米・ベネズエラ石油協定に調印し記者会見する米国のクリス・ライトエネルギー省長官(左)とベネズエラのデルシー・ロドリゲス暫定大統領(右、9月2日、写真:AP/アフロ)
(英エコノミスト誌 2026年9月5日号)
この取引はベネズエラの民主化を未然に防ぐ理由を両国に与えかねない。
いかにもトランプ的なアナウンスだった。ドナルド・トランプ米大統領は8月28日、「世界史上最大の石油取引」なるものを発表した。
米国はベネズエラと協定を結び、同国領内にある原油の確認埋蔵量のおよそ5分の1に当たる650億バレル超について「過半の支配権」を手に入れると説明した。
トランプ氏はベネズエラの不人気な指導者デルシー・ロドリゲス氏を「非常に尊敬されているベネズエラ暫定大統領」と持ち上げた。
ロドリゲス氏もお追従で応じ、「我が国の経済成長」に寄与する取引についてトランプ氏に「このうえなく深く感謝している」と述べた。
トランプ大統領の「戦利品」?
トランプ氏は、この取引で米国の石油埋蔵量は「2倍以上に」なると話している。
これは誤解を招く表現だ。米国自体の石油埋蔵量はおよそ460億バレルで、トランプ氏が言うようにベネズエラの石油650億バレルを「贈られた」わけではない。
実際には、米国は国防総省を介して民間石油会社ノース・アメリカン・ブルー・エナジー・パートナーズ(NABEP)の親会社の株式35%を取得する。
NABEPはすでに3つの油田で操業しており、今回、そのほかに14の油田についてもコンセッション(採掘権)をベネズエラ政府から与えられた。
ホワイトハウスによれば、米国はNABEPが今後生産する石油の20%を生産原価で購入する権利を得る。残りの80%についても優先購入権を持つ。
また、NABEPの取締役全員の任命に対して拒否権を行使できるうえ、取締役の過半数は米国市民でなければならない。
トランプ政権は、この契約は100年間有効で、ベネズエラには税収とロイヤルティー収入を計2000億ドル以上もたらすと主張している。ただベネズエラ側は、協定の期間は25年にすぎないとしている。
トランプ氏は、この取引に漂う帝国主義的な香りを楽しんでいる。9月1日には「戦利品はすべて勝者のもの」だと述べた。
今年1月3日に米軍の特殊部隊をベネズエラの首都カラカスに送り込み、独裁者のニコラス・マドゥロ氏とその妻の身柄を拘束し、米国に移送して麻薬密売の容疑で起訴したことを指した言葉だ。
トランプ氏はさらに、この急襲の「戦利品」――ベネズエラで産出される大量の原油――を米国が手に入れたら、中東産の石油の重要性が低下し、米国の消費者が購入する燃料が値下がりし、ベネズエラが豊かになると示唆している。
行く手に待ち受ける長期戦
現実はもっと複雑だ。ベネズエラの石油産業は老朽化しており、生産量を大幅に増やすには何年もかかる(下図参照)。

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マドゥロ氏とその前任の故ウゴ・チャベス氏が率いた能力不足の体制の政権下でずさんな管理と汚職が20年続いたことで、この産業は過去の遺物になっている。
米ヒューストンのライス大学ベーカー研究所に籍を置くベネズエラの石油の専門家フランシスコ・モナルディ氏は、「向こう1、2年ほどの国際石油価格にベネズエラは全く影響を及ぼさないだろう」と語った。
また、トランプ氏が協定を結んだ相手がベネズエラではなく、正確に言えばまだ選挙の洗礼を受けていない指導部だという問題もある。
指導部を率いるロドリゲス氏はマドゥロ政権の副大統領で、元上司と同じ運命をたどることはせず、トランプ氏に協力することを選んだ人物だ。
カラカス市民の間では、米国が植民地主義者のように石油を奪いに来たことではなく、2024年の選挙で圧倒的な大差で敗れた体制を支えていることが最大の不満になっている。
(この選挙は盗まれ、ロドリゲス氏も含むマドゥロ氏の閣僚たちはそれを黙認した)
車にガソリンを入れる行列に並んでいたシオマラさんは「何もかも国民に内緒で進められている。それも、違法なやり方で権力を奪った者たちによってだ」とこぼした。
