東アジア「深層取材ノート」

東アジア「深層取材ノート」(第345回)

近藤 大介

近藤 大介
ジャーナリスト・明治大学講師

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2026.10.24(土)

中国 アジア・オセアニア

モンゴルから拡大する草原火災を食い止めるため、中国北部の内モンゴル自治区で作業に当たる中国の消防隊員。投入された人員は約3400人にのぼるという(写真:Xinhua/ABACA/共同通信イメージズ)

 きっかけは、ある中国の知人(民間人)から、私に連絡が入ったことだった。それは、こんな話だった。

「わが国では俗に、『声東撃西』と言う。『新型の軍国主義』を進める高市早苗政権下の日本が、東側からわが国を再度、攻撃すると見せかけて、西側のモンゴルから中国に向けて火を放ったと、噂が立っている。これは本当か?」

 もちろん私には、「何のこっちゃ?」である。「声東撃西(せいとうげきせい)」は、中国の兵法書『兵法三十六計』の第6計に定められた戦術だ。表向きは東側を攻めると見せかけて、実際には西側を奇襲する「陽動作戦」を指す。

 この中国人が何を言っているかと言えば、中国と国境を接するモンゴル側で、10月8日に日本のKDDI子会社幹部らが起こした大規模火災である。中国ではセンセーショナルに報じられていて、中国のネットやSNS上では日本批判が沸騰している。

東京都全域の2.4倍が焼失、貴重な自然保護区の約8割が被災

 例えば、新華社のウランバートル特派員が21日に伝えた記事の要旨は、以下の通りだ。

<日本の通信事業者KDDIは20日、今月モンゴルの自然保護区で発生した大規模な草原火災が、同社子会社の幹部の活動と関連していることを認めた。

 モンゴル東部のドルノド県のヌムルグ自然保護区で8日、大規模な草原火災が発生した。モンゴルメディアの報道によると、日本資本が過半数を保有するモンゴルの通信事業者モビコム社の関係者10人余りと車両5台が保護区内に進入、その中には同社の日本人幹部を含む複数の日本人が含まれていた。車両の走行中に乾草に引火し、草原火災を引き起こしたが、炎は16日に鎮火した。

 KDDI社によると、子会社の職員が保護区に入ったのは、4Gネットワークの通信試験を行うためであり、モンゴルの関係当局が火災の原因を調査中である。一方、モビコムの声明では、同社の職員は規定の手続きに従い、自然保護区に入る前にモンゴルの国境警備当局から正式な許可を取得していたとしている。

 しかし、モンゴルの複数のメディアの報道によると、モビコムの一行が保護区に入ったのには別の目的があった。彼らは保護区内で、絶滅危惧種の魚を釣る計画をしていたという。

 モンゴル自然環境・気候変動省が20日に発表した暫定データによると、今回の火災による焼失面積は約53万ヘクタール。うちヌムルグ自然保護区の被災面積は約47万ヘクタールで、保護区総面積の79.8%を占めている。モンゴル東部の重要な生態保護地域であるヌムルグ自然保護区は、原生の自然景観の維持、地域の生態系の均衡の確保、および生物多様性保護の重要な拠点である。

 モンゴル自然環境・気候変動省は、この火災について、包括的な生態環境被害評価作業を開始した>

 しかも、火災はモンゴル国内にとどまらなかった。炎は中国との国境地帯に迫り、中国側は内モンゴル自治区で約3400人を動員して延焼防止に当たったという。つまり中国にとっても、決して対岸の火事ではなかったのだ。冒頭の中国人の知人が「声東撃西」という言葉を持ち出した背景には、こうした事情があるのだろう。

 焼失面積53万ヘクタールと言えば、東京都の面積の2.4倍! これは由々しき事態だ。

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