【8月11日 CNS】7月上旬、広西チワン族自治区(Guangxi Zhuang Autonomous Region)横州市(Hengzhou)を襲った洪水の中、大型ドローンが空へと飛び立った。機体からロープが正確に降ろされ、取り残された住民はフックをつかみ、そのまま安全に水面から救助された。
重量物運搬用ドローンは、原則として人をつり上げることが認められていない。これは安全性への配慮によるものだ。しかし、人命を前にして、その原則は破られた。
「原則として人をつり上げてはならない。しかし、人民の命は原則より重い」。この言葉は多くの人びとの心を打った。ネット上では、「欧米諸国がドローンを兵器として使う一方、中国は人命救助に活用している」との声や、「取り残された人にとっては、まるでアイアンマンが飛んできたようだった」と称賛する声が上がった。
生活物資の空中投下、被災状況の調査、住民の避難支援、通信の復旧――。広西の洪水災害の現場は、中国のドローン技術が実戦で総合的な力を発揮する場となった。
民間航空業界関係者の李瀚明(Li Hanming)氏は、「今回の災害救援では、ドローンが果たした役割はこれまで以上に多様化し、低空域に多層的な救援ネットワークを構築した」と三里河の取材に語った。
では、中国でドローンは普段どのように活用されているのだろうか。料理の宅配や農薬散布、送電線の点検など、さまざまな分野で日常的に利用されている。こうした低空経済の商業利用が広く普及していたからこそ、災害時には機材を迅速に投入でき、それを操縦できるパイロットも確保できた。
李氏は、「車両やゴムボートが近づけない孤立地域では、重量物運搬用ドローンが救援物資を正確に届けることができる。緊急時にはロープを使って住民を空中から救助・搬送することも可能だ。これは災害救援手段における大きな前進であると同時に、中国が保有する膨大な商業用ドローンが、短時間で公共の緊急対応力へ転換できる大きな潜在力を持つことを示している」と指摘した。
その冷静かつ迅速な対応の背景には、中国の低空経済を支える技術力がある。数字を見ても、その規模は明らかだ。中国の低空経済関連特許の出願件数は世界全体の7割以上を占め、世界最大の技術供給国となっている。2025年には低空経済の市場規模は1兆5000億元(約36兆2979億円)に達し、民間用ドローンの生産額は1761億元(約4兆2613億円)、登録ドローン数は328万機を超え、年間総飛行時間は4530万時間以上となった。
これらの数字はいずれも世界を大きく引き離す水準にある。空を飛び交うこうした「空の戦力」が、災害現場でいつでも投入できる救援力の基盤となっている。もっとも、こうした産業力は一朝一夕に築かれたものではない。長年にわたる技術開発と政策支援が積み重なった成果である。
2021年には低空経済が初めて国家計画に盛り込まれ、2023年には戦略的新興産業に位置付けられた。さらに2024年以降は、3年連続で政府活動報告に盛り込まれている。
制度面でも整備が進んだ。ここ2年で国家発展改革委員会に低空経済発展司が、中国民用航空局には低空安全司が新設され、戦略立案と業界監督の体制が強化された。災害救援分野でも、複数の部門が連携する仕組みが着実に整えられている。
中国民航大学(Civil Aviation University of China)臨空経済研究センターの曹允春(Cao Yunchun)主任は、「『飛べる』から『上手に飛べる』へ、さらに『いざという時に頼れる』へと発展した背景には、ガバナンスの不断の進化がある」と指摘する。政策による後押しと専門機関の整備が産業発展の余地を広げる一方で、守るべきルールも明確にし、実践を通じて基準や経験を積み重ねてきたという。
制度に柔軟性があるからこそ、技術は人命を守る場面でその真価を発揮できる。今回、ドローンが人をつり上げて救助した出来事が示したのは、技術の価値は目新しさにあるのではなく、災害が発生した時、一秒でも早く、一人でも多くの人へ希望を届けられるかどうかにあるということだ。
洪水はいずれ引いていく。しかし、産業の発展という壮大な物語以上に記憶されるべきなのは、豪雨と洪水に見舞われたその時、中国のドローンが人びとの命を守るため、確かにその背後に寄り添っていたという事実である。(c)CNS-三里河中国経済観察/JCM/AFPBB News
