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2026年に開館45周年を迎える宮城県美術館。仙台駅から市営地下鉄東西線に乗り換え、「国際センター駅」で下車、徒歩で約7分の場所に位置する同館は、2023年から約3年にわたる改修工事を終え、今年6月20日にリニューアルオープンした。

今回の改修において、とくに「見える収蔵庫」の新設が注目されていた。この記事では、日本ではまだ事例の少ないこの「見える収蔵庫」を含め、新たなスタートを切った宮城県美術館の魅力を紹介する。

前川國男建築をより魅力的に活用する

前庭のヘンリ・ムーア《スピンドル・ピース》が来館者を出迎える、宮城県美術館(宮城県仙台市)前庭のヘンリ・ムーア《スピンドル・ピース》が来館者を出迎える、宮城県美術館(宮城県仙台市)

まず、簡単に美術館の歴史と建築を紹介しよう。宮城県美術館は、1981(昭和56)年11月に開館、1990(平成2)年6月には、宮城県出身の彫刻家・佐藤忠良の作品を展示する「佐藤忠良記念館」が増設された。本館の設計は、日本におけるモダニズム建築の巨匠・前川國男で、ル・コルビュジエに師事した前川らしい、直線的で洗練されたデザインが目を引く。正面入口に向かうアプローチから中庭を眺めると、前川建築の特徴の1つのタイル張りがクラシカルな雰囲気を醸し出し、まるで古代遺跡や寺院の回廊を彷彿とさせる。

本館の入口に向かうアプローチからの中庭の様子本館の入口に向かうアプローチからの中庭の様子

やや低めの天井のアプローチを通って館内に入ると、吹き抜けの広いエントランスホールが広がり、開放的な気分になる。学芸部長・加野恵子氏によると、今回の改修でエントランスの照明を新たに設置したとのこと。「元々は、(照度が抑えられた)展示室の明るさに来館者の眼が慣れるようにと、あえて暗めにしていたのだと思いますが、美術館に求められる雰囲気なども時代とともに変わっているので、今回のリニューアルを機に、照明を増やしました」。(加野氏)

エントランスホールエントランスホール

また上の写真を見ると、建物の奥から外の景色が入り込んでいるのが分かるだろう。この光景も今回のリニューアルで新たに誕生した眺めだ。というのも、以前は奥が図書室になっており、壁で仕切られていた。それを今回の改修で「アート・ラウンジ」として、図書の閲覧だけでなく、休憩したり、PCなどでコレクションの画像を検索できたりと、多機能なスペースに変えた。壁もガラス張りにしたことで利用者が入りやすくなり、また外光が館内に多く入り、より開放的な空間へと生まれ変わった。

改修前の図書室の様子 写真提供:宮城県美術館改修前の図書室の様子 写真提供:宮城県美術館

アート・ラウンジ 写真提供:宮城県美術館アート・ラウンジ 写真提供:宮城県美術館

その他にも、エレベーターの向きを変えて気づきやすくしたり、地下の展示室からそのまま別館である佐藤忠良記念館に移動できるようにしたりなど、館内の動線もアップデートした。前川建築のモダンさと格調高さを残しつつ、より快適に過ごすための改修が行われた。

リニューアルポイント①:「見える収蔵庫」

地下の「見える収蔵庫」につづく螺旋階段 写真提供:宮城県美術館地下の「見える収蔵庫」につづく螺旋階段 写真提供:宮城県美術館

さて、リニューアルの1番大きな特徴である「見える収蔵庫」は、本館の地下に設けられている。螺旋階段を下りると見えてくるガラス張りのスペースに、絵画作品がズラリと並ぶ。実際の収蔵庫は別にあり、「見える収蔵庫」は収蔵庫と同じ環境を作り作品を置くことで、「保存」と「展示」の両方の機能を備え、普段あまり意識することのない「保存」という美術館の最大の役割を来館者に伝える。

「見える収蔵庫」 写真提供:宮城県美術館「見える収蔵庫」 写真提供:宮城県美術館

「見える収蔵庫」の設置に当たり、加野氏はアメリカで同様の取り組み(海外では「ヴィジブル・ストレージ(Visible Storage)」「オープン・ストレージ(Open Storage)」と呼ばれる)をしているブルックリン・ミュージアム、メトロポリタン美術館、ニューヨーク歴史協会の3施設を視察し、その運用の仕方などをリサーチした。

美術作品は油絵、日本画、彫刻など素材によって最適な保存環境が異なるため、全ての作品に最適な環境を作るのは難しい。そのため宮城県美術館では、「見える収蔵庫」に保存するのは主に油絵としている。取材中はコレクションの中核の1つ「洲之内コレクション」(画廊経営者で『芸術新潮』で「気まぐれ美術館」の連載をしていた洲之内徹氏の旧蔵品)の油絵が並んでいた。

「見える収蔵庫」 写真提供:宮城県美術館「見える収蔵庫」 写真提供:宮城県美術館

照明も展示用の明るさではないため最初は暗く感じるが、だからこそ、まるで閉館後の美術館の中を覗いているような面白さがある。また作品が所狭しと並ぶ光景は「驚異の部屋(ヴンダーカンマー)」(※)的な演出効果もあり、実際、取材中には一般の来館者が「すごい」と驚きの声をあげ、新しい作品との出会い方を楽しんでいた。

※15~18世紀のヨーロッパで流行した、様々な珍品や美術品などを部屋中に陳列した部屋

日本では70~80年代にかけて美術館が急増したが、近年はそうした施設がちょうど改修を検討する時期であるため、同館の事例を参考にしようと美術関係者も訪れているという。「見える収蔵庫」が美術館、そして来館者の双方にとって有意義な場所になり、宮城県美術館の新しいシンボルとなっていくことを期待する。

リニューアルポイント②:特製の展示ケース

「見える収蔵庫」の隣には、県民ギャラリーを改修して増設された2つの展示室があり、そこにも同館ならではの展示体験がある。

展示室風景展示室風景

上の写真をご覧いただきたい。何やら3つの台がある。ガラス張りの部分は空洞で、一見すると何も展示されていない殺風景な場所に思われる。しかし台に近づき、脇にあるハンドルをスライドさせると…なんと可愛らしい絵が現れてくるのだ!

絵本原画専用の展示ケース
ハンドルを動かし、それぞれの引き出しがスライドして中の原画を見ることができる。絵本原画専用の展示ケース

ハンドルを動かし、それぞれの引き出しがスライドして中の原画を見ることができる。

同館は福音館書店の『こどものとも』の初期の絵本原画を多数コレクションしており、この展示ケースはその絵本原画を展示するため特別に製作された。カラーインクや水彩など油絵とは異なり光に弱い画材で描かれることの多い絵本原画は、展示の際に明るさや展示期間など制約が多い。光に当たる時間を最小限に抑えつつ、多くの人が鑑賞できるようにする―その思いから誕生した。

保存の観点から生まれたものだが、実際にレバーをスライドさせると、「ページをめくると次々に絵が現れる」という絵本を読む体験と近い感覚になった。大人も思わず童心に返る、絵本原画の楽しみ方として最適な鑑賞体験だ。

多彩なコレクションに出会う「美術の時代」展

「宮城県美術館リニューアルオープン 全館 コレクションで魅せます 美術の時代」展
 「1950~60年代:高度成長期へ」展示風景「宮城県美術館リニューアルオープン 全館 コレクションで魅せます 美術の時代」展

 「1950~60年代:高度成長期へ」展示風景

現在はリニューアルオープンを記念した展覧会「宮城県美術館リニューアルオープン 全館 コレクションで魅せます 美術の時代」が開催中だ。約700点のコレクションから始まった宮城県美術館だが、現在では約7,000点にも上り、宮城県・東北ゆかりの作家・作品はもちろん、日本の近現代美術史において重要な作家、海外ではカンディンスキーやパウル・クレーなど抽象絵画の代表的な画家やドイツ表現主義を中心とした作品を収集している。

「宮城県美術館リニューアルオープン 全館 コレクションで魅せます 美術の時代」展
「~1920年代:明治・大正から昭和へ」展示風景「宮城県美術館リニューアルオープン 全館 コレクションで魅せます 美術の時代」展

「~1920年代:明治・大正から昭和へ」展示風景

本展では、その多岐にわたるコレクションを中心に、近代から現代にかけての日本・海外の美術史を展観する。日本における近代の幕開け、明治時代に活躍した高橋由一の作品から幕を開ける本展は、特別展などでよく見る章立てのバナーなどはない。「~1920年代:明治・大正、昭和へ」「1930~40年代:昭和初期・戦中戦後」など、大きな時代の区分によって区切られているのみのため、洋の東西の作品がシームレスに続き、その時代の潮流を歩きながら感じられるような構成になっている。

下村観山、川端玉章、安田靫彦らの近代「日本画」下村観山、川端玉章、安田靫彦らの近代「日本画」

明治から大正期にかけては、高橋由一の後に、ロートレックなどのパリのポスター芸術、ピカソ、エゴン・シーレなど西洋の19世紀末から20世紀初頭に花開いた芸術様式が紹介されている。

長谷川潾二郎《猫》は洲之内コレクションの1つで、同館のコレクションを代表する人気作品の1点だ。潾二郎は画家であり探偵小説家の一面も持つ。遅筆で、実物を見ながらでないと描けなかったため、本作を描くのに何年もかかり、その間に猫が死んでしまったため髭が片方しか描かれていない。

長谷川潾二郎《猫》長谷川潾二郎《猫》

また前述の月刊絵本『こどものとも』(福音館書店)の原画も展示されていた。創刊者である松居直(ただし)氏の「優れた絵本の原画が後世にも継承されてほしい」という想いに共感し、1998(平成10)年より、絵本原画の蒐集を始めた。創刊号である堀文子の《ビップとちょうちょう》をはじめ、長新太《おしゃべりなたまごやき》、山脇百合子の《ぐりとぐら》シリーズなど、今でも長く愛されている絵本の原画に、大人も子どもも思わず釘付けになる。

山中春雄《ぺにろいやるのおにたいじ》1957年6月刊山中春雄《ぺにろいやるのおにたいじ》1957年6月刊

本展の質と量は圧巻だ。日本と諸外国の芸術運動の展開を、時代の流れに沿って展観しており、鑑賞者に激動の時代のうねりを感じさせる構成になっている。

手前:彦坂尚嘉《PWP 32 AIR WAY》1980年
具体美術協会や李禹煥(リ・ウファン)をはじめとする「もの派」などの、現代美術を代表する作品も多く収蔵している。手前:彦坂尚嘉《PWP 32 AIR WAY》1980年

具体美術協会や李禹煥(リ・ウファン)をはじめとする「もの派」などの、現代美術を代表する作品も多く収蔵している。

「宮城県美術館リニューアルオープン 全館 コレクションで魅せます 美術の時代」展示風景より「宮城県美術館リニューアルオープン 全館 コレクションで魅せます 美術の時代」展示風景より

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
「宮城県美術館リニューアルオープン 
全館 コレクションで魅せます 美術の時代」

開催美術館:宮城県美術館

開催期間:2026年6月20日(土)〜8月23日(日)

宮城出身の彫刻家・佐藤忠良の世界に浸る

同館のコレクションで忘れてはいけないのが、彫刻家・佐藤忠良だ。宮城県出身の佐藤は、画家を志して上京するもロダンの作品に感銘を受け彫刻家に転身。戦時中にはシベリアに抑留され、復員後は具象彫刻の道を貫き、《帽子・夏》などの代表作を発表、日本彫刻史に大きな功績を残した。

佐藤忠良記念館 エントランス佐藤忠良記念館 エントランス

作家本人からの寄贈を機に、1990年に佐藤忠良記念館が増築された。エントランスでは、帽子を目深に被った姿と腕のポーズが印象的な《帽子・立像》―忠良の芸術を象徴する《帽子》シリーズ―が来館者を出迎え、静謐で詩情豊かな世界がこれから広がっていくことを予感させる。

展示室は5つあり、初期から晩年にかけての作品をゆるやかな時系列に沿って紹介している。中でも2つ目の展示室は、壁の一部がガラス張りになっており、外の景色と忠良の作品が静かに響き合う。野外彫刻も多く手掛けた忠良の魅力を、室内からも感じられる。取材時は初夏の快晴。木々の緑が輝くように鮮やかに照らされた景色が、忠良の作品の静謐な趣を引き立てる。

一番広い展示室では、一部の壁をガラス張りにし、外の景色を借景に鑑賞を楽しむことができる。一番広い展示室では、一部の壁をガラス張りにし、外の景色を借景に鑑賞を楽しむことができる。

佐藤忠良記念館 展示風景佐藤忠良記念館 展示風景

佐藤忠良《帽子・夏》1972年佐藤忠良《帽子・夏》1972年

佐藤忠良記念館 展示風景
この展示室では、子どもをモデルにした彫刻作品や携わった教科書など子どもにちなんだ作品を紹介している。佐藤忠良記念館 展示風景

この展示室では、子どもをモデルにした彫刻作品や携わった教科書など子どもにちなんだ作品を紹介している。

「展示室3」では女性像の他に多く手掛けた子どもの像や、携わった美術の教科書など子どもにまつわる作品が展示され、最後の展示室では作家のアトリエに残された道具類や書籍、蒐集したロダンやデスピオ、マイヨールなどの彫刻作品などが展示されており、佐藤忠良の創作の源泉に触れる。

アトリエの再現展示 アトリエの再現展示 

本館と佐藤忠良記念館をつなぐ通路では、挿絵画家としての忠良の代表作『おおきなかぶ』が紹介されている。本館と佐藤忠良記念館をつなぐ通路では、挿絵画家としての忠良の代表作『おおきなかぶ』が紹介されている。

多彩な「庭」で出会う彫刻

新宮晋《時の旅人》。風によって動く本作は、まるで「観測機」のよう。ブロンズ像が多い彫刻群の中で異彩を放つ。新宮晋《時の旅人》。風によって動く本作は、まるで「観測機」のよう。ブロンズ像が多い彫刻群の中で異彩を放つ。

存分に忠良の世界を味わった後は、美術館の外を歩いてみよう。美術館の周囲には「前庭」「北庭」「アリスの庭」の3つ庭と、その周囲に24点の彫刻が展示されている。佐藤忠良の作品の《夏》や《あぐら》、舟越保武の《原の城(じょう)》などの名作から、一見「これが彫刻?」と思ってしまいそうな新宮晋(すすむ)の《時の旅人》など、多彩な作品が庭のあちこちに点在している。

「アリスの庭」は、本館と佐藤忠良記念館の間の半円形の空間だ。佐藤忠良記念館の湾曲した壁がすべてマジックミラーになっている。ここには、動物や子どもにちなんだ作品が展示されており、まるで「不思議の国のアリス」の世界のように、ファンタジックな世界が広がる。

アリスの庭にあるバリ―・フラナガン《野兎と鉄兜》アリスの庭にあるバリ―・フラナガン《野兎と鉄兜》

特にバリ―・フラナガン《野兎と鉄兜》が、この独特な空間の中で一際存在感を放っている。躍動する兎の姿は、「アリスの庭」と名付けられたこの独特な空間を象徴するようだ。

佐藤忠良《夏》1976年佐藤忠良《夏》1976年

トム・オタネス《蛙とロボット》1989年トム・オタネス《蛙とロボット》1989年

フェルナンド・ボテロ《猫》1984年フェルナンド・ボテロ《猫》1984年

舟越保武《原の城》1971年舟越保武《原の城》1971年

創る楽しさをいつでも体験できる「創作室」「キッズスタジオ」

さて、ここまで様々な作品を「鑑賞」してきたが、同館は「鑑賞」だけでなく、「創造」の場でもある。宮城県美術館には室内の機材や道具を使って、様々な創作活動ができる「創作室」があり、そして今回新たに「キッズスタジオ」も設けられた。

「創作室2」では絵画や版画作品などの制作が可能。 写真提供:宮城県美術館「創作室2」では絵画や版画作品などの制作が可能。 写真提供:宮城県美術館

「創作室」も「キッズスタジオ」も開室時は誰もが無料で利用できる(開室時間は美術館公式サイトの「利用カレンダー」に掲載)。「創作室1」には糸のこや、帯のこ、ろくろなどが設置されており、木工作業や陶芸、彫塑などの音や粉じんが出る作業が可能だ。「創作室2」は、主に絵画や版画などの制作ができ、版画用のプレス機、絵画の道具等がある。またシルクスクリーンの機械を利用することもでき、本格的な創作活動が可能だ。

「創作室1」の様子。まるで工場のような本格的な機材も備わっている。「創作室1」の様子。まるで工場のような本格的な機材も備わっている。

「創作室」は美術館の開館当初から運営されていたが、今回の改修で利用できる機械や運営方法を見直し、より安全で快適な利用ができるようにした。新設された「キッズスタジオ」では、子どもとその保護者を対象に、お絵かきや工作などができるほか、「えほんのへや」もあり、親子でゆっくり過ごすことができる。

多くの美術館が創造力を育む取り組みをしている中、予約不要で開放されている。こうした創作活動ができる場所を運営するケースは珍しいだろう。美術館が回廊式の空間であることも含めて、「鑑賞」と「創造」の体験を循環することができる同館の在り方は、美術館の理想の在り方に思えた。

キッズスタジオ(えほんのへや) 写真提供:宮城県美術館キッズスタジオ(えほんのへや) 写真提供:宮城県美術館

宮城県美術館の広い敷地内の中では、「歩く」というより「散策する」という表現の方がふさわしい。「不思議の国のアリス」ではないが、館内や庭を「この先には何があるのだろう」とワクワクしながら歩を進める。取材中、リニューアルしたカフェでお昼も取り、心の赴くままに館内を巡っていると、気づいたらあっという間に4時間を過ごしていた。

開館から45周年で新たな歴史を刻み始めた宮城県美術館は、時間を忘れ、「見る」楽しさと「作る」楽しさに没入することができる美術館だ。

美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
宮城県美術館|THE MIYAGI MUSEUM OF ART

980-0861 宮城県仙台市青葉区川内元支倉34-1

開館時間:9:30〜17:00

休館日:月曜日 ※ただし祝日・休日にあたる場合は開館し、原則として翌平日が休館

※休館日の詳細は公式サイトのご利用案内をご確認下さい。

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