、国内外の影響力形成に関わる党組織です。米国務省は2020年10月、統一戦線工作部の影響下にあると判断した別団体「中国和平統一促進会」米国組織も外国ミッションに指定しました。

文化・教育プログラム、在外コミュニティとの交流、研究機関との共同事業、メディア発信は、いずれも相手国の人々と継続的な接点を持つ手段です。しかし、大学の外国語教育や一般的な文化交流と、外国政府による秘密裏の指示・資金提供や政策誘導とでは、検証すべき証拠が異なります。監督機関、資金の出所、教員派遣の条件、契約に基づく編集・教育内容への介入権限を追うことが、関係を評価する出発点となります。

中国外交部は2020年の米国による規制に対し、孔子学院の運営は公開・透明で現地法を順守しており、文化・教育交流を政治化しているのは米国側だと反論しました。この立場も踏まえると、各大学における実際の教材・運営・研究アクセス・説明責任を個別に調べることが有効です。

日本でも孔子学院や交流団体による影響力を調査 認知戦と研究セキュリティの接点

セキュリティ対策Labでは2024年、米戦略国際問題研究所(CSIS)のデヴィン・スチュワート氏による2020年の対日影響力研究をもとに、孔子学院や日中友好協会などを用いた日本での中国の影響力拡大を取り上げました。同報告は、教育・文化交流や友好団体、経済関係、対日メディア発信などを、中国の対外的な影響力形成の経路として分析しています。同時に、日本の政治制度や社会環境によって中国の影響活動の効果が限定されているとの評価も示しています。

もう一つの観点は、大学・研究機関に関わる工作と、メディアを通じた世論への働きかけの違いです。前者では研究課題・成果物・共同研究者・技術移転の管理が争点となり、後者では発信者、引用経路、情報の選択、受け手の判断への影響が論点となります。これらの関係は、認知戦とは何か、主要国の脅威認識と対応でも整理しています。

統一戦線工作部による政治的影響工作の具体例については、中国・北朝鮮の市民団体などを通じた影響活動と各国当局の対応でも紹介しています。これらは外国の大学交流に一律の疑いをかけるためではなく、公開の文化交流と秘匿された利益誘導・政治介入の境界を見極めるための背景情報です。

大学・企業の研究管理部門が確認したい項目

日本の大学が中国の大学や教育機関と共同研究、語学講座、交流協定を結ぶ際も、対象機関名だけで判断するより、具体的な契約・情報の扱い・意思決定の仕組みを確認する方法が現実的です。

提携先の登記上の法人名、実質的な資金提供者、再委託先、名称変更前の団体との連続性を把握する。
協定書の公開範囲、秘密保持条項、成果公開の承認権、政治・歴史・人権問題などに関する教育内容への制約を確認する。
研究設備、実験データ、未公開論文、発明情報へのアクセス権限と、海外からのアクセス履歴を分離して管理する。
外国資金の申告、利益相反・責務相反、輸出管理、研究インテグリティの確認を、語学・文化事業と機微技術研究の双方で必要な範囲に応じて実施する。
機微研究に関与しない通常の教育交流まで一律に禁止するのではなく、研究内容とアクセス可能な情報、提携条件に応じて対策を定める。

中国の孔子学院をめぐる米国の政策は、文化事業の名称だけでなく、大学が国外のパートナーとどのような条件で人材・情報・資金を共有するかを安全保障上の問題として扱い始めたことを示しています。今後は、国防総省が指定した個別組織の範囲、大学側の対応状況、資金提供への具体的な影響が判断材料となります。

出典

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投稿者:三村

セキュリティ製品を手がける上場企業にて、SOC(セキュリティオペレーションセンター)運営およびWebアプリケーション脆弱性診断の営業に8年間従事。その後、システムエンジニアへ転身し、MDMや人事系SaaSの開発に携わる。


8年の実務経験と開発者としての知見を活かし、「セキュリティ対策Lab」ではダークウェブ調査、セキュリティインシデントの分析、および高度なセキュリティ対策解説の執筆・編集を統括しています。


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