中国、弾道 ミサイルを太平洋へ発射-和歌山県 潮岬南方や奄美群島東側の日本 EEZへの落下の可能性も

2026年7月6日午後0時1分(日本時間午後1時1分)、中国人民解放軍海軍の戦略原子力潜水艦1隻が、訓練用の模擬弾頭を搭載した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を太平洋の公海に向けて発射しました。

新華社通信によれば、ミサイルは予定していた海域に正確に着弾したとしていますが 詳細な着弾位置は明かされていません。

年次軍事訓練に沿った定例の措置であり、事前に関係国へ通告済みで国際法と国際慣例に合致していると中国側は説明しています。

一方で日本政府は、前日の7月5日に受けていた通告の名目が宇宙ゴミの落下に伴う区域設定であったにもかかわらず、発射のわずか1.5時間前になって初めて弾道ミサイル発射に関するものだと説明を受けたことを明らかにし、深刻な懸念を伝達したうえで再考を強く求めたとしています。

ニュージーランドやパプアニューギニアといった太平洋諸国も、発射の直前という極めて短い通告しか受けていなかったことが分かっています。

サマリー

2026年7月6日、中国海軍の戦略原子力潜水艦が太平洋の公海へ向けてSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を発射し、模擬弾頭が予定海域に着弾したと発表した
中国は前日の7月5日、日本の海上保安庁に対し「潮岬(和歌山県)南方等において宇宙ゴミ落下に伴う区域の設定を行う」と通告していたが、発射当日の7月6日午前11時30分ごろになって初めて、中国国防部が北京の日本大使館に対しこの区域設定が弾道ミサイル発射に関するものだと説明した
落下区域の一部には和歌山県潮岬南方や奄美群島東側の日本のEEZ(排他的経済水域)が含まれており、日本政府は中国側に深刻な懸念を伝達したうえで、日本上空の通過など安全を脅かすことがないよう再考を強く求めた
ニュージーランドは発射の数時間前に政府筋を通じて通告を受け、外相が南太平洋への長距離弾道ミサイル発射は地域の安定に逆行すると批判、非核地帯を定めるラロトンガ条約の趣旨に反するとの見解を示した。パプアニューギニアも駐在の中国大使から発射数時間前に直接連絡を受けている
発射は、オーストラリアとフィジーが新たな相互防衛条約に署名したのと同じ日に行われており、この条約への対抗という見方をオーストラリアメディアが関係筋の話として報じている。同時期には中国とロシアの海軍が山東省沖で年次合同軍事演習を開始してもいる
過去の発射実験は陸上の移動式発射台からの大陸間弾道ミサイル(ICBM)が中心だったが、今回は水中の戦略原子力潜水艦からの発射であり、探知が難しく核抑止の中核を担うSLBM運用能力を実演した点で技術的な意味合いが異なる

項目
内容

発射日時
2026年7月6日午後0時1分(中国時間)/午後1時1分(日本時間)

発射主体
中国人民解放軍海軍の戦略原子力潜水艦1隻

弾頭
訓練用の模擬弾頭(ダミー)

中国側の説明
年次軍事訓練に沿った定例の措置、事前通告済み、国際法・国際慣例に合致、特定の国を標的としたものではない

日本への通告
7月5日:宇宙ゴミ落下に伴う区域設定/7月6日11時30分ごろ:弾道ミサイル発射である旨の説明(発射の約1.5時間前)

落下予測区域
太平洋和歌山県潮岬南方、奄美群島東側を含み、日本のEEZの一部を含むも詳細は明らかにされていない

日本政府の対応
深刻な懸念を伝達、日本上空通過など安全を脅かさないよう再考を要求、警戒監視の徹底を表明

他国への通告
ニュージーランド:発射数時間前(政府筋)/パプアニューギニア:発射数時間前(駐在中国大使からの電話)

何が起きたか

新華社通信の報道によれば、中国人民解放軍海軍の戦略原子力潜水艦1隻は2026年7月6日午後0時1分、訓練用の模擬弾頭を搭載したSLBMを太平洋の公海へ向けて発射し、ミサイルは予定していた海域に着弾したとされています。

中国海軍はこの発射試験について、中国の年間軍事訓練に沿った定例の措置であり、事前に関係国へ通告済みで国際法と国際慣例に合致しており、特定の国や目標を標的としたものではないと説明しています。

この発射に先立つ経緯が、今回の事案を単なる定例訓練以上のものとして注目させています。

海上保安庁は7月5日、中国当局から潮岬南方等において宇宙ゴミの落下に伴う区域の設定を行うとの情報提供を受けました。この時点で示された区域の一部には、すでに日本のEEZが含まれていましたが、名目はあくまで宇宙ゴミの落下であり、弾道ミサイルという説明はありませんでした。

ところが発射当日の7月6日午前11時30分ごろ、北京にある日本大使館は中国国防部から、前日の区域設定が実は弾道ミサイル発射に関するものであったとの説明を受けています。

日本政府はこれに対し、中国の軍事活動が活発化していることへの深刻な懸念を伝達したうえで、弾道ミサイルの発射訓練が日本上空を通過するなど日本の安全を脅かすことがないよう再考を強く求めたとしており、関係省庁が連携して空域・海域の安全確保に努め、防衛省において警戒監視に万全を期すとしています。

日本以外の周辺国への通告も、直前になってからのものでした。

ニュージーランドは発射の数時間前に、南太平洋で長距離弾道ミサイルの発射実験が行われるとの警告を受けたとされ、同国のピーターズ外相は、核搭載可能なミサイルの南太平洋での実験は歓迎できず憂慮すべき事態だとしたうえで、南太平洋を核実験の場として使われることに関心はないと述べています。パプアニューギニアについても、駐在する中国大使から発射の数時間前に直接電話で説明があったことを同国外相が明らかにしています。

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過去の発射実験との違い-陸上発射から潜水艦発射への転換が持つ意味

中国による太平洋を標的にした弾道ミサイルの発射試験は、今回が初めてではありません。

象徴的な先例は2024年9月、中国人民解放軍ロケット軍が新型ICBMとみられる東風31AG(DF-31AG)を、フランス領ポリネシア近海の太平洋公海へ向けて発射した事案です。この時の発射は、中国にとって1980年以来約44年ぶりとなる、国際水域を標的にした長距離ICBMの公開実射試験でした。

今回の発射が技術的に注目されるのは、発射プラットフォームが陸上の移動式発射台から、水中の戦略原子力潜水艦(SSBN)に切り替わっている点です。

SLBMは衛星や早期警戒レーダーによる事前の探知が難しく、報復能力を担う核抑止システムの根幹をなすとされています。中国は巨浪2(JL-2)から巨浪3(JL-3)へとSLBMの近代化を進めているとされ、今回の発射はこうした水中発射能力全体の運用信頼性を示すものだったとみられます。

ミサイルシステム
主な発射プラットフォーム
推定最大射程
特徴

DF-31AG(東風31AG)
陸上起立式発射車両(TEL)
7,000〜11,700km
2024年9月に太平洋へ試験発射。高い不整地走破性を持つ陸上ICBM

JL-2(巨浪2)
Type 094型(晋級)戦略原子力潜水艦
7,200〜9,000km
固体燃料式3段ミサイル。多弾頭搭載が可能とされる

JL-3(巨浪3)
改良型戦略原子力潜水艦
10,000km以上
中国近海から発射しても米国本土を射程に収めるとされる最新SLBM

なぜこのタイミングだったのか-指摘されている複数の見方

今回の発射がなぜこの日に行われたのかについては、いくつかの見方が報じられています。

まず、発射と同じ7月6日は、オーストラリアとフィジーが新たな相互防衛条約オーシャン・オブ・ピースに署名した日でした。

この条約は、オーストラリアのアルバニージー首相が進める南太平洋地域での安全保障ネットワーク構築の一環とされ、他の太平洋島嶼国にも参加の余地を残す枠組みとされています。

オーストラリアメディアの報道では、この警告の経緯に詳しい関係者の話として、今回の発射試験がオーシャン・オブ・ピース条約への対抗とみられるとの見方が伝えられています。ただし、これはあくまで報道された関係者の見立てであり、中国自身は特定の国や枠組みを標的にしたものではないと説明している点は踏まえておく必要があります。

また、今回のSLBM発射は、中国とロシアの海軍が山東省・青島沖で年次合同軍事演習海上連合2026を開始したのと同時期に行われました。これについても、中露両国の連携を印象づける狙いがあったのではないかとの見方が一部で示されていますが、中国側からこの点に関する公式な説明はなされていません。

国際法上の論点

今回の事案では、国際法上の論点も浮上しています。国連海洋法条約(UNCLOS)第58条3項は、他国のEEZ内で活動を行う国に対し、沿岸国の主権的権利や経済的権益に妥当な考慮を払うことを義務づけています。

今回、日本の漁業や商業航行が活発なEEZを着弾区域に含めながら、発射のわずか1.5時間前まで宇宙ゴミの落下という異なる名目で通告されていたことは、この妥当な考慮義務との関係で議論を呼ぶ可能性がある点です。

またニュージーランドのピーターズ外相は、今回のミサイルが1985年に合意された南太平洋非核地帯条約(ラロトンガ条約)が定める非核地帯内に撃ち込まれたとしたうえで、中国の行動はこの条約の趣旨と目的に反するという見解を明確に示しています。

中国は1987年に同条約の関連議定書を批准していますが、今回のミサイルが訓練用の模擬弾頭であったとしても、本来は核搭載可能な長距離戦略ミサイルである以上、条約の精神に反するという批判がニュージーランドから出ている形です。これに対し中国側は、発射は国際法および国際慣例に合致していると主張しており、双方の見解には明確な隔たりがあります。

日本が検討すべき対応

今回のような、名目を偽装した通告と実際の軍事行動が組み合わさる事案への対応として、いくつかの方向性が論点として挙げられています。

1つ目は、中国側からの脅威に対応した、独自の早期警戒監視(ISR)能力の強化です。

当サイトでも以前、スタンドオフ防衛能力を巡る日米のドクトリンを取り上げましたが、宇宙領域把握や海洋監視システムを含む独自の探知能力の重要性は、今回のような事案でも同様に指摘できます。

2つ目は、ニュージーランドやパプアニューギニア、オーストラリアといった、今回同様に直前通告しか受けられなかった太平洋諸国との間で、情報共有の枠組みを構築することです。

3つ目は、EEZ内での軍事活動における妥当な考慮義務について、通告の具体的な時間基準を国際的なルールとして明文化していく外交努力です。

4つ目は、宇宙ゴミの落下という名目から弾道ミサイルへと説明が変わるような事態を想定し、国民保護のための警戒情報システムの判断アルゴリズムを見直すことです。これらはいずれも短期間で実現できるものではありませんが、中国の海洋・核戦略における発信の仕方そのものが変化しつつあることを踏まえた、中長期的な検討課題だといえます。

出典

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投稿者:三村

セキュリティ製品を手がける上場企業にて、SOC(セキュリティオペレーションセンター)運営およびWebアプリケーション脆弱性診断の営業に8年間従事。その後、システムエンジニアへ転身し、MDMや人事系SaaSの開発に携わる。


8年の実務経験と開発者としての知見を活かし、「セキュリティ対策Lab」ではダークウェブ調査、セキュリティインシデントの分析、および高度なセキュリティ対策解説の執筆・編集を統括しています。


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