研究者情報概要
京都大学白眉センター/理学研究科の松本徹特定助教ら京都大学、自然科学研究機構 分子科学研究所、広島大学、東京科学大学、愛媛大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)などの研究グループは、小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星リュウグウの砂をX線や赤外線を使って分析した結果、炭酸ナトリウムや岩塩など水に溶けやすい塩結晶の周囲に、窒素を含む塩の結晶(硝酸塩)や、アンモニア、炭素と窒素が強く結びついた有機物などの窒素化合物が集まっていることを発見しました。
リュウグウは、約45億年前に生まれた大きな天体の破片で形づくられています。そのリュウグウの母体である天体の内部には水が流れていましたが、時間が経つにつれて凍結や蒸発により水は減少してゆきました。その際、残された濃い塩水から塩の結晶が沈殿し、窒素化合物も高度に濃縮されたと考えられます。
リュウグウの砂からは、すでにアミノ酸や核酸塩基などの生命の材料となる有機物が発見されており、アンモニアなどの窒素化合物はこれらの合成に中心的な役目を果たしたと考えられています。本研究により、リュウグウの母天体には水が存在するだけでなく、「水が減少して成分が濃縮される仕組み」が存在したことで、アンモニアなどの反応性物質が高濃度で出会い、複雑な生命材料へと進化する反応が促進された可能性が示されました。
このような濃い塩水スープは、リュウグウだけでなく、地下に塩水が存在すると予想される準惑星セレスなどの太陽系の水天体でも存在するかもしれません。リュウグウの研究は、地球以外の天体で、生命の材料がどこで、どのように形づくられるかを紐解く手がかりになると期待されます。
本成果は松本徹特定助教のほか、分子科学研究所の湯澤勇人主任技術員、広島大学の小池みずほ准教授、東京科学大学の癸生川陽子准教授、京都大学理学研究科の野口高明教授、JAXAの矢田達主任研究開発員、高輝度光科学研究センターの菅大暉研究員、伊奈稔哲研究員、物質・材料研究機構の佐久間博主任研究員、愛媛大学の白勢洋平講師、京都大学理学研究科修士課程(当時)の北村悠樹氏、京都大学理学研究科の伊神洋平准教授、同所属の三宅亮教授らによるもので、国際科学誌『Nature Astronomy』に2026年8月27日付で掲載されました。
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リュウグウの砂の塩鉱物(青色)と粘土鉱物(茶色)の電子顕微鏡擬似カラー画像とアンモニウム分子(NH₄⁺)のイラスト。(京都大学)
「リュウグウの砂に含まれる塩の結晶は、湿気にさらされるだけでも溶けてしまうほど変化しやすく、地上で雨風にさらされる隕石からはほとんど見つかっていません。宇宙から直接持ち帰ったリュウグウの砂を分析したことで、母天体内部の塩水環境が、少しずつ明らかになってきました。今後、NASAの探査機が持ち帰った小惑星ベヌーの試料の分析も進み、リュウグウとの共通点や違いが明らかになれば、生命の材料となる物質が宇宙でどのように、どこまで作られたのか、そしてそれらが地球へ運ばれた可能性があるのかについて、さらに理解が深まると期待しています。」(松本徹)
