三井記念美術館(東京・日本橋)で、特別展「京都・真如しんにょ堂どうの名宝」が7月4日開幕しました。京都の龍谷大学龍谷ミュージアムに続く巡回です。
真如堂は京都市左京区にある天台宗の寺院で正式名は「真正極楽寺」。984年創建の古刹に伝わる数々の名宝と、関連作品を一堂に集めた展覧会です。

真如堂は紅葉やあじさいの名所としても知られていますが、1000年以上にわたり多くの信仰を集めてきた歴史や宝物の全貌は、特に東日本の人たちにはイメージしにくいかもしれません。実は、真如堂は、江戸に呉服店「越後屋」を開いた三井家元祖、三井高利たかとしの時代から三井家の菩提寺でした。真如堂と三井家との関係もひもとかれます。

報道内覧会で行われた清水眞澄・同館名誉館長によるレクチャーの内容をお届けします。

運慶発願の国宝「法華経」
国宝 法華経(運慶願経)珎賀筆 鎌倉時代・寿永2年(1183)真正極楽寺 真如堂 【展示期間】前期展示:巻第三・五 後期展示:巻第七 

1000年以上の歴史をもつ寺院のために幅広い時代やジャンルの仏像などが出展されていますが、前半のハイライトは国宝「法華経(運慶願経うんけいがんきょう)」です。
鎌倉時代の天才仏師として知られる運慶が20代から30代の若い頃に遺した写経です。運慶が仏像ではなく「写経」という形で自らの信仰を形にした極めて異例の宝物で、近年修復を終え非常に美しい状態で見ることができます。
巻末には奥書があり、寿永2年(1183年)に運慶が発願した旨とともに、「女大施主」「阿古丸あこまる」「執筆僧珎賀」という名が記されています。「女大施主 阿古丸」は運慶の妻の名前とされていますが、近年の研究では、「女大施主」が運慶の妻、「阿古丸」は息子である仏師・湛慶たんけいの幼名とする説も出されています。
霊水で知られる比叡山・三井寺・清水寺からわざわざ水を取り寄せて墨をすり、一行書くごとに結縁者とともに3回礼拝する厳格な方法でこの写経を完成させました。「運慶の並々ならぬエネルギーが込められた奇跡の名宝」と清水名誉館長は説明します。

仏像のミッシングリンク 10世紀
10世紀~11世紀頃の各地の仏像が並ぶ

続いての注目は、真如堂のご本尊(秘仏のため本展では写真をパネル展示)と同時期(平安時代中期)の10~11世紀頃に作られた、さまざまな寺院の木彫仏約10体です。
平等院鳳凰堂で知られる仏師定朝じょうちょうが平安後期に完成させた「定朝様じょうちょうよう」の先駆にあたり、これらを一列に並べて比較できること自体が、日本の彫刻史において特筆すべき画期的な試みとのこと。

新出の鎌倉時代の2体の仏像
(右)阿弥陀如来立像 院蓮作 鎌倉時代・建長5年(1253)真如堂一山 法輪院(左)阿弥陀如来立像 鎌倉時代・13世紀 真如堂一山 喜運院

さらに本展では、近年の調査で鎌倉時代の仏像であることが”新発見”された真如堂の塔頭たっちゅうに伝わった、鎌倉時代の阿弥陀如来立像2体も大きな見どころです。

1体は「法輪院」の本尊で、頭部と身体を前後に割って中をくりぬく「割矧ぎ造り」で丁寧に作られています。修理の際に胎内をファイバースコープで調査したところ、頭部と胴体の内部から墨書銘が発見されました。これにより、建長5年(1253年)に、「院派いんぱ」の仏師・院蓮によって作られたことが判明しました。

もう1体は「喜運院」の本尊で、少し面長で頬がふっくらとした肉感的なお顔が特徴です。この像の最大の特徴は、かすかに開いたお口の中に白い歯が表現されているところ。「仏像が生きてそこにいる」という生身仏しょうじんぶつ信仰をリアルに表現した極めて特殊な作例とのことです。

(読売新聞美術展ナビ編集班 岡本公樹)

特別展「京都・真如堂の名宝」

会場:三井記念美術館(東京都中央区日本橋室町2-1-1三井本館7階)

会期:2026年7月4日(土)~8月30日(日)
前期7月4日~8月2日/後期8月4日~8月30日

開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)

休館日:月曜日(但し7月20日は開館)、7月21日(火)

観覧料:一般1,500円/大学・高校生1,000円/中学生以下無料/70歳以上1,200円(要証明)
※障害者手帳をご呈示いただいた方、およびその介護者1名は無料(ミライロIDも可)

アクセス:東京メトロ銀座線・半蔵門線「三越前」駅A7出口徒歩1分/銀座線・東西線「日本橋」駅B9出口徒歩4分

詳細は、三井記念美術館公式サイトまで。

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プレビュー

本展は、真如堂をテーマとする初めての展覧会です。真如堂に伝わる仏像・絵画・経典をはじめとする貴重な文化財を一堂に会し、その歴史と信仰の歩みを見ることができます。

京都・洛東に所在する天台宗の古刹、真正しんしょう極楽寺ごくらくじ 真如堂。その創建は平安時代にさかのぼり、比叡山の戒算上人が常行堂の阿弥陀如来像を東三条院の離宮へ遷したことに始まります。 本尊は比叡山から移安した阿弥陀如来立像で、開創以来、篤い信仰を集めてきました。

本展では、真如堂一山の法輪院・喜運院に伝来する鎌倉時代の阿弥陀如来立像など、多くの作品が寺外初公開となります。さらに、真如堂の創建期にあたる10世紀後半から11世紀初頭の造仏界に着目し、比叡山および都で制作された仏像の数々も披露されます。あわせて、同寺が三井家の菩提寺として深い関わりを有してきたことから、三井家ゆかりの肖像や絵画などにも光が当てられます。

展示構成と主な展示作品
展示室1 真如堂の歴史と三井家1

真如堂は、平安時代に比叡山の戒算上人によって開かれた天台宗の古刹です。本尊の阿弥陀如来立像は比叡山から移安したとされ、慈覚大師じかくだいし円仁えんにんの自刻と伝えられています。応仁の乱によって伽藍を焼失し、その後も移転や火災を繰り返しましたが、江戸時代に現在地で再興されました。

とりわけ江戸時代には、三井家の元祖である三井高利夫妻が檀家となったことを契機に、真如堂と三井家は深い関わりを持つようになります。

展示室1では、真如堂の歴史を伝える書画をはじめ、三井高利夫妻ら三井家の肖像彫刻などが展示されます。

三井高利夫妻坐像 江戸時代・17世紀 真正極楽寺 真如堂
展示室2 国宝「法華経(運慶願経)」

展示室2では、国宝「法華ほけ経きょう(運慶うんけい願経がんきょう)」が展示されます。鎌倉時代の仏師・運慶が発願した法華経で、「運慶願経」として知られています。現存する七巻(巻第二~八)のうち六巻を真如堂が所蔵しており、本展では巻第三・第五・第七(前期後期展示替え)が公開されます。

国宝 法華経(運慶願経)巻第七 珎賀筆 鎌倉時代・寿永2年(1183)真正極楽寺 真如堂(画像提供:京都国立博物館)〔展示期間8月4日~30日〕
展示室3-4 真如堂の本尊と同時代の仏像

真如堂の本尊・阿弥陀如来立像は、本堂建立時の正暦5年(994)頃の作とされ、現存する阿弥陀如来立像として最古級の作例に位置づけられています。通例の阿弥陀如来像とは異なる印相や、足裏に足柄を造り出さない特殊な構造を備えることでも知られ、後世には彫刻や絵画による模刻・模写像が制作されました。

また、真如堂本尊が造立された10世紀後半から11世紀初頭は、平安時代前期にみられる重厚な作風から、穏やかな「和様」へと移行していく時期にあたります。本展では、本尊の模刻像をはじめ、10世紀から11世紀にかけて都や比叡山に伝来した仏像を展観し、この時期の仏像にみられる造形表現の諸相に迫ります。

重要文化財 薬師如来立像 平安時代・11世紀 京都・因幡堂平等寺(画像提供:東京国立博物館 Image : TNM Image Archives)
重要文化財 毘沙門天立像 平安時代・11世紀 京都・誓願寺(画像提供:京都国立博物館)
寺外初公開!鎌倉時代の阿弥陀如来立像

真如堂山内寺院の法輪院に伝来する阿弥陀如来立像は、近年の調査によって、像内から仏師「院蓮いんれん」の名と建長5年(1253)の制作年を記した墨書銘が発見されました。また、真如堂山内の喜運院に伝来する阿弥陀如来立像は、鎌倉時代の作で真如堂本尊との構造上の共通性も指摘されています。これら二体はいずれも寺外初公開となります。

阿弥陀如来立像 院蓮作 鎌倉時代・建長5年(1253)真如堂一山 法輪院 (画像提供:美術院)
阿弥陀如来立像 鎌倉時代・13世紀 真如堂一山 喜運院
真如堂伝来の仏教美術

真如堂には、彫刻や絵画をはじめとする多彩な仏教美術が伝来しています。その内容はきわめて豊かで、天台宗の古刹ならではの天台系密教に関連する作例が多くみられるほか、本尊にちなみ、阿弥陀如来に関する作品が数多く含まれていることも大きな特徴です。ここでは、真如堂に伝わる仏像・仏画の数々が一堂に会します。

展示室5 真如堂縁起

『真如堂しんにょどう縁起えんぎ』は、真如堂創建の由来や寺の変遷が描かれた三巻本の絵巻です。巻下の奥書によれば、真如堂住持・昭淳の発願により、定法寺公助が詞書を起草し、絵は掃部助久国が担当して、大永4年(1524)8月に完成したことが知られます。本展では、このうち中巻・下巻を展示するとともに、海北友竹筆と伝わる江戸時代の模本三巻もあわせて見ることができます

このほか展示室5では、室町三井家二代の継室寿月が、真如堂の阿弥陀如来像を模刻した経緯とその霊験を描いた『真如堂しんにょどう尊像そんぞう模刻霊感記もこくれいかんき」も展示されます。

真如堂尊像摸刻霊感記 下巻 詞:寿月筆 三井高興識 江戸時代・元文3年(1738)三井記念美術館
展示室7 真如堂伝来の書画

展示室7では、真如堂に伝わるさまざまな書画をご紹介します。なかでも、足利義輝、豊臣秀吉、徳川家康といった歴史上著名な人物の肖像画を展示するほか、近年の調査によって新たに確認された、豊臣秀吉に関わる古文書(太閤検地帳・朱印状)も特別展示されます。

また、真如堂では本尊の脇侍として不動明王が祀られていますが、この不動明王は、平安時代の陰陽師・安倍晴明あべのせいめいの念持仏であったと伝えられています。さらに、『真如堂縁起』には安倍晴明にまつわる逸話が記されており、本展ではその場面を描いた作品にも光が当てられます。

足利義輝像 室町時代・16世紀 真正極楽寺 真如堂
豊臣秀吉像 江戸時代・17世紀 真正極楽寺 真如堂
安倍晴明蘇生図 江戸時代・17世紀 真正極楽寺 真如堂
真如堂の歴史と三井家2

真如堂は、江戸時代に三井家の元祖である三井高利が菩提寺と定めて以降、三井家と深い関係を築いてきました。三井家からは、堂宇・仏像・法具をはじめ、書画など数多くの品々が寄進されています。さらに戦後は、三井グループ各社の社長交流組織である二木会にもくかいが中心となって、戦前の三井家の歴史が今日まで受け継がれています。本展では、そうした真如堂と三井家との歴史的関係のなかで寄進された作品のうち、主に絵画作品が会場に並びます。

虎図 三井高福筆 明治時代・19世紀 真正極楽寺 真如堂

平安時代から開創され、人々の篤い信仰を集めてきた真正極楽寺 真如堂。本展は、その長い歴史と信仰の歩みを、選び抜かれた貴重な文化財とともに東京・日本橋の地で味わえる貴重な機会となります。これまで寺外にほとんど出ることのなかった寺外初公開の仏像たちや、運慶ゆかりの国宝「法華経」、歴史上の著名人たちの肖像画、精度三井家との深い絆を語る作品群など、みどころの多い展示内容となっています。この夏、極楽浄土へのあこがれと美への探求が交差する特別な展示空間へ、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。(美術展ナビ)

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