8月28日(金)、麻布台ヒルズギャラリーにて「RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI AMBIENT KYOTO – TOKYO」が開幕した。京都を拠点に、音、アート、空間による体験をつくってきた〈AMBIENT KYOTO〉にとって、これが初の東京開催となる。
本展の出展作品は、坂本龍一と高谷史郎によるインスタレーション《async – immersion》。2023年の〈AMBIENT KYOTO〉で発表され、その後、東京都現代美術館などで形を変えながら展示されてきた作品が、今回は京都展と同じ幅26.4メートルもの巨大スクリーンと、麻布台ヒルズギャラリーのために再構築された立体音響によって立ち上がる。

前日に行われた内覧会では、高谷史郎による来場者への挨拶があった。高谷は1984年、京都市立芸術大学在学中にダムタイプの活動に参加。映像、光、音、舞台装置など多様なメディアを横断し、パフォーマンスやインスタレーションを発表してきた芸術家。1998年からはソロでの制作も並行している。
坂本と高谷は、2007年のインスタレーション《LIFE – fluid, invisible, inaudible…》をはじめ、長年にわたりコラボレーションを重ねてきた。坂本による2017年の作品『async』をめぐっても、高谷はアルバムのアートワーク(坂本のニューヨークのスタジオで撮影)や、ブルーレイ『async surround』、ワタリウム美術館での5.1チャンネル・サラウンドのインスタレーション作品《async – drowning》などに携わっている。2021年には二人によるシアターピース『TIME』が世界初演され、翌年には坂本がダムタイプの新メンバーに。音楽家と映像作家という分業を超え、音と映像、身体と空間の関係をともに探ってきた間柄だ。

今回展示される《async – immersion》は、坂本の没後に制作され、完成したインスタレーションを坂本自身が体験することは叶わなかった。内覧会で高谷は、「坂本さんご本人に体験してもらうことができなかったのは残念」と語りつつ、制作に関わった全員が「坂本さんに捧げるような気持ち」でつくったと明かす。
高谷によれば、本作は鑑賞者が空間に入り、音と映像を体験することで初めてインスタレーションとして成立するという。
「坂本さんの音を全身で体験し、それによって記憶の中から何かが引き出される。そうした出来事が起きて初めて、インスタレーションとして成立するのです」

その言葉は、実際に作品を体験するためのひとつの道標となった。展示室に足を踏み入れると、視界いっぱいに伸びるスクリーンの上を、高谷がスリットスキャンの技法を用いて制作した映像が絶え間なく流れている。映像の素材となったのは、森の木々や花の接写、島々の浮かぶ海。坂本のスタジオに置かれたピアノや機材、マレットやトライアングル、ギターの弦が並ぶ作業机。そして、東日本大震災の津波で被災し、坂本が「自然によって調律された」と捉えたピアノ……等々。

巨大なスクリーンの端から動画が静止画へと変わり、時間を凍結させながら色の層へ分解されていく。揺らめくレイヤーは、ときに砂漠の地平線や土星の輪、長時間露光で撮られた天体、夜明け前の山の稜線にも見える。具象的な風景が抽象へほどけ、別の風景へ結び直される。その変化を目で追ううちに、自分が何を見ているのかという確信もゆっくりと揺らいでいく。
音響ディレクターのZAKが構築したサウンドも圧巻だ。前方だけでなく、頭上や背後に配されたスピーカーから、ピアノやシンセサイザー、金属の振動、自然界の音、ノイズ、語りが、異なる距離と質感を伴って立ち現れる。音が一方向から押し寄せてくるのではなく、その内部を歩いているような感覚。あるいは、坂本の脳内に広がる音の風景へ入り込んでいくようでもある。

《async – immersion》では、1時間弱の音楽と2時間弱の映像が完全には同期せず、それぞれ異なる周期で進んでいく。同じ場面に同じ音が重なることはほとんどなく、目の前の関係は二度と繰り返されない。高谷は鑑賞時間について「たった1分でも、そこで何かを得たのであれば、それでいい」と語った。すべてを見届けることを目指すのではなく、音と映像によって自分の内側から引き出されるものに向き合う。そのための時間なのだ。
今回の東京開催が示したのは、完成した作品を単に別の都市へ移植することではない。建築の構造や音の反射、スクリーンとの距離、そこへ集う人々までを受け入れながら、新たな「場」をつくり出すこと。その営みこそが、〈AMBIENT KYOTO〉というプロジェクトの現在地なのだろう。

《async – immersion》は、場所に応じて姿を変え、鑑賞者を作品の一部へ迎え入れる。〈AMBIENT KYOTO〉の思想を鮮やかに体現する作品のひとつとして、今後もプロジェクトを支える重要な柱となっていくだろう。
さらに、2027年春には京都でレイ・ハラカミをフィーチャーした展覧会の開催も予告されている。京都から東京へ、そして再び新たな音と場所へ。〈AMBIENT KYOTO〉が次にどのような「場」を立ち上げ、私たちの内側にどんな風景を呼び覚ますのか。そのさらなる広がりに期待したい。
Text by 黒田隆憲
Photo by Kaoru Goto
EVENT INFORMATION

RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI AMBIENT KYOTO – TOKYO
日程
2026年8月28日(金)~10月25日(日)/無休・59日間の開催
時間
10:00-19:00(土日祝は20:00まで)
※最終入館は閉館の30分前まで
会場
麻布台ヒルズギャラリー(港区虎ノ門5-8-1 麻布台ヒルズ ガーデンプラザA MB階)
観覧料
平日 大人 前売2,200円/当日2,500円
土日祝 大人 前売2,500円/当日2,800円
※高校生以下無料
※障害者手帳をお持ちの方(介助者1名含む)は無料
※小学生以下は保護者同伴
主催
AMBIENT KYOTO 実行委員会(TOW / Traffic)
企画制作
TOW / Traffic
協力
bricks & company / CCC ART LAB / COP / FULFILLMENT / Graphpaper / HACIENDA / HAPPYMONDAY / Imaginations / Kanai Scenic Studio / Kyoto Amplitude / Links / MINDSQUARE / Nekoana
後援
J-WAVE
協賛
OGAWA
広報協力
HOW INC. / PRism JAPAN inc. / Qetic / alpha.co.ltd.
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