
秋田県のホテル・旅館の単価は、どの市町村に建てるかで約4倍変わる。メトロエンジンリサーチの推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月の12か月平均)は男鹿市の2万600円から北秋田市の5,300円まで開き、県都・秋田市は7,600円と県内では中位に位置する。本稿では施設数5以上の13市町村を4つの層に分け、2025〜26年の新規供給が入った層、ゴールデンウィーク(GW)2026に完売が集まった価格帯、推定稼働率(OCC)の積み上がり方を重ね合わせて、秋田県で投資機会が残る価格帯を特定する。
本稿の位置づけ:当社の県別投資マップ系列(岩手・富山・石川・長崎ほか)の秋田版である。既刊「北東北3県の新規供給と完売シグナル」は青森・秋田・山形の3県を並べて供給の吸収力を診断したが、本稿の主題は秋田県内の市町村別の価格階層である。洋上風力の業務需要は「洋上風力の基地港湾7港、周辺客室を実測」で客室ストックを実測済みのため再計算しない。「新規開業が少ない県2026」が開業件数を数えたのに対し、本稿は同じ供給を価格帯の側から見る。
本記事における指標の定義
ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。12か月平均は月次値を日数で加重して算出。
OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt 程度の精度を確認済)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
LT(リードタイム):チェックイン日までの日数。本稿のカーブは宿泊日の45日前から前日まで(LT45→1)を使用。早期完売LT:残室数が初めて0室になったリードタイム(値が大きいほど早く完売)。
掲載価格:言及する箇所は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均。本文の単価は推定成約ADRで統一し、掲載価格は脚注扱いとする。
データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(主要予約サイト掲載ベース)
県全体の推定成約ADR
¥8,003
12か月平均・前年比+3.6%
市町村間の単価差
3.9倍
男鹿市÷北秋田市(N≧5の13市町村)
対象ストック
9,786室
165施設・うち秋田市42.5%
GW5/3の完売観測
12施設
集計対象64施設中18.8%
8月の推定OCC
86.3%
87施設/4,381室・2026年8月
Key Takeaways
— 3.9倍:推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月の12か月平均)は男鹿市2万582円から北秋田市5,326円まで、施設数5以上の13市町村で3.9倍の階層がある。
— 42.5%:県内9,786室の42.5%は県都・秋田市(7,606円)に集まり、単価上位の男鹿市・小坂町は客室の6.8%にとどまる。
— +5.5%:2025年に秋田市で開業した3軒・548室の後も、同市の推定成約ADRは12か月平均で前年比+5.5%、2026年8月は+18.8%だった。
— 7施設中6施設:GW2026(5月3日チェックイン)に1万〜1万5,000円帯は7施設中6施設が完売したが、この帯は県全体で7施設・961室しかない。
— GOP利回り5.8%:秋田市100室新築は5.8%(インフレ後5.4%)、仙北市30室の旅館改装は4.0%。ADR−10%・稼働率−5ptでも4.5%/3.3%を保つ。
客室の4割強は県都、単価の上位層は客室の7%
メトロエンジンリサーチが2026年8月第3週に価格掲載を確認した秋田県内の宿泊施設は165施設・9,786室である。これを単価と立地の性格から4つの層に分けると、量と単価が逆の場所に偏っている構造が見えてくる。
最も客室が多いのは県都・秋田市(C層)で、32施設・4,163室と県全体の42.5%を占める。その7割がビジネスホテルで、推定成約ADRは7,600円である。次に大館・横手・大仙・由利本荘・能代など県北・県南の地方都市(D層)が67施設・3,446室(35.2%)を持ち、ADRは5,300〜7,700円の帯に並ぶ。一方、単価が最も高い男鹿市・小坂町(A層)は13施設・670室で、県全体の客室の6.8%にとどまる。田沢湖・角館の仙北市、十和田湖・八幡平の鹿角市、秋ノ宮・小安峡の湯沢市などの温泉・高原地(B層)は53施設・1,507室で、うち旅館が1,023室を占める。
層主な市町村施設数客室数構成比うちビジネスうち旅館推定成約ADR(12か月)
A 高単価観光地男鹿市・小坂町136706.8%207366¥17,041〜¥20,582
B 温泉・高原仙北市・鹿角市・湯沢市・東成瀬村531,50715.4%1281,023¥10,805〜¥12,632
C 県都の業務帯秋田市324,16342.5%2,963131¥7,606
D 県北・県南の地方都市大館・横手・大仙・由利本荘・能代・にかほ・北秋田ほか673,44635.2%2,165536¥5,326〜¥7,738
県合計1659,786100%5,4632,056¥8,003
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(主要予約サイト掲載ベース、2026年8月17〜23日に価格掲載を確認した165施設。2025〜26年開業の大型4施設を含む)。ADRの幅は層内の市町村(施設数5以上)の最小〜最大。東成瀬村は施設数2のため幅の算出から除外。
層別・業態別の客室ストック(室)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=165施設・9,786室)
市町村別の客室ストック(円の大きさ=客室数、色=層)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。星印は2025〜26年開業の100室以上の施設。
2026年地価公示(1月1日時点)
県平均 全用途+0.9%
県平均 住宅地+0.7%
商業地の県内最高地点秋田市中通2丁目
同 価格/変動率20万4,000円/㎡・+6.25%
秋田市 平均変動率+2.3%
出典:国土交通省「地価公示」(集計値はダイヤモンド不動産研究所の整理による)
立地の読み方
秋田駅前の商業地は2026年も上昇が続くが、1㎡あたり20万円台で、100室規模の宿泊特化型なら土地代は総投資の1割未満に収まる水準である。温泉地は地価より既存建物の取得条件が投資額を左右する。男鹿駅前は市の遊休地(約2,200㎡)の売却で161室の用地が生まれた事例がある。
市町村別ADRの階層 — 男鹿2万600円、秋田市7,600円、北秋田5,300円
市町村別の推定成約ADRを12か月平均で並べると、階層は4段にきれいに分かれる。最上段は男鹿市(2万600円、N=13)と小坂町(1万7,000円、N=5)で、県平均8,000円の2倍を超える。男鹿半島の旅館群と、十和田湖の玄関口にあたる小坂町の上位施設が単価を押し上げている。第2段は仙北市(1万2,600円、N=25)、湯沢市(1万800円、N=12)、鹿角市(1万800円、N=14)の温泉・高原地で、1万〜1万3,000円の帯に並ぶ。
第3段は7,000円台の帯で、にかほ市(7,700円)、秋田市(7,600円)、能代市・横手市(各7,300円)、由利本荘市(7,100円)が100円単位の差でひしめく。県都が県北・県南の地方都市とほぼ同じ単価帯にいる点が、秋田県の価格構造の特徴といえる。最下段の大仙市(6,800円)、大館市(6,300円)、北秋田市(5,300円)は、ビジネスホテルと小規模旅館が中心の市場である。
市町村別の推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月・12か月平均、施設数5以上)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(13市町村、各市町村の施設数Nは表を参照)。色は層(濃紺=A、青=B、水色=C、灰=D)。
前年同期(2024年9月〜2025年8月)と比べると、伸びが大きいのはむしろ下の段である。大仙市は+14.6%、能代市は+13.6%、北秋田市は+10.8%と、県北・県南の地方都市が2桁で伸びた。大仙市は8月の「大曲の花火」、能代市は港湾での洋上風力関連の業務需要が単価を支えている。能代港周辺の業務需要と客室の受け皿は基地港湾7港の実測記事で詳しく扱っている。秋田市は+5.5%で県平均(+3.6%)を上回る一方、男鹿市は+0.5%、横手市は−3.4%と前年並みの水準で推移した。上段の観光地は単価の水準がすでに高く、伸び率より水準で評価すべき市場である。
市町村層推定成約ADR(12か月)前年同期比ADR算出施設数 N客室ストック(室)
男鹿市A¥20,582+0.5%13484東成瀬村B¥19,263参考242小坂町A¥17,041-1.9%5186仙北市B¥12,632+4.9%25649湯沢市B¥10,826+6.5%12194鹿角市B¥10,805+4.6%14622藤里町D¥10,262参考121大潟村D¥8,539参考181にかほ市D¥7,738-2.4%7137秋田市C¥7,606+5.5%314,163能代市D¥7,270+13.6%7430横手市D¥7,258-3.4%12623由利本荘市D¥7,138+3.6%9448大仙市D¥6,805+14.6%14494五城目町D¥6,578参考1—大館市D¥6,344+7.8%161,002八峰町D¥6,098参考12三種町D¥5,368参考249北秋田市D¥5,326+10.8%8131羽後町D¥3,880参考114美郷町D———14
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。Nは期間中の最大月の算出施設数。客室ストックは2026年8月第3週に価格掲載を確認した施設の合計で、Nとは母集団が異なる。灰色の行(N≦2)は参考値で、本文では順位付けしない。
県全体を業態別に見ると、ビジネスホテルは7,400円(前年比+5.0%、N=61)、シティホテルは9,100円(+3.2%、N=16)、リゾートホテルは1万6,500円(+6.2%、N=7)、旅館は9,100円(+1.9%、N=93)である。市町村の中でも業態の差は大きく、男鹿市は旅館が2万4,600円(N=9)に対してビジネスホテルが9,700円(N=3)、秋田市はシティホテルが1万1,500円(N=5)に対してビジネスホテルが7,700円(N=19)と、同じ街に2つの価格帯が同居している。秋田県の業態別ADRの月次推移もあわせて参照されたい。
2025〜26年の新規供給は県都548室と男鹿161室
メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、秋田県の新規開業は2025年に11軒、2026年(9月時点)に4軒である。客室数で見ると供給はほぼ2か所に集中した。1つは秋田市で、2025年にダイワロイネットホテル秋田駅前(214室、2月)、EN HOTEL Akita(221室、7月)、クインテッサホテル秋田(113室、10月)の3軒・計548室が開業し、現在の秋田市のストックの約13%を占める。もう1つは男鹿市で、2026年3月5日にホテル木下 秋田男鹿駅前(161室)が開業した。
開業施設名市町村業態客室数
2025年2月ダイワロイネットホテル秋田駅前秋田市シティホテル214
2025年4月HOTEL 7’s anchorage能代能代市ビジネスホテル40
2025年4月お宿Onn大曲の花火大仙市ビジネスホテル50
2025年4月HOTEL Reise Basis秋田県内ビジネスホテル20
2025年5月山人-Oga-男鹿市旅館16
2025年6月ホテルかぜまちみなと秋田県内ビジネスホテル14
2025年7月EN HOTEL Akita秋田市ビジネスホテル221
2025年10月クインテッサホテル秋田秋田市ビジネスホテル113
2026年3月ホテル木下 秋田男鹿駅前男鹿市ビジネスホテル161
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、2025年11軒・2026年4軒のうち客室14室以上を掲載)。開業月は掲載確認ベースで、各施設の公式発表と異なる場合がある。
県都の548室は、単価を崩さずに吸収されつつある。秋田市の推定成約ADRは、大型開業が続いた後の2026年2〜4月に前年同月比−1.0%〜−3.4%と小幅に調整したが、5月は+8.5%、7月は+15.7%、8月は+18.8%と夏に向けて伸びを取り戻した。12か月平均でも+5.5%で、新規供給が既存の価格帯を押し下げる局面は短期で終わった形である。新施設が既存より一段上の単価で販売されていることが、エリアの中央値の底上げにつながっている。
秋田市の推定成約ADR(月次、2025年と2026年の比較)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=28〜31施設)。2026年は確定済みの8月まで。
男鹿市の161室は、既存とは別の価格帯を加えた供給である。開業後の2026年3〜8月、男鹿市全体の推定成約ADRは前年同月比−2.6%〜+1.6%の範囲に収まった。男鹿市の中央値は旅館中心の12〜13施設で決まるため、ビジネスホテル1軒の開業では動きにくい。ホテル木下 秋田男鹿駅前の推定成約ADRは、開業直後の3〜6月の7,700〜8,700円から、7〜8月には1万1,700〜1万2,300円へと夏季に伸びた。観光の旺盛期に業務需要の土台が重なる男鹿の二面性が、単価の動きに表れている。
男鹿市の推定成約ADR(月次、2025年と2026年の比較)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=9〜14施設)。網掛けはホテル木下 秋田男鹿駅前の開業後の期間。
同ホテルは木下グループの木下不動産開発によるホテル事業の第1号店で、鉄骨造地上7階、全161室(ダブル113室・ツイン36室・長期滞在ダブル10室・バリアフリー2室)に、外来利用もできる男女別の大浴場とサウナを備える。日本経済新聞の報道では投資額は約25億円で、県沖の洋上風力発電の業務需要も視野に入れた計画とされる。1室あたりに換算すると約1,550万円で、後段の開発シナリオでは地方の宿泊特化型の目安として参照する。
GW2026の完売は全て6,000〜1万5,000円帯 — 空いているのは1万〜1万5,000円
需要がどの価格帯に集まるかを、GW2026のピーク日である5月3日チェックインの在庫推移で確認する。宿泊日が過ぎた確定データである。秋田県内でデータのある162施設のうち、OTA公開枠が総客室の30%以上ある64施設を集計対象とすると、チェックイン前日までに残室0を観測したのは12施設(18.8%)で、当日の完売を含めると14施設になる。最も早い施設は宿泊日の34日前に完売した。
区分集計対象完売観測比率
シティホテル6466.7%
ビジネスホテル20525.0%
リゾートホテル4125.0%
旅館15213.3%
その他(民宿・ゲストハウス・ロッジ等)1900.0%
C 県都の業務帯(秋田市)11545.5%
B 温泉・高原21314.3%
D 県北・県南の地方都市27414.8%
A 高単価観光地500.0%
合計641218.8%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。2026年5月3日チェックイン。県内800施設のうちデータのある162施設から、OTA公開枠が総客室の30%以上のホテルのみ集計(N=64施設)。完売観測はチェックイン前日までに残室0を観測したもの。
業態ではシティホテルが6施設中4施設と突出し、層では秋田市が11施設中5施設と最も高い。GW中日の県都は、観光の周遊拠点としての需要と帰省需要が重なり、上位価格帯から埋まっていく。これを各施設の推定成約ADR(12か月平均)と重ねたのが次の散布図である。
推定成約ADR × 早期完売LT(GW2026・5月3日チェックイン、1点=1施設)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(集計対象64施設のうち推定成約ADRを算出できた46施設)。縦軸0はチェックイン前日までに完売を観測しなかった施設。色は層(濃紺=A、青=B、水色=C、灰=D)。
推定成約ADR帯施設数客室数完売観測完売比率
6,000円未満612200%
6,000〜8,000円16868319%
8,000〜1万円101,046330%
1万〜1万5,000円7961686%
1万5,000円以上712500%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=46施設)。
完売した12施設はすべて推定成約ADR6,000〜1万5,000円の帯に入り、なかでも1万〜1万5,000円帯は7施設中6施設が完売した。この帯の施設は県都のシティホテル、温泉地のリゾートホテルと中規模旅館、県南の都市型ホテルで、1施設あたり平均137室と一定の規模がある。一方、1万5,000円以上の7施設は計125室の小規模な旅館が中心で、価格で客層を選ぶ運営のため、ピーク日でも残室が出る。6,000円未満の帯も完売は観測されなかった。
ここから読み取れるのは、秋田県で最も需要が集まるのは「県平均の1.3〜1.9倍の単価で、100室前後の規模を持つ施設」であり、その帯の供給が県全体でわずか7施設・961室しかないという事実である。価格の上位層(1万5,000円超)と下位層は施設数では厚く、中上位の厚みのある施設が空白になっている。全国の傾向は「ホテル価格帯別ホワイトスペース2026」で扱っており、秋田県は全国より一段高い価格帯に空白がある。
推定OCC — 8月は86.3%、ビジネスホテルは直前の上積みが大きい
推定OCCは、主要予約サイトの販売在庫の消化状況から算出したエリア単位の稼働率である。秋田県全体では2026年5月が79.3%(対象92施設/客室4,569)、7月が84.3%(91施設/4,554室)、8月が86.3%(87施設/4,381室)と、夏にかけて上昇した。業態別では、8月のビジネスホテルが84.7%(22施設/1,831室)、旅館が84.2%(37施設/1,338室)で、ほぼ同じ水準に着地している。シティホテルとリゾートホテルは対象施設数が少ないため算出していない。
区分2026年5月2026年7月2026年8月8月の対象
全施設79.3%84.3%86.3%87施設/4,381室
ビジネスホテル77.9%83.0%84.7%22施設/1,831室
旅館77.9%81.0%84.2%37施設/1,338室
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(主要予約サイト掲載ベース)。月内の各宿泊日の推定OCCの平均。
違いが出るのは積み上がり方である。8月の宿泊日について、宿泊日の45日前から前日までの推定OCCを平均すると、旅館は45日前ですでに67.7%に達し、前日までの上積みは+16.5ptにとどまる。ビジネスホテルは45日前が58.1%と低く、そこから+26.6ptを直前に積み上げる。業務や短期の観光で動く需要が宿泊特化型の稼働を支えており、県都や男鹿駅前の宿泊特化型の開発では、直前の需要を取り込む価格運用が収益の伸びしろになる。夏の需要日の具体例は「大曲の花火」当日のブッキングカーブで分析している。
2026年8月宿泊日の推定OCCカーブ(宿泊日の45日前→前日、月内平均)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(主要予約サイト掲載ベース、全施設 平均89施設/客室4,345、ビジネスホテル 平均21施設/1,793室、旅館 平均38施設/1,366室)。
投資機会は3つ — 県都の上位帯、温泉地の中価格帯、男鹿の二面性
単価の階層、新規供給の吸収、ピーク日の完売帯、稼働の積み上がり方を重ねると、秋田県の投資機会は次の3つに整理できる。
① 県都の上位価格帯
秋田市・1万〜1万5,000円帯・100〜200室
シティホテルの推定成約ADRは1万1,500円(N=5)で、GWは6施設中4施設が完売した。2025年の548室を吸収して夏は前年比+15〜19%。客室の7割を占めるビジネスホテル帯の一段上に、厚みのある施設が少ない。
② 温泉地の中価格帯リニューアル
仙北・鹿角・湯沢・1万2,000〜1万5,000円帯・20〜50室
旅館の推定成約ADRは仙北市1万2,900円(N=19)、湯沢市1万3,400円(N=10)、鹿角市1万2,100円(N=12)。建設費の高騰で新築が難しい温泉地では、既存旅館の取得・改装が参入の現実的なルートになり、承継案件の受け皿にもなる。
③ 男鹿半島の二面性
男鹿市・業務と観光の複合
旅館2万4,600円(N=9)とビジネスホテル9,700円(N=3)が同居する。駅前161室の開業後も市全体の単価は前年並みを維持した。長期滞在室を持つ宿泊特化型と、半島の観光を受ける上位旅館の両輪で需要を取り込める。
いずれの機会も、上位の単価をさらに押し上げる方向ではなく、県平均の1.3〜1.9倍の帯に規模のある施設を置く方向である点が共通する。温泉旅館の承継については事業承継税制の期限と旅館の株式評価、規模の目安については客室数帯別のADRと在庫の吸収が参考になる。
開発シナリオ試算 — 秋田市100室の新築と仙北市30室の旅館改装
①と②の機会を、2本の簡易シナリオで試算する。ADRは本稿で算出した推定成約ADR(税抜相当)を前提とし、稼働率は推定OCCの夏季ピーク(ビジネスホテル84.7%、旅館84.2%)から通年の平準化を見込んで保守的に置いた。建設費は国土交通省 建築着工統計の2025年の全構造平均(1坪あたり195.2万円)を丸めた200万円を基準とし、S造の240.5万円は上振れ要因として扱う。GOP率は、インヴィンシブル投資法人が開示するMHM運営ホテルの実績(2024年12月期・91物件で38.9%)を参照し、業態ごとの収益構造の違いを踏まえて置いた。
項目A. 秋田市 宿泊特化型 新築 推奨B. 仙北市 旅館 取得・改装
客室数・規模100室(1室20㎡・延床約3,080㎡)30室(既存旅館)
建設・改装費18.6億円(931坪×200万円)3.0億円(1室1,000万円)
土地・取得費1.0億円(1,000㎡×10万円/㎡)2.4億円(1室800万円)
付帯・諸費用1.9億円(建設費の10%)0.3億円
総投資額21.5億円(1室2,150万円)5.7億円(1室1,900万円)
想定ADR¥10,500¥12,900 → ¥14,500
想定稼働率72%60% → 65%
客室売上(年)2.76億円0.85億円 → 1.03億円
GOP率45%12% → 22%
GOP(年)1.24億円0.10億円 → 0.23億円
GOP利回り(総投資比)5.8%4.0%
建設期間インフレ後(+7.6%)総投資23.0億円・5.4%—
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。建設費は国土交通省 建築着工統計、GOP率はインヴィンシブル投資法人の開示実績を参照。インフレ後は建設期間中に年+5%(Turner & Townsendの予測水準)で約1.5年分を織り込んだ値。土地単価と取得価格は仮定値。
Aの秋田市100室は、ADRを市内シティホテルの1万1,500円と市内ビジネスホテルの7,700円の間の1万500円に置いた。GWに7施設中6施設が完売した1万〜1万5,000円帯の下端にあたる。総投資21.5億円に対してGOP利回りは5.8%、建設期間中の物価上昇を織り込むと5.4%である。1室あたりの総投資は2,150万円で、男鹿駅前161室の報道ベース(約1,550万円)より高く置いており、建設費の上振れに一定の余裕を持たせた。
Bの仙北市30室は、推定成約ADRを仙北市の旅館の水準(1万2,900円)から1万4,500円へ引き上げる改装を想定した。完売が集まった1万〜1万5,000円帯の中にとどめる設定である。泊食分離や客室数に見合った人員配置でGOP率を12%から22%に高めると、GOPは約2.2倍になる。総投資比の利回りは4.0%と都市型より低いものの、新築では成り立ちにくい温泉地で既存の客室と源泉を引き継げる点に、取得型ならではの価値がある。
感度分析(GOP利回り)ベースADR −10%稼働率 −5pt両方
A. 秋田市100室5.8%5.2%5.4%4.8%
A. 同・インフレ後5.4%4.9%5.0%4.5%
B. 仙北市30室(改装後)4.0%3.6%3.7%3.3%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。
下振れだけでなく上振れの幅も確かめるため、3つのシナリオとAの2軸グリッドを示す。悲観はADR−10%・稼働率−5pt(Aは建設期間インフレ後の総投資23.0億円)、楽観はAのADRを市内シティホテルの水準(1万1,500円)、Bを完売が集まった帯の上限(1万5,000円)に置いた。
シナリオA 想定ADRA 稼働率A 総投資A GOP利回りB 想定ADRB 稼働率B GOP利回り
悲観¥9,45067%23.0億円4.5%¥13,05060%3.3%
中位(ベース)¥10,50072%21.5億円5.8%¥14,50065%4.0%
楽観¥11,50077%21.5億円6.8%¥15,00070%4.4%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。GOP率はA 45%・B 22%で固定、Bの総投資は5.7億円。
A. 秋田市100室のGOP利回り — ADR×稼働率の2軸感度(総投資21.5億円・GOP率45%)
ADR \ 稼働率62%67%72%77%82%
¥9,0004.3%4.6%5.0%5.3%5.6%
¥9,7504.6%5.0%5.4%5.7%6.1%
¥10,5005.0%5.4%5.8%6.2%6.6%
¥11,2505.3%5.8%6.2%6.6%7.0%
¥12,0005.7%6.1%6.6%7.1%7.5%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。太枠はベースケース(ADR1万500円・稼働率72%(通年・試算前提))。濃い青は6%以上、薄い青は5%以上、灰色は5%未満。GOP率を固定した簡易計算のため、固定費の比率が高い下振れ局面の利回りは表より低くなりうる。
単価と稼働率がともにベースから1段下がった9,750円・67%でも利回りは約5%を保ち、4%台前半まで下がるのはADR9,000円・稼働率62%(通年・試算前提)の組み合わせに限られる。楽観シナリオではAが6.8%、Bが4.4%で、上振れ幅はAが大きい。単価を1万〜1万5,000円帯に保てるかどうかが、稼働率以上に事業性を分ける。
ADRと稼働率が同時に振れても、Aは4.5〜4.8%、Bは3.3%を確保する。Aは稼働率より単価に対して感応度が高く、1万〜1万5,000円帯にとどまれるかどうかが事業性を左右する。ビジネスホテルの推定OCCが宿泊日の直前に+26.6pt積み上がる構造を踏まえると、開業後の価格運用が利回りを上振れさせる余地も大きい。建設単価の水準は業態別の1室あたり建設費と成立ADRで整理している。
まとめ
秋田県の宿泊単価は、男鹿市2万600円から北秋田市5,300円まで3.9倍の階層を持つ。客室の42.5%を占める県都・秋田市は7,600円と中位にあり、2025年の548室の新規供給を吸収して夏は前年比+15〜19%まで伸びた。男鹿駅前の161室は旅館中心の市場に業務需要の受け皿を加え、市全体の単価は前年並みを保っている。
GW2026のピーク日に完売した12施設は、すべて6,000〜1万5,000円帯に入り、1万〜1万5,000円帯は7施設中6施設が完売した。それでもこの帯は県全体で7施設・961室しかない。県都の上位価格帯、温泉地の中価格帯リニューアル、男鹿半島の業務と観光の複合という3つの機会は、いずれもこの帯に規模のある施設を置く方向で共通している。秋田市100室の新築でGOP利回り5.8%(インフレ後5.4%)、仙北市30室の旅館改装で4.0%という試算は、地価の上昇がなお緩やかな秋田県で、この価格帯に投資機会が残っていることを示している。
※参考:掲載価格(全プラン平均・税込・2名1室)は2026年9月時点で仙北市3万600円(20施設、前年同月比+14.5%)、秋田市1万6,300円(19施設、同+8.0%)。本文の単価は推定成約ADRで統一しており、掲載価格とは水準が異なる。
⚠ 将来日程の価格に関する注意:脚注の2026年9月の掲載価格は、調査時点で主要予約サイトに公開されている販売価格にもとづく値であり、宿泊日に近づくにつれて変動します。本文の推定成約ADRと推定OCCは、確定済みの2026年8月までの宿泊日を対象としています。
参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが主要予約サイトで観測した掲載価格・在庫データ(秋田県内165施設・9,786室、2026年8月17〜23日に価格掲載を確認)。推定成約ADRは2025年9月〜2026年8月の月次値を日数で加重した12か月平均(前年同期は2024年9月〜2025年8月)、推定OCCは2026年5・7・8月の宿泊日、在庫推移は2026年5月3日チェックイン(N=64施設)。地価は国土交通省「地価公示」、建設費は同「建築着工統計調査」、GOP率はインヴィンシブル投資法人の開示、開業情報は木下グループの公式発表と報道による。
■ 試算前提
A(秋田市・宿泊特化型100室の新築)はADR1万500円・稼働率72%(通年・試算前提)・GOP率45%・総投資21.5億円(建設費1坪200万円×931坪、土地1,000㎡×10万円/㎡、付帯費用は建設費の10%)。B(仙北市・旅館30室の取得・改装)は改装後ADR1万4,500円・稼働率65%(通年・試算前提)・GOP率22%・総投資5.7億円。売上は客室売上のみで料飲・付帯収入は含まず、GOP利回り=年間GOP÷総投資額。インフレ後は建設費に年+5%を約1.5年分織り込んだ値。感度分析と2軸グリッドはGOP率を固定して算出した。
■ 限界・留意点
ADRとOCCはOTA掲載情報にもとづく推定値で、各施設の実績・会計数値とは異なる。施設数2以下の町村は参考値として扱い、順位付けしていない。土地単価・取得価格・GOP率は仮定値で、固定費の比率が高い旅館ではADRや稼働率が下がるとGOP率自体も下がるため、下振れ時の利回りは表より低くなりうる。公租公課・保険・修繕積立・金利などGOPより下の費用は考慮していない簡易試算であり、個別の投資判断には物件ごとのフィージビリティ・スタディが必要である。
■ 市場データ
メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(秋田県内13市町村・施設数5以上、2024年9月〜2026年8月)、客室ストック(165施設・9,786室)、在庫推移(2026年5月3日チェックイン、N=64施設)、推定OCC(2026年5・7・8月)、新規開業(OTA掲載確認ベース)
■ 政府統計・公的データ
■ REIT・業界資料
■ ニュース・プレスリリース
