小曽根真プロデュースのミニ・アルバム『Kurena』から、はや3年半。音楽世界を広げ続けるベーシスト&ヴォーカリストの石川紅奈が待望のニュー・アルバム『Garden』をリリースする。

石川紅奈『Garden』

収録レパートリーはオリジナルが5曲、カヴァーが3曲。大林武司、Taka Nawashiro、Kan、守真人といった気鋭に加え、ハービー・ハンコックのグループやミンガス・ビッグ・バンドで腕を磨いた重鎮ジーン・ジャクソン、ジャズとクラシックを横断する若手ハープ奏者チャールズ・オーヴァートンを迎えて、1970年代のソウル・ミュージックやブラジル音楽への深い愛情を感じさせるサウンドを繰り広げている。メロディとグルーヴが花開く新作『Garden』について、石川紅奈に話をきいた。

『Kurena』発表以降も、soraya(ピアニスト・壷阪健登とのポップ・ユニット)と自分のライヴを継続してきましたが、自分のライヴでは毎回なるべく新しい曲に取り組むようにしてきました。今回のアルバムは、その中から録りたかった曲をまとめた感じです。アルバム・タイトルにしたのは、自分の中の庭に、いろんな人、出会ってきたもの、いろんな言葉などが種みたいに植えられていて、それがふとした瞬間に開いていくようなイメージを感じたからです。この場合の『Garden』という言葉には、“自分の中のお庭みたいなところ”というイメージも強いですね。

“サウンド面に限らず、全般的に、自分でやってみたいことは自分でがんばってみよう”と、今回は自身で作品をプロデュースした。

編成は、ピアノとドラムと私のトリオ、ギターとパーカッションと私のトリオ、その2つが軸となって、曲によって組み合わさった形です。前作から今回までの間に新しく取り組んだことのひとつに、英語の作詞があります。今回は「Erica」、「Animara」、「Witch of the North」の3曲に英詞をつけましたが、もともと自分が聴いてきた曲はほぼ9割が洋楽で、以前から英語の歌詞が乗るイメージで曲を書いてきました。今回は自分の中に浮かんだ言葉を、レコード会社の英語が堪能な方に相談しながら形にしました。ぼんやりと浮かんでいたものを整えていただくことができました。

アートワークの写真は、戎康友(えびす・やすとも)さんが撮影してくださいました。私が音楽的にリファレンスにしている70年代の、ソウルやブラジリアン・ミュージックのレコード・ジャケットをたくさん見ていただいて、戎さんにまとめてもらいました。撮影は牧場のハーブガーデンで行いました。スタジオだと光が硬くなってしまうし、音楽的にも合わないんじゃないかということで、自然光で撮っていただきました。

Photo © Yasutomo Ebisu

アルバムのオープニングを飾るのは、チャールズ・ステップニー(彼の音楽を現代に伝えるシカゴ発のプロジェクト“Rotary Connection 222”にはジュニアス・ポールやマカヤ・マクレイヴンも関与)が書き、ミニー・リパートンが歌った「Les Fleurs」。私にはラムゼイ・ルイスがストリングスと一緒に演奏したヴァージョンの印象が強いのだが、石川紅奈はこれをピアノレス編成による、どこか土の香りのするアレンジを施して再構成している。アレンジャーとしての豊かな発想は、ロイ・エアーズのカヴァー「Searching」、チック・コリアのカヴァー「Time’s Lie」でも強くうかがえる。

大好きなミニー・リパートンのいろんなアルバムを聴いているうちに「Les Fleurs」を見つけて、いつか歌ってみたいとずっと思っていました。このアレンジに関しては、パーカッションのKanくんと一緒にデュオ・ライヴをしたときのものが基になっています。やってみるまで、ベースと歌とパーカッションでは和音もないですし、結構シックな感じになってしまうかもと思っていましたが、Kanくんのパーカッション、アイデアは音楽を広げてくれました。

「Searching」も、もともと本当に好きだった曲で、プレイリストに入れていました。私が考えるロイ・エアーズの楽曲の魅力のひとつに“リフ”があるのですが、このアレンジに関しては「リフの上で歌ったら面白いだろうな」というアイデアがなんとなく浮かんできた感じです。数年前にロイ・エアーズが亡くなった頃、アレンジを完成させてライヴでやって、今回レコーディングしました。「Time’s Lie」は、数年前にコットンクラブで行われた「チック・コリア・トリビュート」で演奏して以来、自分のアルバムで取り上げたかった曲です。チックの作る歌の曲がとても好きです。カヴァー曲をとりあげるときは、メロディはもちろん、歌詞もとても大切です。自分の中で落とし込んで歌いたいです。アレンジに関しては、やっぱり自分がベースを弾きながら歌うのが楽しいものにしたいと思います。

そしてオリジナル曲には、様々な物事にインスピレーションを受けて書きあげられ、ライヴで好評を博してきたものが厳選された。

作曲に関しては、今回の作品の曲では歌詞よりもメロディが先に浮かんだものが多かったです。ただ「Erica」では、“Erica”という言葉とメロディだけ同時に出てきて、そこから広げていきました。歌詞に関しては英語のイメージからスタートして、後で日本語にすることもあります。「In the Rain」も、最初の歌詞は英語で浮かんでいましたが、そのうち、こういったビートに日本語を乗せてみたいと考えた結果、今の歌詞になりました。ライヴの前日に天気予報を見ていたら“明日は大雨”と書いてあって、予約してくれているお客様が大雨の中来てくれると考えた時に、何か1曲書こうと思って急いで作ったのが始まりで、その時はスウィングで演奏していましたが、パーカッションやギターと録音してみたいと思ったので、今回リズムを変えました。

「Animara」は私の造語で、“アニミズム”とも関係があります。かつてグッチ、今はヴァレンティノのクリエイティヴ・ディレクターをしているアレッサンドロ・ミケーレは、すべてのものに魂が宿っているという考え方を持っている人で、ひとつひとつがかわいくて、愛くるしいデザインを作ります。彼の作品に触れる機会があったときに感銘を受けて、こういった楽曲制作にたどり着きました。

「Witch of the North」は、北の魔女という意味です。私は『西の魔女が死んだ』(梨木香歩による小説)が好きで、“西の魔女”というのは、その主人公のおばあちゃんのことですが、“北の魔女”は幼い頃から可愛がってくれた私の二人のおばあちゃんのことでした。それぞれがすごい能力というかエネルギーを持っているので、それを思って作った曲でしたが、片方のおばあちゃんがアルバム制作中に亡くなってしまったんです。活発で、女の子の友達と会うような感じで何でも話せる関係でした。突然いなくなってしまって、受け入れることは今もずっと出来ていませんが、そのままの気持ちで歌詞も書き換えて録音しました。結果としておばあちゃんのパワフルな感じにも合っている曲になったと思います。

ラストの「Oyasumi」の歌詞は日本語だけで書きました。一緒に暮らしていたワンちゃんが亡くなってしまった時にボイスメモに残していたメロディから完成させました。17歳なので長生きではあったんですが、私にとってとても近い存在だった祖母もワンちゃんも同じ年に亡くなったことや、悲しいニュースが多い日々にもいろいろ思うところがありましたね。マリンバのような響きはTakaさんのギター・シンセサイザーです。今回のアルバムでは、エレキギターだけではなくいろんな音を出していただきました。

“やってみたかったことをつめこんだ新しいアルバム”と本人が語る通りの内容だが、決してピントがボケることなく、各曲が“石川紅奈とはこういう音楽性の持ち主です”と語りかけてくるような印象を受けた。会心作『Garden』を携えてのツアーは、9月21日より開催される。

     

石川紅奈『Garden』

1. Les Fleurs
2. Erica
3. Animara
4. In the Rain
5. Searching
6. Time’s Lie
7. Witch of the North
8. Oyasumi

石川紅奈:bass, vocals
大林武司:piano, Fender Rhodes on 2, 3, 7
Taka Nawashiro:acoustic & electric guitars on 4, 5, 7, 8
守真人:drums on 2, 7
ジーン・ジャクソン:drums on 3, 6
Kan:percussion on 1-5, 7, 8

   

【ライヴ情報】

Kurena Ishikawa “Garden” Release Tour

2026年
9月21日(月・祝) 兵庫・KOBE QUILT
9月22日(火・祝) 大阪・雲雷寺
10月6日(火) 東京・COTTON CLUB
10月23日(金) 愛知・名古屋市千種文化小劇場(ちくさ座)
10月24日(土) 静岡・ジャズと喫茶 フィガロ
11月13日(金) 宮城・LIVE RESTAURANT J’Z

メンバー
兵庫、大阪、愛知、静岡:
⽯川紅奈 (Bass/Singer), Taka Nawashiro (Guitar), Kan (Percussion)

COTTON CLUB:
⽯川紅奈 (Bass/Singer), Taka Nawashiro (Guitar), Kan (Percussion), Gene Jackson (Drums), ⼤林武司 (Piano)

LIVE RESTAURANT J’Z:
⽯川紅奈 (Bass/Singer)、⼤林武司 (Piano)

ヘッダー画像: Photo © Yasutomo Ebisu

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