SAGA Barcelona Game Fest 2026のメインステージで,日本のゲーム音楽史を支えてきた2人のレジェンド作曲家,松前真奈美氏と東野美紀氏によるトークセッションが開催された。

松前真奈美氏(旧姓:後藤)は,1987年にカプコンに入社し,初期の同社サウンドを支えた重要人物の1人だ。何といっても代表作は,世界的な大ヒット作となった初代「ロックマン」である。キャッチーで疾走感あふれる楽曲は,8ビット音源を極限まで生かした名曲として,今なお世界中のファンに愛され続けている。
その後も「エリア88」など多数の作品を手がけ,フリーランス転身後も稲船敬二氏と再びタッグを組んだ「Mighty No. 9」や,海外でインディーブームの火付け役となった作品の1つ「Shovel Knight」など,国内外のプロジェクトへ参加し,精力的な活動を続けている。
2014年に松前氏が関わった「Shovel Knight」

東野美紀氏は,1980年代に学生アルバイトとしてコナミ(現・コナミデジタルエンタテインメント)に参画し,後に正式入社したサウンドクリエイターだ。
「グラディウス」「沙羅曼蛇」「グラディウスIII」など,グラディウスシリーズの黄金期を支える名曲を生み出し,1990年代後半には不朽の名作RPG「幻想水滸伝」および「幻想水滸伝II」のメインコンポーザーを務めた。クラシックや民族音楽の要素を昇華させた壮大でドラマチックな楽曲群は,現在もゲーム音楽史に残る存在として語り継がれている。
2000年に結婚と子育てのため第一線を離れたが,近年復帰を果たした。4Gamerでも2025年8月に活動再開についてのインタビューを掲載している(関連記事)。
ゲームファンが詰めかけたSAGA Barcelona Game Fest 2026の活気あふれるステージで,モデレーターの問いかけに答える形で始まったトークセッションの模様は以下の通りだ。
――この道に進みたいと思った瞬間や,音楽との出会いの思い出は覚えていますか?
松前真奈美氏

松前氏:
覚えている限りでは,3歳くらいのときに父がギターを弾いているのを聴いていて,それがすごく気になっていたんです。そこからピアノを習い始めて,成長していった感じです。
東野氏:
私もやっぱり3歳の頃にピアノを始めました。家にグランドピアノがあって,5歳年上の姉がすでにピアノを習っていたので,その音を聴きながら育ったんです。それに父親はクラシック音楽が好きだったので,私も大好きになりました。
――ゲームとの出会いや,ゲーム会社に入ったきっかけはいつ頃だったのでしょうか?
松前氏:
大学2年生くらいのときにファミコンがすごくはやって,「スーパーマリオブラザーズ」や「ドラゴンクエスト」を,大学の講義をちょっとサボりながら家で遊んでいました。そして4年生のときに就職しなきゃいけないなと思って,大学の求人掲示板を見たらカプコンの募集が載っていたんです。そこに申し込んだことから,ガチャっと運命の扉が開いてゲーム音楽の作曲家の道を進むことになりました。
東野氏:
私とゲームの初めての出会いは,スキー場に行ったときでした。そこでアーケードゲームにお金を入れて遊んだのが最初です。コナミとの出会いは,音楽大学に入ってアルバイトを探していた時,事務所の掲示板にあった貼り紙を見たのがきっかけでした。
東野美紀氏

――ちなみに,当時ご自宅にはゲーム機やマイコンなどは置かれていましたか?
東野氏:
私が学生アルバイトでこの仕事を始めたのは1983年のことだったので,自宅にゲーム機はありませんでした。ファミコンが初めて世の中に出た時は,隣の家に遊びに行って見せてもらっていました。
――会社に入って初めて見た開発現場の印象や,先輩たちの様子はいかがでしたか?
松前氏:
当時のカプコンは作曲家が10人いたら7人は女性で,本当に“女の世界”という感じのところでした。そのなかで男っぽい曲を作らなきゃいけなかったので,それがすごく大変でしたね。でも私が入ったあと,結婚などでどんどん辞めていってしまって,気がついたら私が一番上になってしまっていたんです。目標にする先輩があまりいなくなってしまった寂しさもありました。
東野氏:
学生アルバイトから始めたので,女性スタッフがコンピュータに向かって黙々とデータを入力している姿を見て「カッコいいな」と思いました。みなさんイヤホンをして曲を入力しているので,部屋の中に音が全然なくて静かなんですよ。カタカタというキーボードの操作音だけが響いていて。私の先輩で言えば,山下さん(山下絹代氏)たちがバリバリ書いていらしたので憧れていました。ちなみにカプコンで松前さんの1年下に入ってきたのが下村さん(下村陽子氏)ですよね。
――代表作の制作秘話について伺います。松前さんの代表作である「ロックマン」ですが,当時はどのようなやり取りで曲を作っていたのでしょうか。
松前氏:
当時のロックマンの曲は,企画を担当していた稲船さん(稲船敬二氏)たちから細かく指定されるわけではなく,自分が思ったイメージで曲を書いて提出していました。「Mighty No. 9」のときも,制作側から特にこういう曲を作ってくれと言われることはなく,「松前さんが思うような曲を書いてくれ」と言われて作りましたね。
――松前さんはシューティングゲームの「エリア88」なども手がけられていますが,当時の楽曲制作で参考にされたものはありますか?
松前氏:
「エリア88」を作っていた頃は,映画の「トップガン」がすごくはやっていたんです。だから「トップガン」を見ながら,シューティングの曲はこんなふうに爽快なメロディにしようかなと参考にしながら作っていました。
――東野さんにとって,「幻想水滸伝」の監督だった村山吉隆さんはどういう存在でしたか?
東野氏:
キャプテン,船長みたいな人でした。あるいは大きな熊みたいな人で,すごく包容力があって豪快で,本当に頼もしい方でしたね。
――東野さんは2000年に一度仕事を離れられましたが,再び復帰された理由について教えていただけますか。
「幻想水滸伝」シリーズを手がけた村山吉隆氏は2024年2月に急逝。同シリーズの精神的後継作である「百英雄伝」のリリースを間近に控えた時期のことだった

東野氏:
直接の理由はいくつかありますが,やっぱり一番大きかったのは村山さんが亡くなったことです。村山さんともっといっぱい話したかった,もう一度仕事がしたかったという思いがありました。一緒に仕事をすることは叶いませんけれど「もう一度ゲーム音楽をやろう」と決意するきっかけになりました。
村山さんが若くして亡くなられて,さよならも言えないままお別れすることになって,人生は本当に短いと思ったんです。だからこそ,やりたいことをどんどんやっていこうと心に決めました。
――松前さんは最近,海外のインディークリエイターからのオファーが増えているそうですね。
松前氏:
小さい頃にロックマンで遊んでいた人たちが大人になって,会社を立ち上げているんです。そういう海外の人たちから「子供の頃から遊んでいたゲームの作曲家に,自分のゲームの音楽を作ってほしい」というオファーが来ています。去年はオランダのイベントに呼ばれたのですが,それがきっかけで現地のチームと仲良くなり,曲を書いてほしいと頼まれました。今日はチームの方から一番新しいトレイラーをもらってきました。
(会場で松前氏が参加する最新タイトルのトレイラー映像が上映される)
松前氏がコンポーザーとして楽曲を提供しているLittle Legendary Gamesの「SHADE Protocol」。サイバーファンタジー系メトロイドヴァニアで,Steam(外部リンク)によると日本語にも対応予定

松前氏:
(トレイラーの上映後)私を含めて何人かのコンポーザーと一緒に作っていて,今のところ10曲書く予定でいます。以前よりもアクションや動きがスムーズになっていて,グラフィックスも美しくなっているのが新しいトレイラーから分かりますよね。ストーリーがとてもいいので,それにインスパイアされて曲がどんどんできてきています。発売予定は2027年です。
――カプコンやコナミといった,かつて所属していた企業からの依頼があったら受けるのでしょうか?
松前氏:
カプコンから「やってほしい」と言われたらやりますよ(笑)。でも大企業には社内コンポーザーがいっぱいいますからね。だから私が出るのはインディーのゲームが多いです。
東野氏:
私もたくさんとはいきませんけれど,できる範囲でやれることがあれば喜んでやります。自分が作った曲が作品と一緒に成長して,アニメになったり舞台になったりしてアレンジされていくのを見るのが,今はとても楽しく感じます。
――昔の制作環境,データの打ち込み方法についてはいかがでしたか?
松前氏:
カプコンでMIDIが出始める前は,MSXというツールを使って,数字で打ち込んでいました。効果音なんかも数字を1個ずつ変えて調整していって。2年後くらいにMIDIになってから,シーケンサーで作成するようになりましたね。
東野氏:
最初のアルバイトのときは,本当に鉛筆で五線紙にメロディや進行を書いて,それを社員の人に渡して入力してもらう形でした。そのあとは,ギターを弾きながらコナミ独自のサウンドエディタに直接自分で数字を入力していました。
――最後に,会場の皆さんに向けて一言ずつメッセージをお願いします。
松前氏:
これからも楽しいゲーム音楽を書いていきますので,よろしくお願いします!
東野氏:
2人とも初めてスペインに来て,大好きになりました。昨日はサグラダ・ファミリア(世界遺産の大聖堂)を見に行きました。本当にお招きいただいてありがとうございます。

ファミコン黎明期から現代のインディーシーンに至るまで,第一線で作品を作り続けてきた松前真奈美氏と東野美紀氏。海外クリエイターとの新たな協業や開発秘話,そして故・村山吉隆氏への想いまでを含め,2人の歩んできた軌跡と現在の活動が率直な言葉で明かされたセッションとなった。
時代や制作環境が変化しても,ゲーム表現における楽曲の重要性とクリエイターとしての真摯な姿勢が変わることはない。世界中のプレイヤーを魅了してきたレジェンドたちが,今後インディーシーンを中心にどのような楽曲を世に送り出していくのか,その活躍を引き続き見守っていきたいところだ。
こちらは東野美紀氏が作曲を手がけ,今年初めにPIXELからSwitch向けにリリースされたばかりの「バウンティシスターズ」のアート。近日中にSteam(外部リンク)でも販売されることになっている


