明治時代の刑務所がラグジュアリーホテルとして再オープンした。Hoshino Resorts.明治時代に建設され国の重要文化財に指定された「旧奈良監獄」が、星野リゾートの手により全48室のラグジュアリーホテルとして2026年6月から開業している。中央の監視所から5つの収容棟が放射状に伸びる「ハビランドシステム」の美しさを残し、独房を連結した客室やNetflix『今際の国のアリス』のロケ地としての歴史的・文化的価値をそのまま保存している。敷地内にはミュージアムも併設され、従来「日帰り観光」が中心だった奈良を「滞在型観光」の街へと変革させる起爆剤として世界中から注目を集めている。
日本の明治時代を象徴する歴史的建造物が、全48室を備えた最高級ラグジュアリーホテルとして新たな息吹を吹き込まれた。
1908年(明治41年)に建設され、2017年に国の重要文化財に指定された「旧奈良監獄」が、星野リゾートの運営のもと「星のや奈良監獄」として2026年6月に正式開業を迎えた。
敷地全体は約10ヘクタール(約25エーカー)に及び、ラグジュアリーホテルのほか「奈良監獄ミュージアム」も併設されている。中央の監視所から5つの収容棟が放射状に広がる「ハビランドシステム」と呼ばれる星型の建築デザインが最大の特徴だ。
独房を連結した贅沢な客室と、歴史を物語るデザイン
刑務所には中央の指令所から延びる5つの放射状の棟がある。Hoshino Resorts.
総支配人の掛川雅也氏は、開業以来、建築・歴史・文化に深い関心を持つ海外からの旅行者を中心に高い人気を集めていると語る。
客室は、かつて実際に使われていた複数の独房の壁を取り払い、一つの客室へと統合・改修された。客室タイプは全3種類あり、最も広い「11セル・デラックス(11房デラックス)」は、広々としたリビングエリアとドレッシングラウンジを備えている。宿泊料金は1泊245ドル(約3万7000円)からとなり、時期やシーズンによって変動する。
ホテルのゲストルームは、かつての個別の独房を複数統合して作られた。Hoshino Resorts.
館内には、職人が手積みしたレンガ壁やオリジナルの天井モールディングなど、刑務所時代の建築的装飾の多くがそのまま保存されている。
「過去の歴史を隠すのではなく、施設内を移動しながらその歴史を肌で体感してもらいたかったからです」と掛川氏は語る。
刑務所のオリジナルの特徴の多くが保存されている。Hoshino Resort
客室前の廊下にも、検眼孔(点検口)付きの深い緑色の木製独房扉、換気ハッチ、部屋番号のプレートなどが残されている。廊下の上部に目を向けると、建設当時の天窓(トップライト)や鉄骨補強梁がそのまま露出しており、当時の空気感を今に伝えている。
約7年にも及んだ改修工事における最大の挑戦は、刑務所としての歴史的・建築的価値を厳格に保存しながら、現代の最高級ホテルとしての快適性を両立させることであったという。
Netflix『今際の国のアリス』のロケ地としても話題に
奈良監獄の収容棟内部。The Former Nara Prison Preservation and Utilization Co., Ltd
この旧奈良監獄は、全世界で大ヒットを記録したNetflixの日本ドラマシリーズ『今際の国のアリス』シーズン2の重要な撮影地としても知られている。
主人公たちが異世界から現実世界に戻るため、命を懸けたデスゲームに挑むストーリーの中で、屈指の人気を誇るエピソード「ぷりずん(ジャック・オブ・ハーツ)」編のロケ地として使用された。劇中では、主要キャラクターの一人であるチシヤ(村上虹郎)が刑務所に閉じ込められ、裏切りと心理戦が渦巻く脱出劇が展開された。
明治の「五大監獄」から現代の文化遺産へ
旧奈良監獄は、明治政府が近代化の一環として計画・設計した「明治の五大監獄」の一つである。
1946年には「奈良少年刑務所」と改称され、16歳から26歳までの若い受刑者を収容。敷地内の作業場では、理髪技術の習得やナンバープレートの製造など、社会復帰に向けた職業訓練が行われていた。
受刑者の労働を主体として建設されたこの施設は、周囲のレンガ塀を見下ろす重厚なロマネスク様式の正門が特徴で、2階建ての管理棟の前庭を守るように立っている。
管理棟に隣接する中央監視所からは、1箇所で5つの収容棟すべてを見渡すことができる構造になっていた。さらに2階床部分には格子が設置されており、看守は1階と2階の独房を同時に監視することができた。
指令センターと格子により、看守は1か所から5つの棟すべての受刑者を監視できた。Japanese Ministry of Justice
当時の単独房にはトイレ、洗面台、小さな窓、そして外側からしか開けられない取っ手のない重い木製扉が備え付けられていた。施設全体で約635人の受刑者を収容していた歴史を持つ。
日帰り観光から「滞在型観光」へのシフトを狙う
奈良監獄の独房の様子。The Former Nara Prison Preservation and Utilization Co., Ltd.
刑務所としての役割を終え、文化財に指定された2017年にホテルへの改修計画が発表されてから約9年。ついに誕生した「星のや奈良監獄」への期待は大きい。
総支配人の掛川氏は、歴史的価値の高い奈良が長年「京都や大阪からの日帰り観光地」として扱われてきた現状に触れ、このホテルの誕生が奈良の観光構造そのものを変える契機になることを期待している。
「この施設が滞在型観光へのシフトを促す起爆剤となり、奈良が持つ奥深い魅力を世界に向けて発信する一助となることを願っています」
