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中国軍や準軍事組織による台湾周辺での活動は、一時的な武力誇示から恒常的な展開へと様相を変えつつある。台湾や南西諸島に地理的に近接する日本にとって、この変化は看過できない意味を持つ――。東京国際大学国際戦略先端技術研究所の准教授で、インド太平洋地域の安全保障・防衛作戦を専門とする山口亮氏はこう指摘する。
世界有数の海上交通路が台湾周辺海域を通過し、台湾の半導体生産も同地域に集中している。中国の活動が拡大する海域で混乱が生じれば、日本領域で一発の銃弾も撃たれなくても、日本経済やサプライチェーン(供給網)は深刻な打撃を受けかねない。
山口氏はJAPAN Forwardのインタビューで、中国の活動の変化が日本の防衛運用に何を意味するのか、また近年の防衛政策が進展しているにもかかわらず、日本にはなお埋めるべき備えの空白が残されている理由について語った。
「常態化」する中国の展開
台湾で安全保障政策を統括する総統府諮問機関、国家安全会議は5月、第1列島線周辺に中国船舶100隻超が展開していると報告した。山口氏は、重要なのは数そのものではなく、その展開の性格だと指摘する。もはや散発的な威嚇ではなく、持続的な態勢へと移行しているというのである。
「中国は自らの即応態勢に一段と自信を深めている。その結果、第1列島線だけでなく、第2列島線に対しても圧力を強めることが可能になりつつある」
もっとも、この動きを人民解放軍(PLA)だけで捉えるべきではないとも強調する。中国海警局を擁する人民武装警察部隊や海上民兵も同様に活発に活動しており、中国のプレゼンスは東シナ海から南シナ海、さらには南太平洋へと広がっている。
「中国は現状変更を着実に進めている。こうした活動は今後、日常的なものになるだろう。個別事案ごとに対応するのではなく、より先手を打つ形で備えなければならない」
その変化は昨年12月に実施された「正義使命-2025」演習にも表れていた。演習海域は台湾海峡にとどまらず、台湾東方や南東海域にまで拡大し、中国の作戦行動の広がりを鮮明に示した。
求められる「寸断」への備え
山口氏は、中国の狙いを「直接攻撃」ではなく「機能の寸断」という観点から捉えるべきだと指摘する。中国が重視しているのは、上陸作戦そのものよりも、日本や台湾、さらには同盟・友好国の部隊が行動し、物流を円滑に維持する能力を低下させることにあるとの見方を示した。
台湾が世界有数の半導体生産拠点であり、台湾海峡や東シナ海、南シナ海を膨大な物流が行き交っている現状を踏まえれば、これらの海域で深刻な混乱が生じた場合、その経済的衝撃は近年のホルムズ海峡情勢を上回る可能性すらあるという。
海上封鎖や船舶への立ち入り検査、危険海域の設定といった具体的なシーレーン遮断のシナリオについて危険度の順位付けを求められると、山口氏は「現時点では予測できない要素が多い」として特定のケースには言及を避けた。その上で、日本はどの事態が現実化するかを見極めてから対応するのではなく、経済活動や物流の寸断を恒常的なリスクとして織り込んで備えるべきだと強調した。

「初動対応」の課題
日本の防衛力について山口氏が課題として挙げたのは、新たな装備品の導入以上に見落とされがちな「初動対応」である。有事の発生直後には、南西諸島に展開する日米部隊の通信網や補給網が最優先の攻撃対象になる可能性が高いと指摘。現地部隊への指揮命令系統と補給線を維持する能力は、個々の兵器システムと同等、あるいはそれ以上に重要だと訴えた。
また、日本が依然として米国に大きく依存している現実にも言及した。とりわけ反撃能力などの打撃戦力については「米国の存在なしに日本が事態に対処するのは極めて厳しい」とし、日本単独で対処することは極めて困難だとの認識を示した。
一方で、日米同盟は一方的な依存関係ではなく相互補完の関係にあるとも強調した。日本は自国周辺海域で潜水艦戦、対潜戦、機雷戦に高い能力を有しており、こうした分野では米軍も日本の戦力を必要としているという。
もっとも、こうした補完関係を有事に十分機能させるには制度面の整備がなお不可欠だと指摘する。日本は2025年3月に統合作戦司令部を発足させたが、山口氏はこれを「出発点」にすぎないと位置付ける。統合作戦能力の向上や後方支援、情報共有の実効性を高めるには、今後5~10年にわたる継続的な取り組みが必要になるとの見通しを示した。
最大の弱点は「民間のレジリエンス」
山口氏は、日本の安全保障上の最大の弱点として「民間のレジリエンス(強靱性)」を挙げた。特に、有事における基本的な対応手順に対する国民の理解不足、国と自治体の連携のばらつき、そして自然災害への対応経験が武力攻撃事態にもそのまま通用するとの思い込み――この三点を最も懸念しているという。
「自然災害への対応に対する日本の自信を、そのままこうした事態に当てはめるべきではない」。山口氏はこう述べ、武力攻撃事態は地震や台風とは規模も性質も本質的に異なると強調した。
都道府県や市町村、消防、警察などの連携強化に向けた最近の取り組みについて評価を求められると、「現状は、まだ『コップの水は半分空いている』と言わざるを得ない」とし、慎重な見方を崩さなかった。
その理由として、多くの自治体では防衛問題を依然として政治的に踏み込みにくいテーマ、あるいは自らが担うべき課題ではないと受け止める傾向が残っていると指摘した。
山口氏は、中国による台湾周辺でのプレゼンス拡大と、日本自身の備えという二つの課題は、ともに「一度きりの危機」ではなく、「継続的な即応態勢」の問題であるという一点で結び付いているとみる。
「多くの人は装備やプラットフォームばかりに目を向ける。しかし、防衛力にとって重要なのは、保有する装備を実際に効果的に運用できる能力でもある」。その能力こそが、新たな兵器システムの導入と同様、日本の抑止力と危機管理能力を左右する重要な要素になると訴えた。
筆者:ダニエル・マニング(JAPAN Forward記者)
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